45章 勇者と魔王 08
『魔王城』内部。
巨大な玄関扉を入るとそこは近未来的な造りのロビーで、正面と左右に大きな扉があった。
正面はどうやら魔力的なロックがかかっているようで、まずは左右の扉の先にいるボスモンスターを倒す必要があるようだ。
なのでまずは片側の扉を開き、その先の廊下を進むことにした。
廊下は広く、車が3、4台は並んで走れそうだ。天井も高く、奥行きは500メートル近くありそうだ。奥には大きな両開きの扉があり、そこにボスがいるのだろう。
『罠感知』スキルを全開にして歩いて行くが、どうやら余計なトラップなどはないようだ。昔の『魔王城』にも罠なんて一個も存在しなかった。というか普通自分の城に罠なんて仕掛けないよな。
廊下の左には扉が一定間隔で並んでいるが、それらが開く様子もない。試しに一カ所力ずくで開いてみたが、ただの空き部屋だった。
と、そこで絢斗が鋭い声を出した。
「先生、あれを見てください!」
絢斗の指は奥の天井を指している。
見るとコールタールみたいな液体が天井のあちこちから染み出してきて、床へと滝のように流れ落ちた。
「『魔導廃棄物』か。そういえば外でも出てきていたな」
『魔導廃棄物』は床の上に溜まるとスライムのように動き出して盛り上がり、やがてモンスターに変化した。出てきたのは翼も足もないドラゴン『アースドラゴン』だ。むしろ顔だけドラゴンの巨大蛇と言った方がいいのかもしれないが、れっきとしたBランク、特Ⅰ型相当の強力なドラゴンである。それが同時に10匹以上現れてにじり寄って来る様子はかなりの迫力だ。
だがこちらは500人オーバーの勇者部隊である。
「撃て!」
と俺が号令をかけると、双党やレア、新良だけでなく、503体のアンドロイド兵が一斉に上級光魔法『ジャッジメントレイ』を発射した。500を超える太い光線を浴びて、10匹の『アースドラゴン』はあっという間に穴だらけにされて消えていった。
一応苦し紛れに岩礫のブレスを吐いて来た奴はいたものの、こちらは全員『アロープロテクト』が効いている上に、アンドロイド兵は魔導盾まで装備しているのでダメージはほとんどない。
「呆れるような戦いよな。ハシルよ、これは『魔王』など相手にもならぬのではないか」
ルカラスが微妙な表情でそんなことを言うが、確かにこれは勇者も苦笑いするしかない。
「まあ最初はこんなもんだろ。奥に行けばもっと強い奴が出てくるさ」
「まあそうであろうが、それでも相手にならぬ気がするな」
「Aランク、特Ⅱ型くらいまでは相手にならないかもな。まあ魔王の側近もいるし、Sランク、特Ⅲ型もどうせ出てくるだろ」
床に散らばる魔石はアンドロイド兵に回収させ、さらに先へと進んでいく。
奥へと近づくたびにアースドラゴンが現れるが、すべて一斉射撃で全滅する。やがて俺たちは廊下の最奥部、巨大な両開きの扉へとたどり着いた。
黄色地に黒で『重要区画』と表示された重厚な扉は、この先強いモンスターがいますと語り掛けてくるようだ。
「ちょっと骨のあるのが出てくるかもな」
一瞬バルロやゼンリノといった『魔人衆』の顔が浮かぶが、あいつらはたぶん魔王の近くに控えているだろう。
扉を開くとアホみたいに広い空間がそこにあった。幅と奥行きは200メートルくらい、高さも50メートルはありそうだ。
全員が部屋に入ると、背後で扉が閉まる音がした。
「ボスが出てくる部屋だな。全員広がっておけ」
と言うと、アンドロイド兵は横に隊列を広げて魔導銃と魔導盾を構える。
天井からコールタール状の黒い液体が滝のように流れ落ちてきて、少し先の床に音を立てて溜まっていく。床に広がった黒い『魔導廃棄物』だまりは盛りあがっていき、そして巨大なモンスターを形作った。
それは蛇を元にしたモンスターだった。ずんぐりと太い身体から9つの頭が生えている、『ヒュドラ』という有名なAランクモンスターである。しかもこちらの数が多いせいか、3体出現という大盤振る舞いだ。普通に国が一つ二つなくなりかねない戦力だ。
目の前の神話の怪物は、まさに怪獣のような巨大さである。だがまあ、すでに特Ⅱ型クラスを見慣れている俺たちが驚くほどではない。
「先生先生っ、これってもしかしてヒュドラってやつじゃないですか?」
双党が、魔導銃を構えながら聞いてくる。
「よく知ってるな。強烈な毒を持ち、無限に再生する能力があるモンスターだな。首を斬り落とすと倍生えてくるから注意な」
「それってどうやって倒すんですか? 神話だと首を焼いたりしたと思うんですけど」
「強烈な炎魔法で首を焼いていくのが一般的かな。だがま、たぶん一斉射撃で倒せるんじゃないか。ルカラスのブレスでも行けると思うが」
「出た先生の適当発言」
「こんなので苦労してるわけにもいかないからな。ルカラス、右の一匹を頼む。俺は左をやるから、皆は真ん中の奴に集中攻撃な。前衛組は適当に魔法でも撃っとけ。あと三留間さんはヒュドラが毒を吐いたら浄化魔法をかけて綺麗にしておいてくれ」
「うむ、任せよ」
「了解っ!」
「はいっ!」
指示を出し、俺は左へルカラスは右へ飛んでいく。
浄化も頼んだが、全員状態異常アクセサリを身につけているから基本的にヒュドラの毒も平気のはずだ。
俺は聖剣『天之九星』を取り出して、『機動』魔法でヒュドラの回りを飛び回りながら、首を一本ずつ落としていった。『天之九星』の再生妨害効果はヒュドラにも効果てきめんで、得意の再生を封じられたヒュドラはあっさりと消えていった。
一方ルカラスは正面上空から青白いブレスをひと吐きして、一瞬でヒュドラを消し炭にしていた。ルカラスはルカラスで昔より強くなってる気がするな。もしかして人化して小さくなったことで強くなったのだろうか。
残り一匹だが、巨体を揺すりながら前進を始めた。
だがその全身に500を超える光線が突き刺さると、再生などまるで間に合わず、穴だらけになって消えていった。うむ、これぞ数の暴力。多少の特殊能力などいくらでも覆せてしまう。結局三留間さんの出番はなく、彼女は拍子抜けした顔になっていた。
ちなみにここはダンジョンではないが、ヒュドラの死骸が消えた後にはしっかりと宝箱が三つ出てきた。宝箱というより工場とかで使われるコンテナみたいな形状だ。
「このようなものが出てくるということは、この魔王城はやはりダンジョンなのですか?」
青奥寺が箱を見下ろしながら鋭い質問をする。
「魔王城は半分城、半分ダンジョンみたいな微妙な扱いらしいんだ。これは推測だが、『魔王』の意思で変化させられるんじゃないかと思ってる。まあそれを確認する暇はなかったけどな」
「なるほど……」
考えてもわからないことを詮索しても仕方ない。ならば目の前の現象をそのまま受け入れて利用した方が前向きだ。
コンテナ風宝箱から出てきたのは長剣一本と指輪と『エリクサー』だった。
長剣は絢斗の使っている『デュランダル』と同等品なので『空間魔法』行き、指輪は『護りの指輪』で、話し合いで絢斗が使うことにしたらしい。
『エリクサー』はレアが開いた宝箱から出てきたのだが、もちろん俺とルカラス以外は知らないアイテムである。
「センセイ、これはどういうものでなんでぇす?」
「『エリクサー』って言って、死んでさえなければあらゆる怪我を回復する魔法の薬だな。身体が半分になってても生きていれば元に戻るぞ」
「そんなものがあるんでぇすか!?」
「まあな。さっきのようなレベルのモンスターを倒さないと出てこないものだから超貴重品だ」
と言ったが、俺の『空間魔法』には大量に入っていたりする。
まあそれはともかく、この部屋は行き止まりのようだ。ボスは倒したので条件はクリアしたはずだ。
「さて、次は反対方向の部屋だ」
俺は皆に伝えて、廊下を引き返すために部屋の扉を開いた。




