45章 勇者と魔王 06
『魔王』のいる星『惑星惑星X-0192』。
今『ウロボロス』と『ヴリトラ』の2隻は、その上空を飛行している。
『艦長、大陸が見えてきました~。予想通り陸上には無数のモンスターの反応がありまっす。飛行型も多数確認できまっす』
「直接大陸上空に降りなくて正解だったな」
『このまま目的地まで飛行をすると飛行型モンスターに囲まれる可能性がありまっす。減速して駆逐しながら進む形でよろしいでしょうか~』
「数が多いだろ。船の兵装だけで間に合うか?」
『特Ⅱ型が複数現れなければ問題ありません~』
「わかった。デカいのが出てきたら相談してくれ」
大陸はもう十キロほどに迫っていた。『ウロボロス』と『ヴリトラ』が減速を始め、高度を落としていく。
モニターに映る大陸はほとんどが森の緑だが、一部土が露出している土地があったり川が流れていたりする。
ただ人工的な建物などは皆無で、そこが地球とは全く違うところである。
よく見ると、森の木々の間や赤茶けた地面の上のところどころに、大小のモンスターが闊歩しているのが確認できる。
そして遠くにそびえる緑深い山の方から、なにかが群れをなして飛んでくるのが確認できた。それは青い空に黒いゴマをぶちまけたような映像としてモニターに映っていた。
『飛行型のモンスターの一部がこちらに向かって移動をはじめました~。迎撃しますね~』
「おう」
映像が拡大される。飛んでくるのは多くが飛竜型の『ワイバーン』だ。ところどころ一回り以上大きな『ドラゴン』の姿も確認できる。ちなみにハーピーなど小型の飛行型モンスターは『ウロボロス』が飛ぶ高度まで上がってくる力はない。
『「ウロボロス」「ヴリトラ」、マギレーザー斉射開始しまっす」
2隻の戦艦の砲塔から赤黒いレーザーが走り、まだ5キロくらい先にいるワイバーンたちをスポスポと貫いていく。正確に眉間を貫かれたワイバーンは、黒い煙になりながら次々と落下していく。
ドラゴンも例外ではなく、さすがに一瞬だけレーザーに耐えるもののすぐに頭部を撃ち抜かれて墜落していく。
「やはりこの船の戦闘力は凄まじいの。あの時この船がいれば、ハシルたちの戦いもすぐに終わったであろうな」
俺の隣で腕を組みながらモニターを眺めていたルカラスが、そんな詮のないことを口にする。
「まあそりゃな。しかし逆に、この星を攻略しようとしたらこの船なしだと不可能だったろうな。結局、必要があるから『ウロボロス』が手に入ったのかもしれない」
「ハシルが言う『勇者』ゆえの巡り合わせというやつか」
『そういうことなら、私は『魔王』に感謝しないといけませんね~』
聞きようによってはかなりいじらしいことを言ってくる『ウロボちゃん』。
ルカラスが「むっ、面白いことを言うものだ」と感心したようにうなずき、一方で双党や新良がコソコソと話を始める。
『あ、艦長、ただいま「レザルスティス」からデータ送信がありました~。戦闘は終了、艦隊の損害は軽微とのことでっす』
『レザルスティス』はメンタードレーダ議長の乗艦である。どうやら宇宙モンスターの駆除には成功したようだ。
『それから、「魔王城」があると思われる場所のデータも送られてきました~。メンタードレーダ議長が調べたみたいでっす』
「そりゃ助かるな。じゃあそっちに向かってくれ」
『了解でっす』
『ウロボロス』と『ヴリトラ』はわずかに右舷に旋回し、速度を少し早めた。飛び上がってきたワイバーンやドラゴンは、こちらに接近することもほとんどできずにほぼ全滅してしまったようだ。
ただ前方から第二群が接近しているようで、まだまだ艦砲射撃が休まる暇はない。
「モンスターの気配が濃すぎて『魔王城』がどこにあるのかまったくわからんな。ルカラスはどうだ?」
「我にもわからん。だがこのまま進めば見えてくるのであろう?」
「まあそうなんだが……」
「あっ! 先生あれ!」
双党が叫びながらモニターを指さす。
そこには、明らかに人工物と思われる建物が映っていた。
全体が銀色で、一見すると銀河連邦の惑星にあるような未来的な建物に見えなくもない。
しかしねじくれた塔や、ツノや牙みたいな謎の構造物が四方八方に突き出ているその造形は、およそ人間の感性で作り上げられるものではない。
表示によると高さは500メートル、基部の幅は2キロメートルくらいあるようだ。
「うわ~、想像以上に大きいですねっ。先生が昔突撃した城もあんな感じだったんですか?」
「いや、もっと小さかったよ。色も黒っぽかったしな」
「じゃあこっちの世界に合わせて変えてるんですかね」
『魔王城』の周囲数キロはうっすらと紫のガスに包まれていて、そこだけ薄暗くなっていた。
そのガスが包む一帯は草木一つないひび割れた荒れ地に変貌しているが、それによってガスの正体が『瘴気』と呼ばれる毒ガスだとわかる。もっともこれは異世界の『魔王城』も同じであり、逆に言えばあの建物は間違いなく『魔王城』だということになる。
「む、ハシルよ」
「ああ、なんか出てくるな」
ルカラスも反応したが、俺も今感じた。『魔王城』の手前に強い魔力の歪みが生じている。
魔王城の周囲の地面にいきなり巨大な穴が開き、そして穴の底から黒いコールタールみたいな液体があふれてくる。そしてそのあふれたコールタール――『魔導廃棄物』は巨大な塊となり、それがじわじわと変形変色していくと、5体の奇怪なモンスターが出現した。
「むう、あれは『ヘカトンケイル』か。なるほど、この時のために異世界で研究をさせていたのだな」
ルカラスの言葉通り、出現したのは長さ100メートルあるラグビーボール型の本体に無数の目と口と腕が生えた不気味な巨大モンスター『ヘカトンケイル』であった。
かつて異世界でババレント侯爵が切り札として作っていた特Ⅲ型のモンスターだが、あれは『魔王』が裏から協力して作らせたもののようだった。とすれば、ルカラスが言う通り、この時のためのものだったのだろう。
『艦長、「ソリッドマギキャノン」の使用許可をお願いしまっす』
間髪入れずに力強く言ってくる『ウロボちゃん』。
「やってくれ。どうせ無駄だろうけど『魔王城』もついでに吹き飛ばしてみてくれ」
『了解でっす。『ウロボロス』『ヴリトラ』ともに「ソリッドマギキャノン」、すでに装填は済んでいまっす。発射まで5秒、4、3、2、1、発射~』
なんかだんだん発射シークエンスが雑になっている気がするが、2隻の艦首から巨大砲弾がすっ飛んでいく。
『エネルギー解放まであと5秒、4、3、2、1、エネルギー解放しまっす』
地上に小型の太陽が二つ生まれ『魔王城』と5体の『ヘカトンケイル』を飲み込んだ。
それどころか『魔王城』の周囲10キロ半径以上を巻き込んで、その外側も凄まじい衝撃波が広がっているようだ。いやこれじゃどっちが『魔王』なのかわかったもんじゃないな。
光が徐々に消えていくと、大きく大地を抉ったようなクレーターが2つ現れた。5体の『ヘカトンケイル』の姿は完全に消え去っていて、『ソリッドマギキャノン』が特Ⅲ型すら一瞬で消し去る威力を持っていることがわかった。
正直恐るべき兵器ができてしまったと今さらながらに驚くが、さらに驚くべきは――いや、俺にとっては微塵も驚くべきことではないのだが、
「ふむ、やはり『魔王城』は健在か。あれは『魔王』を倒すまで消滅させることはできぬようだな、ハシルよ」
ということだった。
「まあそういうもんだからな。さて、じゃあいよいよ『魔王城』にカチコミに行くとするか。『ウロボロス』、準備はできてるな?」
『艦長に随行するアンドロイド兵500体は準備完了していまっす。ポータブルマギジェネレータ装備の長期戦仕様でっす』
なんかまた新しい装備名が出てきたが、名前から察するに小型の魔力発生装置ということだろう。つまり魔力量を気にせずに魔導銃を撃ちまくれるアンドロイド兵が誕生したということだ。
「了解。知らないうちに強化してくれて助かるよ『ウロボロス』」
『ありがとうございます~。艦長のためなら何でもしまっす』
礼を言うと、嬉しそうな顔で敬礼をする『ウロボちゃん』。その姿を見て、また双党たちがコソコソ何かを話してる。
清音ちゃんがちょっとつまらなそうな顔をしているのは、自分も褒めてもらいたいからだろうか。
「皆も準備してくれ。『魔王城』に一度入ったら『魔王』を倒すまでは出られないからな」
すでに立ち上がって、自分の装備の確認を始めている青奥寺たちに声を掛ける。
「はい!」といい声が返ってくるのが頼もしい。
この先未知の世界だが、不思議と『魔王』に勝てる気がするのは、彼女たちがいるからだろうか。
この戦いが終わったら、前に行った銀河連邦のリゾート惑星に全員連れていこうか。などと考えながら、俺は艦長席から立ち上がった。
申し訳ありませんが、5月22日23日の更新をお休みします。
本作の次回更新は5月25日となります。




