45章 勇者と魔王 17
バルロとゼンリノが『竜人』の列の奥に消えると、代わりに『竜人』たちが一斉に動き出した。
注射器みたいなものを取り出して、自分たちの首筋に薬を打ち込み始めたのだ。
すると『竜人』たちの表皮が黒ずみ始め、筋肉が膨張し、体形が一回り以上膨らんだ。どうやら『竜人』を更に強化する方法を確立したようだ。
もともと『竜人』はBランク、特Ⅰ型相当の強さがあった。強化された後も、魔力を見る限りさすがにAランクにまでは達していないようだが、それに近い力を持っていそうだ。
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クリムゾントワイライト/フィーマクードエージェント タイプドラゴニュート(強化済)
とある惑星の原生生物をベースに創造された人造の生命体
意志はなく命令に従って行動する
特性
打撃耐性 斬撃耐性 刺突耐性 魔法耐性
スキル
ブレス(炎) 上級格闘術 爪撃 高速移動
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モンスター扱いではないせいか、残念ながらランク表示がなかった。
だが、能力を見る限り青奥寺たちなら十分対処可能なレベルだろう。
「皆、こいつらの相手は頼んだ。結構強いから気を付けろよ」
俺は振り返って、すでに構えを取っている青奥寺たちに声をかけた。
すぐに「はい!」という返事が返ってくる。
「ルカラス、指揮は任せるぞ」
「うむ、任せよ。ハシルはさっさとあの魔王に魅入られた哀れな2人に引導を渡してやるとよい」
「そうしよう。じゃあ頼んだぞ」
俺はそう言うと、『機動』魔法を発動、『竜人』たちの頭上を越えてバルロたちの後を追った。
『竜人』たちは俺を見上げる動作はしたが、アンドロイド兵が一斉に射撃を開始すると、そちらに向かって一斉に突進を始めた。
数が多すぎるので津波のようにも見えるが、逆に密集し過ぎているため後方の連中が十分に動けず、先頭の奴らから次々と『ジャッジメントレイ』に貫かれて倒れていく。
『竜人』も大量のブレスを吐き出していて、数百の火の玉が青奥寺たちの方へと殺到する。だが勇者の『アロープロテクト』と、アンドロイド兵の『マギシールド』に阻まれて有効なダメージは与えられていない。
相手の射撃が強いことに気付き、後方の『竜人』が左右に広がり始めた。半包囲してからの突進ブレス攻撃でもするつもりなのだろう。
何匹かが高速移動で接近に成功するが、そこは青奥寺、絢斗、雨乃嬢、宇佐さん、そしてルカラスが前に出て倒してしまう。もはや特Ⅱ型に近いエージェントすら1対1で倒してしまう彼女らに、今さらながらに驚くしかない。彼女らはもう普通に超人である。一人でも物語の主役を張れる強さがある。
「ちょっと強くし過ぎたかもなあ。いや、青奥寺たちが勝手に強くなっただけだから俺のせいじゃないな」
と言い訳していると、少し離れたとことに待ち受ける、黒いコートのイケメンと菩薩顔の大男の姿が見えてきた。
俺は『聖剣天之九星』と『魔剣ディアブラ』を二刀持ちにして、2人の前に着地した。
「じゃ、始めるか」
「ゆくぞ、勇者よ」
「……お前は必ず……俺の手で殺す……」
俺が構えを取る前に、まずはバルロが動いた。
動いたというより消えたと言った方が正確か。もともと速度特化型のバルロだが、最初から全開で来るようだ。まあ今回は俺も本気モードだ。手加減して様子見なんてしようものなら一瞬でさよならである。
「……チィッ!!」
「おっと」
俺が『聖剣天之九星』と『魔剣ディアブラ』を踊るように振り回すと、瞬時に数十数百の火花が周囲に飛び散る。
俺の全周囲から、バルロがそれだけの数の斬撃を一瞬にして叩き込んできているのである。
しかもただ攻撃しているわけではない。フェイントと本命の攻撃とを交えた、剣技としても洗練された攻撃だ。残念ながら今の青奥寺たちでは相手をさせられないほどの手練れである。
しかし前やり合った時は見えなかったバルロの動きが、今の俺には見えた。ま、勇者に同じ技は二度は通じないからな。
首を狙った一撃を強めに弾き返してやると、バルロの動きがわずかに止まる。と言っても、それは数十分の1秒とかそういう単位である。
「シッ!」
「……くッ!」
しかしその隙に『ディアブラ』を突き出すと、バルロは凄まじい勢いで身体を翻し、ゼンリノのところまで飛び退いた。
「バルロよ、一人では奴は崩せまい」
「……前より強いぞ。油断するな……」
「もとよりだ。2人でゆくぞ」
さて、問題はゼンリノだ。
三日月の大刀を持った戦士だが、以前は精神魔法を使うところも見せている。見た目と違うトリックスターと読んでいるが、どのような動きにでるだろうか。
と思ったら、ゼンリノは遠い距離から俺に大剣を突き付けて、目を怪しく光らせた。
「ムウッ!!」
飛び道具かと思ったら、なんと精神魔法だった。いや、魔法陣が出ていないのでスキルだろうか。
ともかくその瞬間、俺の脳内にあらゆる嫌なイメージが一斉に湧き出してきて、強烈に心をかき乱してきた。
もちろんこれは俺が勇者だからそれで済んでいるのであって、弱い者なら一瞬で精神が破壊されていただろう。
俺の精神魔法耐性はそれ以上の効果は許さなかったが、それでもバルロが突く隙としては十分だった。
「……シイィッ!!」
バルロの姿が消え、同時に目の前にあった。オリハルコンの短剣が俺の首筋へと走る。
「取った……ッ!」
俺の首を半ば切断したバルロの短剣は、そのあと10カ所くらいは俺の身体を切り刻んだろうか。
本当はもっと斬りたかったんだろうが、それ以上は『天之九星』に左腕を切り落とされてできなかった。
直後にゼンリノが大剣で斬り付けてきていたが、そちらは『ディアブラ』の一振りで押し返した。剣技は見た目通りのパワータイプで、刃には凄まじい魔力が籠っていて一撃で大爆発が起こるほどのものだったが、『ディアブラ』はその魔力をすべて吸い取った。
「……くッ、その状態で反撃を……ッ!?」
「我が魔力を吸い取られた……!? それ以前に、まさか『マインドコラプス』を受けて動けるとは……っ!」
「……勇者を倒したければ一発で身体の半分以上を消し飛ばさないと駄目だぞ。『超再生』ってスキルを持ってるからな」
俺はそう種明かしをするころには、10カ所以上の傷は全て治っている。上位モンスターが当たり前のように持っている『超回復』スキルだが、それ持ちのモンスターを千匹くらい狩ったところでいつの間にか身についていたのである。
このスキルが発動するのは『魔王』との戦い以来だろうか。これを発動させた時点で目の前の二人は大したものだということになる。
「……なんという男だ……。これが導師様が恐れる勇者の力か……」
「恐るべき男だが、バルロよ、まだ終わっておらぬ。一度は奴に傷を負わせることができたのだ。今度は奴の言う通り、身体の半分以上を削り取ってやればよい」
「……そうだな……。次は捨て身でかかろう……」
バルロは、いつの間にか手にしていたポーションのビンを呷っていた。切り落とした腕が生えてきたので『エクストラポーション』だろう。
再び2人が構えを取る。バルロはオリハルコンの短剣を、ゼンリノは三日月の大剣を。
ゼンリノがまた『マインドコラプス』なるスキルを発動しようとする。
が、俺はその前に動いていた。『高速移動』スキルを全開にして、バルロに勝るとも劣らない速度でゼンリノに迫る。
ゼンリノはそれに反応できない。『天之九星』の刃がゼンリノの首に届く。
妨害したのはバルロだ。超高速で割って入り、オリハルコンの短剣で『天之九星』を受ける。だがその一合でバルロは後ろに飛ばされる。バルロはスピードこそ勇者とタメを張れるが、パワーでは遠く及ばない。
左の『ディアブラ』で再度ゼンリノの首を狙う。同時に凄まじい不快感。『マインドコラプス』を放ったゼンリノは、そのまま同時に大剣を振るってきた。
『ディアブラ』がゼンリノの首を刎ね、三日月の大剣が俺の右の鎖骨に食い込んだ。
もちろん致命傷なのはゼンリノだ。俺は身体をねじって大剣を外し、同時に『ディアブラ』でバルロの一撃を押し返す。
バルロが大きく飛びずさる。首無しゼンリノの身体は立ったままだ。死ねば身体は一瞬で崩れ落ちるはず。ということは、ゼンリノはまだ死んでない。
それは俺を苛む不快感からも明らかだった。見ると床に落ちたゼンリノの首が、意思を持って俺を睨みつけていた。
こいつも『超再生』持ちか――と思ったが、そうではないと思い至った。
「お前、もしかしてアンデッドか?」
「然り。私の魂はすでに導師様と共にある。この身体はただの骸に過ぎぬ」
「魔王に魂を売って不死の身体を得たか。まさかバルロも同じか?」
「……俺は違う……。不死では戦の高揚は得られぬ……。それは俺の求めるところではない……」
「そうか。なら安心した」
俺はいまだ消えない不快感に耐えながら、『天之九星』をゼンリノの頭部につきつけた。一瞬で展開される3重の魔法陣。『トライデントサラマンダ』、『加速』『誘導』。
バルロとゼンリノの身体が同時に動いて反応したが、魔法の発動が先だった。三重螺旋の炎の槍がゼンリノの頭部に迫り、それをゼンリノの身体が盾になって受け止めた。瞬間炸裂する小爆発。バルロは飛び退いて躱したが、ゼンリノの頭部は巻き込まれて吹っ飛んだ。
俺の中から不快感が消え、それによってゼンリノの身体が消滅したことが確定する。




