45章 勇者と魔王 25
俺と『魔王』との魔力と魔力のぶつかり合いは、すでに1時間を超えていた。
白い光と黒い柱の押し合いは、まだ互いに拮抗しているように見える。
ただ、奴が惑星上から魔力を供給されているのに対して、俺の方は事前に用意した魔力充填槽のストック頼りだ。その充填槽もそろそろヤバい感じではある。
その分俺自身の魔力は使っていないので、そちらは回復しつつある。俺の魔力回復量は当然ながら並ではないので、充填槽がなくなるまでに全回復はするだろうが、さらにそれが切れれば終わりである。
「よくぞここまで余に対抗しうるものだ。貴様はどこまでも余の想像を超えてくる」
激しい魔力のぶつかり合いの中でも、『魔王』の声は良く聞こえた。
不思議なものだが、勇者と『魔王』というのはそういうものなのかもしれない。
「お前を倒すための存在だからな。お前を超えるようになってるんだよ」
「しかしこの度はそうはゆかぬ。余は貴様が決して超えられぬ存在となったのだ」
「その執念には感服してやるさ。まさか敵の姿になってまで恨みを覚えようなんて普通思わないからな」
「貴様は余が乗り越えるべき唯一の異物なのだ。その貴様をここで消滅させ、余は全てを支配する」
「できればいいんだけどな」
と言いながら、俺は『空間魔法』から新しい魔力充填槽を取り出してホルダーに収める。
10メートルくらい下の床には、空になった魔力充填槽が百以上転がっているはずだ。念のために用意していた魔力充填槽だが、まさか全部使い切るレベルの力比べになるとは思ってなかった。
青奥寺たちは俺の言ったことをやってくれているだろうが、さすがに勇者艦隊だけでは数が足りなかっただろうか。
そんな不安が浮かんできたりしたところで、遂に最後の魔力充填槽が空になってしまった。
一応俺自身の魔力は回復したのだが、俺はここで重大な選択を迫られた。その選択というのは、青奥寺たち勇者の仲間を信じて粘るか、それとも回復した魔力をすべて使った一発に賭けるかである。ただその一発はあまりに分が悪い。というよりほとんど通用しないだろう。
それにまあ、仲間を信じるって決めたからな。そこはもうブレるところではない。
「どうした勇者、魔力に揺らぎが見えるぞ。もしや充填槽が切れたか」
「ああそうだ。だから最後の賭けに出ようか悩んでいるところだ」
「残りの魔力を全開放しての一撃か? なるほど、貴様にはもはやそれしか残っておるまいな」
「どうせ対応策は練ってあるんだろ?」
「当然だ。だがその余興に付き合ってやってもよいぞ。結果はわかり切っておるからな」
「だよな。じゃあこのままだ」
「理解できぬな。これを続ければ余計に結果は見えているだろうに」
「さっきも言ったが、仲間を使い捨てにするお前に勇者を理解することは永遠にできないさ」
「ならば貴様を消滅させ、理解する必要そのものをなくすまで」
『魔王』はそう言って、さらに魔力の圧を高めてきた。俺もそれに対抗して圧を高め対抗する。
さてこれで、もってあと30分というところか。
まったく、こんな気の長い戦いをやるのは初めてだ。まあある意味星を相手にしているようなものだから仕方ない。
「むふぅ……力が満ちてきた」
しかもいきなり『魔王』が妙なことを言い出した。さらに魔力の圧が高まり、白と黒の拮抗がだんだんと黒に傾いてくる。
ここに来てそりゃないだろ、と言いたくなるが、なんとかこっちも踏ん張って耐えるしかない。
「くくっ、もう少しだ、もう少しで余は貴様という軛から自由になる」
魔王の口調は歓喜の色を隠せなくなっている。コイツが感情をそこまで表にするのは初めて見る。よほど俺を排除できるのが嬉しいらしい。
それなら見ただけで気がおかしくなるレベルのトラウマになるほど嫌わせたいものであるが……さあ、果たしてどうなるか。
ま、今やっているのは決して分の悪い賭けではないから、多分大丈夫だろう。




