45章 勇者と魔王 21
「確かに前より強くなってるみたいだな。それがお前の完全な姿か」
「貴様もな、勇者。この程度で倒せるとは元より思ってはおらぬが、前の余の記憶はまるであてにならぬようだ」
さらに何十回と交差して、俺と『魔王』は互いの魔力をぶつけ合った。もはや剣技もスキルもなにもない。ただどちらの魔力がどちらの魔力を圧倒するのか、行われているのはそんな原始的な力比べである。
「キリがないな。ここらで一発必殺技を出し合うか」
「いいだろう。我が力を知るがよい」
俺たちは互いに一度距離を取ると、『聖剣天之九星』と『邪剣天之九星』にそれぞれ魔力を流し込んだ。どちらの刀身も正視できないほどの光を放つ。俺の剣がまとうのは濁りのない純白の輝き、『魔王』の剣がまとうのは鮮やかなほどの真紅の輝き。
互いが剣を振り上げると、刀身から吹き出す光は天を衝くほどに吹き上がる。
「チイィィッ!!」
「ヌゥッ!!」
寸毫の差もなく、俺たちは高速で突っ込みながら剣を振り下ろす。山一つ余裕で消しとばせるほどの力が交錯し、白と赤の光が混じり合って周囲の空間を塗りつぶす。
さすがに俺でも直撃したらタダでは済まない魔力の爆発、それを『隔絶の封陣』でギリギリ防御するが、間に合わずにダメージを受けて左腕が千切れかけた。すぐに『エクストラポーション』を飲んで回復する。
光が収まると、少し離れたところに『魔王』の姿が変わらずあった。俺と同じように多面体のバリアを張っているが、『魔王』のそれは『隔絶の封陣』ほど完璧ではない。奴の着ている鎧はかなりボロボロになっていた。
「やはりその魔法が厄介だな、勇者よ」
「お前と対等に戦うために編み出された魔法だからな」
ある意味勇者最大の武器である『隔絶の封陣』だが、実は俺が召喚された時代でも、これがどこから来た魔法技術なのかは忘れさられていた。ただ勇者に『隔絶の封陣』を与える儀式のみが継承されているだけで、しかも前の勇者が死なないと次の勇者に与えられない仕様になっていた。
互いに防御魔法を解いて、再び剣を構える。
だがよく見ると、『魔王』が手にしている『邪剣天之九星』は刃こぼれが目立っていた。もちろん俺の『聖剣天之九星』には傷一つない。所詮本物と偽物では差があるということだ。
「ゆくぞ」
「ああ」
再び始まる剣と剣、勇者と魔王のぶつかり合い。
何十何百と繰り返されるはずのその戦いは、しかし唐突に終わりを迎えた。
そもそも俺の『聖剣天之九星』は再生妨害効果付きである。僅かずつ蓄積されていたダメージを、『魔王』は十分に回復できないでいた。
さらに偽物の『邪剣天之九星』が、本物の力に及ばず、半ばからぽっきりと折れたのだ。
「ヌウッ!?」
「そうなるよな」
『魔王』はそれでも拳に魔力を溜めて殴りに来たが、その前に『魔剣ディアブラ』が『魔王』の鳩尾に突き刺さっていた。
動きが止まったところを『聖剣天之九星』が一閃し、『魔王』の首を刈り取った。
さすがに自分のそっくりさんの頭がすっ飛んでいく様子を見るのは気分が悪い。が、とりあえずこれでいったんの決着だ。
俺は『ディアブラ』に串刺しになったままの『魔王』の身体をさらにバラバラに切り刻んで、そして様子を見守った。
バラバラになって床に散らばった『魔王』の身体は、30秒くらい経っても消えなかった。
試しに魔法で火葬してみたが、それでも燃える様子はない。勇者の『隔絶の封陣』と同じく、『魔王』独自の不思議能力なのだろうか。
さらに待っていると、バラバラになった身体がそれぞれ生き物のようにもぞもぞと動き出し、集まって無秩序にくっつき始めた。刎ね飛ばした頭部までがころころと転がってくる様子は、冗談にしてもセンスがなさすぎる。
ひと塊になった『魔王』の身体は着けていた鎧や衣服もろともドロドロと溶け始め、『魔導廃棄物』みたいな赤黒い不定形な物質に変わっていった。
その赤黒いスライムみたいな物体は徐々に体積を増していくと、徐々に上の方へと盛り上がっていって、身長3メートルを超える巨人の形を取り始めた。
全身は尖った装飾の多い板金鎧みたいな造形に、頭部は兜みたいな形になり、側頭部からは天へ伸びる長くねじれた角が飛び出してくる。
両手の先にはさらに赤黒いスライムが延びていき、それぞれ刃渡り1メートル半はありそうな太い剣に変化した。
そしてその赤黒い巨人像は、形が整うと表面が金属的な質感に変化し始めた。ほどなくして現れたのは、漆黒に赤い縁取りの板金鎧を着た巨人であった。
金属の光沢を持った黒い兜のバイザーの奥には、赤い光が目の代わりに2つ輝いていて、俺を上から見下ろしている。
しかも背中にはいつの間にか赤黒いマントが翼のように翻っていて、俺が良く知る魔王の真の姿そのものになっていた。
いやよく見ると鎧のディテールが増していて、棘みたいな装飾が増えている気がする。肩パーツの盛り上がりも大きいし、全体的に赤い血管みたいな模様も増えていて、いかにもパワーアップしましたみたいな見た目である。
「やっぱりその格好が似合うな、魔王」
「それはそうであろう。これが余の真の姿ゆえな」
兜の奥から流れてくる声はわずかに抑揚が強くなっていて、『魔王』が高揚していることが感じられた。その声にも強い魔力が含まれている。
「ま、俺の姿をやめてくれたのはありがたいわ。さすがにいい気分じゃないからな」
「それはこちらも同じよ。仇敵の姿から解放されて、余もこの世に生まれ落ちて初めて清々しい気分になっておるわ」
「そりゃお互いラッキーだな。さて、じゃあ2回戦いくか」
俺は魔力を練り直し、全身と両手の剣に行き渡らせる。『天之九星』と『ディアブラ』は、ともに再び刃を震わせてそれに応える。どちらも真の『魔王』を前にして、やる気をさらに増しているようだ。
「来るがいい、勇者よ」
『魔王』が両手の剣を構えると、鎧の隙間から赤黒いオーラがプシューッと煙みたいに吹き出してくる。一年前はこれにちょっとビビッたもんだ。
「お先に」
俺は『高速移動』『感覚高速化』を全開にして『魔王』に斬りかかる。右の『天之九星』、左の『ディアブラ』を縦横無尽に振り回し、『魔王』のあらゆる部位を狙って攻撃を仕掛ける。
体格差があるのでまず狙うのは足や腕といった末端だ。もちろん隙があれば急所に刃をねじ込ませるが、向こうの方がリーチがあるのでまず届かない。
その前に『魔王』もさすがの剣技で、俺の斬撃をすべて黒い大剣で弾いてくる。もちろん剣と剣がぶつかるたびに、膨大な量の魔力が爆発みたいにスパークする。『感覚高速化』スキルを使ってもギリギリ対応できる位のスピードでの打ち合い。向こうも最初から殺しにきているので、もちろん手加減などしていない。
俺の一撃をワザと鎧で受け止めて、鎧の一部を切り取らせる代わりに『魔王』は無理矢理反撃を差し込んでくる。
そこから始まるのは、さっきよりも遥かに苛烈な剣の差し合いだ。『天之九星』と『ディアブラ』と、黒い二本の大剣が嵐のように暴れ回って互いを削りあう。
いつの間にか俺も『魔王』も『高速移動』だけでなく『機動』魔法まで併用して、空中での斬り合いを始めていた。
縦横無尽に動き回り、すれ違うたびに剣を数十と合わせる。刃は相手の身体に触れずとも、剣を合わせた時の爆発によって互いにダメージを受けまくる。
互いの『再生』スキルもさっきから常時全開状態である。




