45章 勇者と魔王 12
Aランクのボスモンスター『オーヴァーロード』を撃破した俺のところに、双党とレアが駆け寄ってきた。
「うわ~、なんか先生の戦い、まったく意味がわからなかったんですけど!」
「本当にそうでぇす。最後まで全然なにをしているのかわかりませんでぇした!」
「Sランク相手の戦いだとあんな感じになるんだよ。2人も10年くらい魔王軍を相手に毎日戦えばできるようになるぞ」
「その時点で無理で~す」
「多分普通の人間だと不可能だと思いまぁすね」
俺のアドバイスを一蹴すると、二人はそのまま宝箱の方へ行って、その前で「待て」を命じられた犬みたいな顔でこちらをうかがってきた。
どうやら最初からそっちが目当てだったらしい。
「開けていいぞ」
「やった~っ!」
「一緒に開けましょうカガリ」
そんなことをやっている2人を放っておいて、青奥寺たちの様子を確かめた。
ボスが呼び出した『アークデーモン』の群れと戦っていた彼女たちだが、特に怪我人はいないようだ。まあ、いても三留間さんが治しているだろう。アンドロイド兵も全員揃っている。
ルカラスが呆れ顔でやってきて、
「ハシルよ、あの最後の技はなんなのだ? あれほど強大な魔力をそのまま消すのは、あの『ディアブラ』なる剣でも不可能だろう」
と鋭い質問をしてきた。青奥寺や新良、カーミラもやってきて、どうも答えを聞きたがっている雰囲気だ。
「いや、単純に俺の魔力で『ディアブラ』の反魔導物質としての力を高めただけさ。反魔導物質は魔力を喰う性質があるから、その力で相手の魔力を食ってもらったというわけだな」
「話を聞いても意味がわからんな。そもそも魔力を喰う反魔導物質に魔力を込めて力を高めるというのはありえないであろう? そのままハシルの魔力も喰われるだけではないのか」
「そういう矛盾を乗り越えるのが勇者だからな」
「それで誤魔化せると思っているのか」
ルカラスの文句に青奥寺も新良も、そしてカーミラまでうなずいているが、俺としてもそれ以上答えようがない。あえてさらに言えば、
「あ~……、まあ俺と『ディアブラ』がそれだけ息が合ってるってことだな」
という感じだろうか。『ディアブラ』も『天之九星』もすでに相棒になって久しいが、こちらの世界に来てからさらにそれが進んだ気がするんだよな。なんというか、完全に自分の一部になったような感覚がある。
「……ま、ハシルが理屈で考えられるものでないのはよくわかっておるがな。それよりあの娘たち、面白いものを手に入れたようだぞ」
ルカラスの視線の先には双党とレアがいる。
宝箱の中身が床にそのままあって、それを見下ろしている。
「先生、これってなんですか?」
そこにあるのは小さな金色の箱だった。ちょうど指輪用の小箱みたいな形状をしている。
俺はそれを拾い上げて蓋を開けてみた。やはりそれは指輪用の小箱で、中には金の指輪が入っていた。
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超越者の指輪
すべてを超越した者だけが身につけられる指輪
あらゆる能力を大幅に上昇させる
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『アナライズ』したが、説明があまりに雑で腰が抜ける。
「あらゆる能力」って具体的になんだよと突っ込むと同時に、そもそも「すべてを超越した者」の能力ってそれ以上高まるのか、と突っ込みたくなる。
「先生先生、どんなお宝なんですかっ?」
「『超越者の指輪』というらしい。超越者しかつけられなくて、あらゆる能力を上げてくれるんだそうだ」
「チョウエツシャというのはなんでぇすか?」
「なんだろう……スーパーマンとか、すごい力を持った者? いや、もしかしたら悟りを開いた人間のことかもしれないな。双党、ちょっと着けてみるか?」
「私超越者とかじゃないんですけど」
「わかってるよ。本当につけられないのかどうか試してみてくれ」
「それ酷くないですか!?」
むくれながらも金の指輪を手に取り、あろうことか左手の薬指にはめようとする双党。
だが指に入れようとすると、磁石を同極同士でくっつけようとした時のようにスルッと逸れてしまう。
「カガリ、それはワザとやっているのではないのでぇすか?」
「違う違う、本当に入らない。なにこれ」
「貸してくださぁい」
レアも同じようにはめようとするが、やはりスルリと滑って入らない。しかし冗談でも左の薬指はやめて欲しい。青奥寺さんとかが睨んでるし、雨乃嬢はなんかソワソワしているし。
「超越者と言えば我が近いのではないか?」
と言ってルカラスがはめようとするが、やはり指には入らなかった。
「やっぱり先生用なんじゃないですかね」
という双党の言葉に従って、あまり乗り気じゃなかったが試してみることにする。そもそも俺はアクセサリーとかあまり好きじゃないんだが……。
「あ、入りましたね」
「センセイはスーパーマンでぇすからね」
「さすがハシル、我がつがいよ」
「それでどんな感じなんですか? すごいパワーアップしてます?」
う~ん、確かに俺の指のサイズを測ったようにピッタリなんだが、特に身体に変化はない気がする。『力の指輪』とか能力アップ系は着けた瞬間わかるものなんだがなあ。
と思っていたら、なにか妙な感覚がじわじわと湧き上がってきた。なんというか、尻とか股間のあたりがムズムズするような、はっきり言ってしまえば三大欲求の一つが高まった時の感じというか……。
「……いや、なんか効果ないみたいだなこれ」
俺は何食わぬ顔で指輪を外して小箱に入れ、『空間魔法』に放り込んだ。
いやしかし、まさかそんな能力を高める効果がある指輪とは。
それこそルカラスの言うハーレムなるものを作る人間なら必要なものかもしれないが、どう考えても俺には不要なものである。
「さあ、次行くぞ次」
俺はそう言って、ボス部屋の入口扉へ向かって歩き出した。




