45章 勇者と魔王 09
1匹目のボスモンスターを倒した俺たちは、長い廊下を引き返して入口ロビーへと戻った。
左側の扉をくぐった先には、やはり異様に広い廊下が500メートルほど延びていた。
ただし、天井から染み出る『魔導廃棄物』から生まれるモンスターは変化した。
禿頭に二本のツノ、赤い目に鋭い牙、背中には蝙蝠の羽根、上半身は裸でマッチョ、両手には氷でできた剣。魔王配下の魔族ともいうべきモンスター『グレーターデーモン』だ。
すでに俺たちには見慣れた奴だが、さすがに一度に50匹出現というのはなかなかに奮った数である。あの時代なら複数の国を落とせる戦力だ。
グレーターデーモンは半数以上が飛び上がり、剣の切っ先をこちらに向けて氷の魔法を撃ってくる構えを取った。もちろんそれを黙って見ている俺たちではない。
「撃て!」
号令一下放たれる、500を超える『ジャッジメントレイ』。
その一斉射で50匹のグレーターデーモンは全て消えてしまった。
あまりに拍子抜けかつ一方的な戦いに、絢斗が、
「魔法を撃つ以外に出番がないのは残念ですね。グレーターデーモンは斬り合うと面白いんですが」
とつまらなそうな顔をしているくらいである。
「なんだかんだ言って射撃武器は強いからなあ。俺が召喚された昔の異世界だって、戦場のメインは弓矢と魔法だったしな」
「異世界も意外とロマンがないんですね。でも、先生は剣で戦っていたんですよね?」
「上位のモンスターだと矢も半端な魔法も効きづらくなるから、最後は結局肉弾戦をせざるをえなかったんだ。ただ俺たちは上級魔法を連射できる銃を数揃えてるからな。このアンドロイド兵があの時代にいたら、俺の勇者の旅もあっという間に終わったろうな」
「なんか悲しくなる話ですね」
「まったくだ」
グレーターデーモンを駆逐しながら進んでいくと、こちらも巨大な扉が見えてくる。一休みしてから扉を開いて中に入る。
広大なボス部屋に現れたのは、身長3メートルほどの鎧戦士。
禍々しいデザインの漆黒の板金鎧を着込み、刃渡り2メートル近くありそうな片手剣と盾を装備している。全身から赤黒いオーラが滲み出ていて、いかにも強敵という雰囲気を醸し出している。
しかも今度は10体同時出現だ。まあこっちが500人以上いることを考えれば、それでも良心的ではある。
見慣れた漆黒の鎧戦士を前に、ルカラスが「くくっ」と笑った。
「『アーマードダークネス』とは懐かしいの。魔王軍の隊長格としてさんざん戦った覚えがあるわ、なあハシルよ」
「あの時は一度に現れてもせいぜい3匹だったけどな。ま、魔王配下の大隊長格としちゃ一番まっとうに強くてやりやすい相手だったな」
『アーマードダークネス』は『生ける鎧』と呼ばれるアンデッドモンスターの最上位個体だ。アンデッドの割に完全物理属性で、使う技も見た目通り正統派の剣技だけである。
その力も技も鎧の堅さも一級品で、いい意味で『まともに強い』のだが、反面特殊な技を使ってこないので与しやすい相手ではあった。
「よし、とりあえず射撃して、撃ち漏らした分は前衛が相手して押さえてくれ。後衛の中に飛び込まれると厄介だから注意な。見た目通りの敵だが、特Ⅱ型相当のモンスターだから必ず2対1以上で戦うこと。まあヤバくなったら俺が片づけるから、肩慣らしくらいに思っとけ」
「はい」「は~い」「了解しました」「了解でぇす!」
「アーマードダークネスが肩慣らしとはハシルもずいぶんと豪気になったものだな」
「皆それくらい強いからな。さて、始めるか」
アンドロイド兵はすでに左右に大きく広がっていて、十字砲火を食らわせる気満々である。
俺と青奥寺、雨乃嬢、絢斗、宇佐さん、ルカラスの前衛組が前に出て、双党、新良、レア、カーミラ、リーララ、三留間さんの後衛組は後ろに下がる。
「撃て!」
と俺が指示するのと、10匹のアーマードダークネスが突っ込んでくるのはほぼ同時だった。
まずは500以上の光線、『ジャッジメントレイ』がアーマードダークネスに浴びせかけられる。
盾と鎧で防御しているとはいえ、アンデッドであるアーマードダークネスに光属性の『ジャッジメントレイ』はかなり効果があり、最初の一斉射撃で5匹が穴だらけになって消えていった。残る五体もそれなりにダメージを受けているが、ガッチャガッチャと音を立てて走って来る姿には迫力が残っている。
「師匠、右のをやりましょう!」
「了解美園ちゃん」
「では宇佐さん、僕たちは左の一体を」
「かしこまりました」
青奥寺、雨乃嬢組と、絢斗、宇佐さん組がそれぞれ一匹ずつを相手にする。ルカラスも一匹にかかって行ったので、俺は残り二匹を相手にする。
といっても俺の振るう『天乃九星』は、漆黒の鎧も剣も盾もまるで紙みたいに斬り裂いて、一瞬の内に2匹のアーマードダークネスを解体してしまう。
ルカラスはなんとアーマードダークネスの剣を左手で受け止め、伸ばした真紅の爪で盾ごと斬り裂いて倒してしまった。やはりルカラスは確実に強くなっているようだ。ただ脳筋化の兆しが見られるのは気になる所だ。
残り2組の戦いだが、青奥寺、雨乃嬢組はいつもの通り連携が完璧で、一人がアーマードダークネスの攻撃をいなす隙にもう一人が攻撃を加えるという戦法で、特にピンチに陥ることなく倒してしまった。
絢斗、宇佐さん組は、絢斗が優れた身体能力にものを言わせて正面から斬り合って、宇佐さんが伸びる棍棒『如意棒』で中距離から援護をするという戦法を取っていた。宇佐さんが左右背後から手足を巧みに打ち据えてアーマードダークネスの動きを妨害して、最後は絢斗が『デュランダル』で首を落として決着していた。
「特Ⅱ型、Aランクモンスターを二人で倒せるなら大したもんだな」
俺が褒めると、青奥寺は真面目な顔でうなずいた。
「ありがとうございます。強い力を持っているとは思いましたが、大きさが小さい方が戦いやすい気がします」
「まあ飛び道具とかない奴だしな。人間型のAランクモンスターとしては一番戦い易い奴かもしれない」
「そうですね。慢心しないようにします」
といっても、十代で特Ⅱ型と戦えるっていうのは正直異常なんだよなあ。もともと鍛えていたことと勇者が師匠になったことがあるとはいえ、皆魔力の上昇率が異様に速い気がする。まああらゆる能力向上アクセサリーをつけて強化しているから、それもあるのかもしれない。
「アイバセンセイ、トレジャーボックス開けていいでぇすか?」
俺の思考をレアが中断した。
見ると律儀に宝箱も10個出現していた。この魔王城、実はすごく美味しい稼ぎ場所なのでは、などという緊張感のない考えが浮かんでしまう。
中身はミスリル製やオリハルコン製の剣やら槍やら鎧やらと、『エリクサー』が2本、『エクストラポーション』5本セット、それから『力の腕輪』と『魔の首飾り』が手に入った。
武器や防具、ポーション類はそのまま『空間魔法』行き、『力の腕輪』はすでに全員つけているが、せっかくなので青奥寺が追加で装着、魔力アップの『魔の首飾り』も三留間さんが追加でつけることになった。




