45章 勇者と魔王 19
青奥寺たちと『竜人』との戦いは、いつの間にか終わっていた。
俺のところに歩いてくる青奥寺たちはもちろん全員揃っている。ただ、後ろに並ぶアンドロイド兵は結構やられたらしく一目でわかるくらいには数が減っていた。さすが魔王親衛隊相手に無傷とはいかなかったようだ。
「先生、ついに『魔王』のところに行くんですね」
青奥寺が、正面から俺の顔を見据えてくる。
同じく双党や新良、レア、雨乃嬢、絢斗、三留間さん、宇佐さん、カーミラ、リーララ、そしてルカラスも真剣な顔を向けてくる。
「そうだな。どうやら向こうは準備万端で俺を迎えてくれるみたいだ」
「ご一緒できますか?」
「さすがに無理だな。わかるだろ、ヤバい感じの圧が高まってきてるのが」
「……そうですね。さすがにわかります」
そう、少し前から、この部屋の奥からとんでもない圧の気持ちの悪い魔力が噴き出してきていた。
俺にとっては半年ぶりに感じる『魔王』の気配である。しかし今感じるそれは、記憶にあるものより3倍くらいは強くなっていた。
もちろんこれは今の奴の全力ではないだろう。となるとここから先、ルカラスですら連れて行くことはできない。
「というわけで皆はここまでだ。なにがあるかわからないからここから退去して、『ウロボロス』に戻ってくれ。できればこの『魔王城』からも遠ざかっておいて欲しい」
「しかしそれでは先生が」
「俺はいざとなったら『隔絶の封陣』があるから大丈夫だ。終わってから迎えに来てくれればいい」
俺がそう言うと、青奥寺を始め全員がなにか言いたそうな顔をした。
彼女たちが一緒に戦いたいと考えているのは言わなくてもわかった。しかしさすがに、この先の戦いに連れていくのは不可能だ。
ルカラスが、大きく息を吐きながら前に出てきた。
「ハシルよ、必ず戻ってくるのだぞ。お前を待っている者は多いのだからな」
「そりゃもちろんだ。さっさと片づけて戻るさ。俺だってまだやりたいことは残ってるしな」
「ほう、そのようなものがあるとは初耳だな。この場でそれを話してみるのはどうだ? 戻ってきたら我がかなえてやろう」
「いや、やりたいことなんていっぱいありすぎて言い切れんわ。戻ったらひとつずつやっていくさ」
と言ったが、例えば『彼女』などという幻の存在を探すのは、勇者的には魔王討伐よりハードルが高いんだが……まあそれは後回しだな。
なんてこの期に及んで悲しいことを考えていたら、リーララが、
「おじさん先生、もしかして彼女を作りたかったとか考えてないよね」
などと言ってきて、俺はつい「なんでわかるんだよ」と答えてしまった。
すると、その場にいたアンドロイド兵を除く全員が、すごく変な顔を――なにか、とてつもなく可哀想な人間を見るような、それでいてなにか信じられないものを見るような、そんな虚無な顔をした。
「……あ~、まあ、先生はそういう人ですよね~」
「分かっていたことだから仕方ない。これから頑張ればいい」
「ちょっと難攻不落の要塞という感じがしまぁしたが、大丈夫でぇすかね……」
双党と新良とレアがそんなことを言い、雨乃嬢と宇佐さんが、
「まさかここにきて先生自身に先生を寝取られるとは……」
「最初から気付かれていないのは寝取りにすらならないでしょう」
と一般人には難しい話をしていて、リーララとカーミラは、
「まあ逆にわたしとか意識されてたら気持ち悪いのは確かだけどね~」
「私は結構アプローチしていたと思うんだけどぉ、全然本気にしてないのよねぇ」
と肩を竦めたり溜息をついたりして、さらに絢斗と三留間さんが、
「まあ、僕たちが意識されないのは仕方ないかな。数年後が勝負だね」
「それまでにずっと一緒にいることが大切ですね!」
と気合を入れていた。
最後にルカラスが、
「ハシルのそういう情けないところは我が正妻としてなんとかしてやるから安心せよ」
などと謂われのない悪口を言ってくるが、それに対して皆がうなずいているのに俺は少しだけショックを受ける。
というか、なんで魔王との決戦前に勇者パーティのメンバーから精神攻撃を食らわないとならないのだろうか。
その悲しい気持ちが思い切り顔に出ていたらしく、青奥寺が、
「先生は今なにを言われているのかわからないと思いますが、必ず帰ってきて確認してください」
と、極めてわかりづらい励まし(?)を言ってくれた。
ともかく、背後の『魔王』の気配が強まりまくっているのでここまでだ。
「じゃあ俺は行く。皆はこのまま『ウロボロス』に戻ってくれ。ルカラス、この後のリーダーは任せるぞ」
「うむ、任せよ。ではハシル、さっさと『魔王』を倒して戻ってくるのだぞ」
「ああ、わかってる。それから皆には念のために別の仕事を頼みたいんだが――」
俺はそこでちょっとした頼みごとをして、皆の了解を取ってから、彼女らの顔をもう一度見回した。
さっきの妙な雰囲気はさすがに消えて、俺を見る目は信頼にあふれている。
俺は回れ右をして、『魔王』の気配が溢れ出している方向へと歩き出した。




