45章 勇者と魔王 01
所用により5月5、6日は更新を休ませていただきます。
本作の次回更新は5月8日になります。
『提督、「レーナオン」と「ジンメル」の補修にはあと18時間が必要だと「ウロボロス」から連絡が入りました』
俺が『ヴリトラ』の貨物室で軽く汗を流していると、近くで控えていたダークエルフ秘書型アンドロイドの『ヴリトラちゃん』がそう伝えてきた。
「18時間でできるんだから大したもんだな。戦艦の補修なんて普通一カ月とかかかりそうな気がするが」
『ヴリトラちゃん』からタオルを受け取って汗を拭き、スポーツドリンクを受け取って飲む。
『軽微な損傷であったこと、各艦に高機能アンドロイドが多数配備されていること、提督が補修用の材料を多く持っていること、そして汎用工作システムを装備したリードベルム級やガルガンティール級が複数あること、これらが有利に働いています」
「必要なものをその場で作ってすぐ取り付けられるってことか。まあわかった、じゃあ出発は24時間後にしよう。皆に伝えてもらっていいか?」
『了解しました』
トレーニングを切り上げて、自分の部屋でシャワーを浴び、『ウロボロス』の『統合指揮所』に行く。
艦長席に座ると、すぐに『ウロボちゃん』がやってきた。
『艦長、24時間後に出撃の件了解していまっす。なにか準備が必要なものはあるでしょうか~』
「基本出たとこ勝負だからこれってのはないが……ああ、そういえば、『惑星X-0192』に行く時には、ちょっと離れたところにジャンプアウトして偵察機を飛ばしたりするんだよな?」
『もちろんでっす。ドローンを複数先行させる予定でっす』
「ならいい。あとはライドーバン局長に連絡をして……。それと銀河連邦の主星イージナから『惑星X-0192』までは通常のラムダジャンプだとどれくらいかかるんだ?」
ライドーバン局長の話だと、銀河連邦評議会直属の調査艦隊が援軍として『惑星X-0192』に派遣されると言っていた。できればこちらはそれに合わせないとならない。
『推定で50分でっす』
「ならたぶん大丈夫だな」
『ところで艦長、「惑星X-0192」には降下するんですよね~?』
「宇宙からの攻撃で『魔王』を倒せればいいんだが、まず無理だろうな。俺が直接行って殴ってこないと奴は倒せないはずだ」
『艦長と同等の存在と考えると、「ソリッドマギキャノン」でも倒せませんからね~』
まあ『魔王』のことだから、『惑星X-0192』には『魔王城』を作った上に、地上をモンスターだらけにしているはずだ。外のモンスターは艦砲射撃やらアンドロイド兵やらで駆逐できるだろうが、たぶん『魔王城』は『ソリッドマギキャノン』でも破壊できないだろう。あれは『魔王』そのものと一体化している、『魔王』と同等の物理・魔法耐性を持った建物なのである。
その後新良を呼んで、新良の宇宙船『フォルトゥナ』にてライドーバン局長に出発時刻を伝えた。
画面向こうの毛むくじゃらエリート宇宙人は、
『了解した。支援艦隊はすでにいつでも出撃できる態勢にあるそうだ。その時間に「惑星X-0192」に到着するだろう」
と言っていたので、これで問題ない。
あとは時間が来るまで、しっかり飯を食って休んでおくだけだ。
1時間後、俺が部屋で休んでいると、青奥寺がやってきた。
「どうした?」
「済みません先生、相談があります」
青奥寺はいつもの通り真面目な表情だが、鋭い目には戦う者の決意が浮かんでいた。
この目をした時に青奥寺が言ってくる内容はだいたい想像がつく。
俺は青奥寺を椅子に座らせ、自分はそばのベッドに腰かけた。
「あ~、もしかして『魔王城』に一緒に入って戦いたいとかか?」
と先回りすると、青奥寺は驚いたように目を開きつつすぐにうなずいた。
「はい、そうです。『魔王』は無理だと思いますけど、途中のモンスターとかなら相手になると思うんです。先生も、『魔王』と戦うまでは体力を温存しておいたほうがいいと思いますし」
「なるほど……」
「それに、確か『魔人衆』という人たちもいるんですよね。前に見たバルロさんとか、ああいう人たちと戦う時にも1人で戦うよりはいいと思うんです」
そう、まだ『魔王』の元には、魔王軍四天王とも言うべき人間が2人いる。
一人は黒いコートの長髪イケメン・バルロ。もう一人は禿頭で菩薩顔のマッチョ・ゼンリノだ。
バルロは超スピード型の近接戦闘タイプで、単純な機動力なら俺と並ぶほどだ。一方ゼンリノはパワータイプの戦士に見えたが、精神魔法の使い手でもあり、トリックスター的な部分もある面倒そうな奴である。
で、奴らに今の青奥寺たちで相手になるかというと、ルカラスを含めて全員でかかればたぶん勝てるだろうが、こちらも無傷では済まないだろうというところである。
ただまあ、あいつら相手に正々堂々戦ってやる義理もないので、俺も一緒になって多勢に無勢で戦えば一方的に勝つことも可能だろう。
「それに先生、勇者をしていた時だって一人で戦っていたわけではないんですよね? でしたら、今回も一人で行く必要はないんじゃありませんか?」
「まあそうなんだがな。一応ルカラスは一緒に行ってもらうつもりだったんだが、仲間は多いほうが楽か」
「はい。これでももう特Ⅱ型までなら戦えますから、足手まといにはなりません」
そうなんだよなあ。信じられないことだが、青奥寺たちはすでに勇者パーティの仲間並の力を持っているのである。もちろん一人一人の技量はまだ経験の差で及ばないが、装備と人数を考えれば戦力的には完全に上である。
「わかった、じゃあ俺の戦いに最後まで付き合ってもらおうか。よく考えたらアンドロイド兵だって連れていっていいんだしな。こうなれば使える者は全部使って叩きのめそう」
「はい! ありがとうございます」
青奥寺は嬉しそうな顔で微笑むと、椅子から立ち上がって、珍しく前のめりになって俺の手を取ってきた。
「その……前から言ってますが、私は、私たちは先生を一人にしたくないんです。一緒に行けるところまでは一緒に行きますから、これからもそのつもりでお願いします」
そこでまた真面目な顔……というより妙にしっとりした雰囲気を醸し出してくる青奥寺。
う~ん、そこまで感動的な場面でもないような気もするんだが、それを指摘すると危険だと、微妙に勇者の勘が反応しているんだよな。
なので俺も青奥寺の手を握り返して、
「俺も青奥寺たちとは長い付き合いになると思ってるよ。もちろん中途半端なところで皆をほっぽりだすつもりもないから安心してくれ」
と言って適当に誤魔化しておいたのだが、
「はい。先生には最後まで責任を取っていただかないといけないこともありますし」
と、すごく気になる言葉を返されてしまった。
「いや、その『責任』ってなんの……」
「では先生、出撃することは皆に伝えておきますね。初等部組と、戦えない山城先生たちは待機ということにしておきます。他になにか伝えることはありますか?」
「あ~、じゃあ30分後に食堂集合って伝えてくれ。勇者コレクションから使えそうな装備を選んで装備してもらう。それからその『責任』っていうのは……」
「わかりました。皆に伝えておきます。失礼します!」
青奥寺は明らかに無理矢理言葉を被せると、そのまま礼をして部屋を出て行ってしまった。
いや、なんか気になることを言われたまま最終決戦っていうのも困るんですが。
もしかしたら「真実を知りたければ『魔王』に勝て」というメッセージなのだろうか。しかしあの言い方だと、その『真実』は俺にとってかなり重いものである気がするのだが……。
まあ勇者の勘が反応していないので、処刑案件ではないと信じたい。




