45章 勇者と魔王 02
『魔王艦隊』殲滅から24時間後。
『ウロボちゃん』から『準備完了しました~』の報告があり、俺たちはいよいよ『惑星X-0192』へと向かうことになった。
全員が『ウロボロス』の『統合指揮所』に集まり、俺の前に並んでいる。
一様に緊張した面持ちだが、大きな戦いに慣れているルカラスは呑気そうに構えていて、狐状態のクウコについては感情がよくわからない。リーララもダルそうだがこれはいつものことか。
「え~、それではこれから「惑星X-0192」へと向かいます。まずは少し離れたところにジャンプアウトして、偵察機を飛ばして様子を見ます。たぶんそのタイミングで、銀河連邦の艦隊と合流します。後は出たとこ勝負ですが、予想だと『魔王』は『惑星X-0192』のどこかに『魔王城』を作って籠っているはずですので、惑星に降下して白兵戦で決着をつけることになると思います」
「センセイ、『ウロボロス』の戦略兵器で倒すことはできないんでぇすか?」
『ウロボロス』の『ソリッドマギキャノン』に感動していたレアが手を挙げて質問する。
「一応試してみるつもりだが、無駄になる可能性は高いな。『魔王城』は、俺が使う『隔絶の封陣』に似た魔法で守られてるんだ。生身の人間なら突っ込めるが、魔法とかの攻撃は一切通さない、そんな感じになってるはずだ」
「それはそれで驚異的でぇすね。ですがわかりまぁした。正面からの拠点攻撃は腕が鳴りまぁす!」
「『魔王城』はいつものダンジョンみたいな感じだからそのつもりで大丈夫だ。ただボスはすさまじい奴が出てくると思うけどな」
「前にセンセイと戦っていた黒い男とかでぇすね?」
「そうだ。あのバルロと、それと同じレベルの奴がもう一人、そして『魔王』だ。もちろんそれ以外にも面倒なモンスターはいるだろう。特Ⅲ型もいるかもしれない」
と言うと、新良がピクッと反応した。
「あの『ヘカトンケイル』のようなモンスターがいるということですか?」
「そうだ。さすがに『魔王』でもあのクラスはそうそう召喚できないだろうが、ゼロってことはないだろう。覚悟はしといてくれ、といってもあれが出てきたら俺とルカラスでなんとかするけどな」
『野外に出現してくれれば、「ソリッドマギキャノン」で倒せると思いまっす』
と『ウロボちゃん』が付け足してくれる。確かに外に出てくれればそれが一番手っ取り早いが、『魔王城』内でも前に戦った『サタン』みたいな奴が出てくる可能性はある。
「まあそんなわけで、なにが起きるかわかりませんが、とにかくここで負けたら色々終わってしまうので、頑張って『魔王』を倒しましょう。なにか質問はありますか?」
「はい!」
「はい双党さん」
「『魔王』はお宝を隠し持ってたりしませんか?」
「あ~、いい質問だな。だが俺は知らないんだ。ルカラスはわかるか?」
「『魔王城』が爆発したからわからんな。だがまた地下になにか隠している可能性もあるのではないか?」
「しまった、それ忘れてたわ……」
そういえば『魔王』を倒すと『魔王城』は爆発するんだった。それからまた『魔王城』の地下に『魔王』のコピーなんか残されてると面倒だな。双党のお陰で重要なことが確認できた。
「というわけでお宝があるかどうかはわかりませんが、『魔王』を倒すと『魔王城』は爆発するのですぐ逃げましょう。他には?」
さすがに他には質問が出なかったので、
「では出発します。『ウロボロス』、よろしく頼む」
と指示をして、俺は艦長席に座った。
皆もそれぞれのシートに着席してその時を待つ。
『では「惑星X-0192」に向けてマギジャンプを開始しまっす』
『ウロボちゃん』の言葉の直後に、『統合指揮所』内に、低い機関音が流れてくる。
いよいよ奴との2回目の最終決戦だ。
まずは惑星上に無事着陸できるかだが……おっと、勇者の勘が反応したからすんなりはいかないようだ。
さて、どんなお出迎えをしてくれるのか、期待させてもらおうか。
『ジャンプアウトまで残り10秒。9、8、7、6、5、4、3、2、1、ジャンプアウトしまっす』
微かな振動と共に、正面のメインスクリーンが復活する。
映っているのはいつもの宇宙空間だ。
ただ、遠くにビー玉くらいの大きさの青い星が映っている。他の星はただの点なので、その星だけ近くにあるということだ。
言うまでもなく、それが『惑星X-0192』なのだろう。見た目が地球に近いのは、銀河連邦の技術で『居住可能化』されているからだ。画面には、『惑星X-0192』の脇に410万キロという表示があるが、それが星までの距離を示しているようだ。気が遠くなるような数字である。
『全艦艇のジャンプアウトを確認。周囲一万キロ以内に反応なし。艦長、偵察ドローン発進の許可をお願いしまっす』
「偵察させてくれ」
『了解でっす。各艦、偵察ドローンを射出~』
13隻の宇宙戦艦から円筒形のドローンが発射され、超高速で『惑星X-0192』のほうへ飛んで行った。
しばらくすると、正面モニターのいくつかの情報が加えられていく。
その中で大きいものは、まず惑星の近くに50隻くらいの宇宙戦艦がいることだ。どうやらズワウルが率いていた120隻が全てではなく、防衛艦隊も残していたらしい。もっともズワウルの艦隊と同程度の強さであれば、『勇者艦隊』の相手にはならないだろう。
気になるのは、さらに二つのアイコンが表示されたことだ。
「『ウロボロス』、あの表示はなんだ?」
『あれは「惑星X-0192」の衛星でっす』
「衛星? 地球でいう月みたいなものか」
『その通りでっす。それぞれ、「惑星X-0192」から30万キロ、40万キロくらいの場所にありまっす。なにか気になりますか~?』
「少しな。俺の勘があそこになにかあると言ってるんだ」
そう、『ウロボちゃん』から衛星だと聞いた瞬間、首の後ろあたりがピリッと来たのだ。
『敵の拠点があるのかもしれませんね~。それぞれドローンを向かわせて詳しく調査しまっす』
そこで、正面モニターに『友軍艦隊のジャンプアウト感知』という文字が表示された。
『艦隊左方1万キロの地点に多数のジャンプアウト兆候を確認しました~。銀河連邦軍の識別信号を確認。銀河連邦評議会直属の支援艦隊と思われまっす』
モニターに別画面が付け加わり、そこにいくつかの緑の光が現れたかと思うと、その光から次々と宇宙戦艦が出現した。数は50隻くらいだろうか。船のほとんどは見慣れた形状のものだが、1隻だけ明らかに初めて見る、飛行船を二つ横に並べたような双胴の戦艦があった。見た感じ『ウロボロス』の1.5倍くらいありそうな船である。
『レザルスティス級要塞艦1、リードベルム級戦闘砲撃艦2、ガルガンティール級戦闘艦6、トライレル級砲撃艦12、ミッドガラン級駆逐艦24隻、ファントマ級防護艦20、モズモント級強襲揚陸艦6の全71隻の大艦隊でっす』
「レザルスティス級要塞艦。まさかあれが出てくるとは思いませんでした。ということは、やはりメンタードレーダ議長が来たようですね」
新良が口にした言葉に、ミリタリーマニアの双党とレアが目を輝かせた。
「ねえ璃々緒、そのレザルスティス級要塞艦ってどんな船なの? 『ウロボロス』より強いの?」
「攻撃力だけならリードベルム級のほうが上。レザルスティス級要塞艦は守りに特化した船で、無人艦であるファントマ級防護艦を盾のように操って艦隊を守る能力があると言われている。でも銀河連邦軍内でも極秘に近い艦艇で、実戦投入は初めてだと思う」
「うわ~、それってすごくラッキーだねっ!」
「とてもオンナゴコロをくすぐるお話でぇすね!」
なんて能天気なことを言っていると、『ウロボちゃん』がピクッとした。
『艦長、レザルスティス級要塞艦「レザルスティス」から通信でっす』
「つないでくれ」
正面モニターの一部に新たな画面が表示される。
映っているのは、人型の白い靄みたいな姿の宇宙人。銀河連邦評議会の長、つまり銀河連邦のトップであるメンタードレーダ議長である。
彼の身体は半分が別の次元にあって、それで靄のような姿になっているらしい。その代わり超常的な感覚を持っていて、『魔王』の存在などを感知できるとのことだ。実際、惑星ドーントレスではその能力は見せてもらったことがある。
『お久しぶりですミスターアイバ。どうやら間に合ったようですね』
彼はクウコと同じく念話使いなので、言葉が脳内に直接響いてくる。
「お疲れ様ですメンタードレーダ議長。議長自らが戦場に出て大丈夫なんですか?」
『さすがにこの一部始終は私が直接見ないわけには参りません。そして確かに、あの惑星からは強い力を感じますね』
「『魔王』がいるということでしょうか」
『ええ、これは「魔王」という呼び名に相応しい、恐ろしい意思を持った力です。全てを壊し、圧し、潰し、己がものとしなければ済まないという強烈な意思。まさかこのような存在がいるとは思いませんでした』
「メンタードレーダ議長に『魔王』がいると保証してもらえるなら安心してあの惑星に乗り込めますね」
『あれに向かっていけるというだけで、私はミスターアイバに敬意を抱きます。これは……この力はメンター人には耐え難い……恐ろしい相手です』
議長は白い靄を揺らしているが、その揺れ方は今まで見てきたより少し激しい。今の言葉から察するに、恐怖とかそんな感情を表しているのだろうか。
『「魔王」の近くに2つの強い意思があるのも感じます。さらに無数の力……モンスターの存在も感じます。大陸のほとんどがモンスターに覆われているようですね」
「『魔王』に支配された星になっているんでしょう。放っておけば全ての星がそうなってしまいます。銀河連邦の科学力があれば抑えられるかもしれませんが――」
『いえ、あの「魔王」だけはどれほどの戦力をつぎ込んでも勝てないと、そう感じます。それに……どうやら「魔王」は、我々を迎える特別な準備をしていたようです」
そこで、メンタードレーダ議長の姿が大きく揺れた。
それが非常な驚きを示しているのだと、なんとなくわかってしまった。
直後にモニターに警告の表示。そして『ウロボちゃん』が声を上げた。
『艦長、2つの衛星に向かわせたドローンが攻撃を受けました~。衛星に巨大な空洞が開いていて、そこから巨大なモンスターが出現したようでっす』
「モンスター? 衛星ってことは空気はないだろ?」
『はい~。つまり、宇宙空間でも行動できるモンスターのようでっす。ドローンからの映像を映しますね~』
いきなりの緊急事態に、青奥寺たちが息を呑むのがわかった。
メンタードレーダ議長の体の揺れは激しいままだ。
そして、正面モニターに、月のような衛星が映し出された。その表面に巨大な穴が、見えるだけで10個開いているのが確認できる。
モニターの表示によると衛星の直径は約2000キロメートル、そして穴の直径は10キロ近くあるとなっている。集合体恐怖症というものがあるそうだが、穴がポコポコと開いている衛星の絵面はそれに触れそうな気味悪さがある。
そして問題は、その穴から確かにモンスターと思われるなにかが出てきていることだった。
しかも穴の大きさと比較して、その全長はゆうに500メートルくらいはありそうだった。




