45章 勇者と魔王 11
『魔王城』3番目のボスは、『オーヴァーロード』という、デーモンキング族の親玉だった。
見た目は銀髪オールバックのイケメン悪魔貴族である。
オーヴァーロードは100体以上のアークデーモンを呼び出すと、芝居がかった動きで左手をこちらに向けた。
「往け」
オーヴァーロードの号令で、アークデーモンが一斉に動き出した。飛び上がる者、炎の剣を持って突っ込んでくる者、その場で炎魔法を放つ者様々だ。
それに対応して、ルカラスの声が後ろから響く。
「撃てぇい!」
妙に芝居がかった口調なのに笑ってしまうが、もしかしたらやりたかったのかもしれない。
500本の光線が走り、アークデーモンを次々と貫いて灰にする。魔法は勇者の『アロープロテクト』の前に無効化されるが、少なくない数のアークデーモンが格闘戦の距離まで接近する。
青奥寺たちが対応するが、さすがに数が多いか……と思っていると、危ない分はルカラスがあっという間に斬り裂いてしまった。どうやらあっちは大丈夫そうだ。
俺はオーヴァーロードに向き直った。
「じゃあ始めるか。といっても時間はかけてられないから最初から本気で行くぞ」
「下賤が、僭上も程々にせよ」
オーヴァーロードが剣をこちらに突き付ける。その切っ先に浮かんだのは四重の魔法陣。
放ってきたのは火・水・風・土の四属性の力が螺旋に絡まる極太レーザー攻撃だ。
初めて見る魔法だが、上級魔法の上に位置する、純粋魔力を投射する魔法の応用版みたいなものだろう。
魔法で相殺しても良かったが、時間がかかるので『隔絶の封陣』で受け止めることにした。
俺を包む多面体シールドが、四属性魔力の奔流をすべて掻き消して無効化する。いやこれ俺はズルしてるが、オーヴァーロードの魔法自体はすさまじい威力はありそうだ。
「我が魔力を消滅させるとは、ただの下賤ではないな」
そう口にして、真紅の長剣を構えるオーヴァーロード。その姿が光とともに消え、同時に俺の脳天に針のような殺気が突き刺さる。
俺は身体をよじりながら、『天之九星』を振り上げて、頭上からの一撃を受け止める。超高速飛行からの急降下攻撃、しかも攻撃の威力がとんでもない。剣を剣で受けただけで、爆発みたいな光と音と衝撃が発生する。
オーヴァーロードは一撃では止まらず、そこから縦横無尽に飛び回り――というよりほとんど瞬間移動みたいな動きで、俺に全周囲から斬りかかってくる。
俺も久々に『感覚高速化』『高速移動』スキルを併用してその攻撃に対応する。外から見ると、俺たちは多分、10倍速くらいに早送りした感じで動いているように見えるはずだ。
剣と剣が1秒間に十回以上交錯し、その度ごとに閃光と衝撃が周囲に広がって、もはや爆発みたいになっているだろう。並のモンスターなど、近づいただけで粉砕されるレベルの戦いだ。
「我が剣に匹敵する者がいるだと。ふざけておるな」
「スピードだけならお前より速い奴もいるからな」
「重ねて不敬な。ならばこれで終えてやろう」
オーヴァーロードはそこで高所まで飛び上がり、真紅の長剣を天に突き上げた。その刀身は瞬間、赤青緑黄色の螺旋に包まれ、刀身が数倍にも膨らんだかのようになる。
最大魔力を込めた一撃で、この周囲ごと消し飛ばそうというのだろう。魔王も似たような技を使っていたが、まあ最上位の攻撃に小手先の技なんてないからな。純粋な力を叩きつける攻撃になるのは誰でも同じである。
「受けよ、我が力」
オーヴァーロードは剣を突き出した姿勢で急降下してきた。もちろんそのスピードは瞬間的に音速を遥かに超える。
しかしこれ、『隔絶の封陣』で受けてもいいが、多分受け切れなかった分のエネルギーが青奥寺たちに向かってしまうだろう。まあ今の彼女らなら致命傷にはならないだろうが、アンドロイド兵はただでは済まないかもしれない。
「なら俺も新しい技を出さないとな」
俺は剣を『魔剣ディアブラ』に持ち替えて、魔力を一瞬で最大限まで込める。普通の剣ならそれだけで粉々だが、『天之九星』とともに相棒となっている『ディアブラ』は、むしろ嬉しそうに刀身を震わすのみである。
『ディアブラ』の刀身が赤黒いオーラを発し、それは瞬時に十倍にも膨らむ。
俺はそのまま『ディアブラ』を天へと突き上げた。
『ディアブラ』とオーヴァーロードの剣、それぞれが纏う力が真正面からぶつかりあう。
強大な力がかち合えば、当然起こるのは相克するエネルギーの迸り、つまりは大爆発である。
しかし目の前ではまったく違う現象が起こっている。オーヴァーロードの剣が纏う四属性の魔力と、『ディアブラ』が纏う赤黒いオーラが触れあう。すると、何事もなかったかのように双方が消えてしまうのだ。
ちょうど、プラスとマイナスがゼロになるように。
そして『ディアブラ』とオーヴァーロードの剣同士が直接ぶつかり合うと、剣そのものの格の差によって、オーヴァーロードの長剣が砕け散った。
「なに!? 我の魔力が喰われたというのか!?」
「半分正解かな」
驚愕に顔を染めるオーヴァーロードは、空中で体勢を立て直す。いや、立て直そうとして、その時にはもう、イケメンな首は『ディアブラ』によって切り離されていた。俺はさらに『天之九星』も取り出して、残った身体を切り刻んでいく。『強再生』持ちはこうしないと倒せないことが多いのだ。
「あり得ぬ……我が下賤に破れるなど……」
生首だけになってもまだそんなことを言っていたオーヴァーロードだが、やがて黒い霧となって消えていった。




