45章 勇者と魔王 15
「先生は敵だと認識したら女性でも躊躇がないんですね」
『始祖カーミラ』との戦闘後、珍しくそんなことを言ってきたのは絢斗だった。
隣で『聖女』の三留間さんがコクコクとうなずいているが、2人ともそこまで驚いているという雰囲気でもない。
「いや、相手が人間なら多少は躊躇するぞ。さっきのは完全にモンスターだってわかってたからな。人間に擬態するモンスターとかもいたし、そこはちゃんと区別してるさ」
「人間に擬態するモンスターというのは怖いですね。見分け方とかあるんですか?」
「魔力を感知する力が伸びてくれば簡単に身破れるようになるさ。絢斗なら少し鍛錬すれば余裕で見分けられるようになると思うぞ」
「それは身につけておきたいですね」
もっとも、これは彼女らには言うことでもないが、異世界で勇者をやっていた時は盗賊とか暗殺団とか悪魔崇拝者とか人間を相手にすることも少なくなかった。
もちろん男ばかりということはなく、しかもそいつらは捕まれば縛り首確定だから、戦場であいまみえたら基本的に情などかける理由はなかった。当然最初は俺も精神的に多大なダメージを食らっていたが、いつしかそんな心も摩滅して消えてしまった。
まあ、教員になってからは、そのすり減った心も多少は戻ってきた気もするが……。
「先生先生、これも開けていいですよねっ!」
俺の思考を中断するように、双党が宝箱を指さす。
俺が「いいぞ」と言い終わらないうちに、双党とレアのペアが走っていって宝箱を開ける。
出てきたのは指輪用の小箱で、開くと赤い宝石がはめ込まれた指輪が入っていた。
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始祖の指輪
着用しているだけで周囲の人間を魅了することができる指輪
効果は無差別
外すと効果は消える
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「これってやっぱり先生じゃないとつけられない指輪ですかっ?」
「これは誰でもつけられるっぽいが、ちょっと危険なものだな。たぶん周囲の人間に勝手に魅了魔法をかけるやつだ」
「魅了魔法? 着けている人を好きになっちゃう的なやつですか?」
「そうだな。それにプラスして、なんでも言うことを聞きたくなる感じのやつだ」
「それってメチャクチャ危ないものじゃないですか!?」
「だな。というわけで、永遠に『空間魔法』に入っててもらおう。
指輪が入った箱をそのまま『空間魔法』の穴に放り込む。
するとリーララが、
「あ、おじさん先生、それ後でこっそり使う気でしょ」
などと難癖をつけてきた。
「使ってどうするんだよこんなもん」
「だってそれ着けてたらモテモテになるってことでしょ。おじさん先生が使わない理由がないよね~」
リーララがニタニタ笑いを浮かべる横で、青奥寺とか新良がなにか言いたそうな視線を送ってくる。いや、まさか俺がこんなもの使うとか怪しんでないよね?
さらにその横で雨乃嬢が「先生が全自動寝取りマシーン化する……?」とつぶやいていて、宇佐さんが「なにを言っているのですか雨乃は……」と白い目を向けている。
「こっちの好みとか関係なく男女無差別に魅了するやつだぞ。そんなもんつけられるか」
「あ~、ふ~ん、それなら着けないかな……?」
さすがにリーララもその危険性はわかったようで、首をかしげつつも納得したようだ。
代わりに雨乃嬢が「それって新しい扉を開くアイテムなのでは?」と怪しく目を光らせていたが、まあ二度と『空間魔法』内から出てくることはないだろう。
「さて、じゃあ次行くぞ次」
さすがにSランクボスを2体倒せば次は魔王に対面できるはずだ。
なんか2つの妙な指輪のせいで脱力しかけたが、いよいよ最終決戦なので気合を入れ直さないといけない。
元の真ん中の部屋に戻ると、正面への扉はすんなりと開いた。
その向こうには廊下があり、そして奥の行き止まりには、禍々しい文様が描かれた、大きな両開きの扉がある。
懐かしい気配が漂っているので、どうやらいよいよご対面となりそうだ。
「ハシルよ。この気配は間違いなく奴であろう?」
「だな」
どうやらルカラスも感じたようだ。いつもは能天気な横顔にさすがに多少の緊張が見える。なんだかんだ言ってルカラスは魔王を直接見るのは初めてのはずだ。
俺は青奥寺たちの方を振り返った。
「あの奥に魔王がいる。覚悟はいいか?」
「大丈夫です。最後まで先生と一緒に戦います」
「問題ありません。先生の戦いはすべて記録させていただきます」
「前に見たローブ姿のやつですよね。どんな顔してるか見てみたいですねっ!」
「魔王……どんな見た目か楽しみでぇす」
青奥寺、新良、双党、レアは適度に緊張しているくらい大丈夫そうだ。
「幹部もいるという話ですから、僕たちも楽しめるといいですね」
「怪我をしたら私が治します!」
絢斗はいつもの通りで、三留間さんは拳に力を込めているが、意外と落ち着いている。
「うぅ、ちょっと緊張してきた。先生、ちょっと抱きしめてもらえませんか」
「どさくさに紛れてなにを言っているのですか。私が先です」
雨乃嬢と宇佐さんが変なことを言っているのは緊張のためだろうか。
「まさか伝説の勇者と魔王の戦いを見られるなんて思わなかったわぁ」
「わたしは別に見たくないけどね~。さっさと終わらせて帰ろうよ」
カーミラとリーララはいつも通りだ。
イチハ、フタバ、ミツハの2人のアンドロイドは、こちらに視線を向けて指示を待っている。500人のアンドロイド兵も全員揃っている。
これだけの戦力が整っていれば、魔王が変にパワーアップしていたとしてもなんとかなるだろう。
俺は、
「よし、いよいよ最終決戦だ」
と声を掛け、両開きの扉に手をかけた。
6月21日の更新はお休みをいただきます。
次回更新は6月24日になります。
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