44章 勇者艦隊 VS 魔王艦隊 05
さて、『統合指揮所』内の微妙な空気とはまったく関係なく、いよいよ13対121の艦隊戦が始まろうとしていた。
こちらは逆V字陣形で『魔王艦隊』へ向けて進んでいる。一方『魔王艦隊』は、全艦が艦首をこちらに向けた以外の動きはない。
『ウロボちゃん』が、艦長席に座る俺の隣で見上げてくる。
『通常兵装の有効射程距離内まであと3分ほどでっす。艦長、どうやって戦いましょうか~』
「全力でやってくれ。全部綺麗に片づけるつもりで」
『では、「ウロボロス」と「ヴリトラ」による「ソリッドマギキャノン」で先制しまっす。向こうもリードベルム級がいますので似た攻撃をしてくると思いますが~』
「こっちと同じように『オメガ機関』を使った攻撃をされたらマズいか。それは俺の魔法で防ごう。艦隊をできるだけ近づけてくれ。まとめて魔法で包む」
『了解でっす、よろしくお願いしまっす。「ソリッドマギキャノン」の弾頭装填はすでに済んでいまっす』
『ソリッドマギキャノン』とは、『ウロボロス』『ヴリトラ』の艦首にある巨大な砲身から大型の弾頭を超高速射出して敵の真ん中あたりで炸裂させ、その爆発に巻き込んで敵艦にダメージを与えるという攻撃だ。
前に海賊船10隻を沈めるのに使ったが、10%の出力にもかかわらず一瞬で全艦を消滅させていた。今回は100%で爆発させるので、その威力がどれほどになるのか予想もつかない。
『目標捕捉、射出シークエンスオールクリア。艦長、発射の合図をお願いしまっす』
三次元モニターに、『ソリッドマギキャノン』の着弾地点が二カ所示される。『魔王艦隊』はこちらの『ソリッドマギキャノン』を警戒してか、かなり広がって艦列を組んでいる。しかしその表示を見る限り、最初の一撃、二発の『ソリッドマギキャノン』で艦隊の半数以上が爆発に巻き込まれるようだ。
と、三次元モニター内の『魔王艦隊』の旗艦『ファフニール』から弾頭が射出された。
『「ファフニール」からのソリッドラムダキャノン射撃を確認。到達まで30秒』
正面モニターに『警告』のアラートが派手に表示され、『統合指揮所』内に緊張が走った。特に初めて組の明智校長や山城先生はつばを飲み込んだようだ。
「こっちも撃て」
『了解でっす。「ウロボロス」「ヴリトラ」、「ソリッドマギキャノン」発射~』
船体がブルッと揺れ、正面モニターに映る『ウロボロス』の艦首にある巨大な砲身から、タンクローリー程の大きさの弾頭が射出された。
『ヴリトラ』からも発射された弾頭と共に、『魔王艦隊』の方へと超高速で飛んでいく。
『艦隊密集隊形すでに完了していまっす』
三次元モニターを見ると、13隻の『勇者艦隊』はほとんど隙間がないほどピッタリとくっつきあっていた。AIによる高度な操舵の賜物だろうか。
「『隔絶の封陣』展開、っと」
今まで数えきれないくらいお世話になってきた勇者専用の絶対防御魔法『隔絶の封陣』。
キツい試練を乗り越えて身に着けた魔法だけあって、すべてのエネルギーを別次元に転送して『なかったことにする』というその効果は圧倒的だ。
とはいえ勇者自身の魔力によってその効果は大きくブレるのだが、『魔王』の力を取り込み、さらにこの日のために秘かに鍛錬を欠かしていなかった俺の行使するそれはモノが違う。ちょっと前までは『ウロボロス』一隻を包むのがやっとだったが、今はもう艦隊ごと包めてしまう。
正面モニターに多面体で構成されたシールドが移る。三次元モニターを見ると、しっかり13隻すべてを包み込んでいるようだ。
それを見て、魔法の知識に詳しいカーミラが溜息を漏らした。
「先生の魔力がすごいっていうのは十分知っているつもりだったけれど、まだまだ本気じゃなかったのねぇ」
「いや、最近になってさらに魔力を引き上げたんだ。それに『隔絶の封陣』の使い方も上手くなったからな。たぶん勇者の歴史上、俺が一番この魔法を多く使っているだろうし」
「だいたい勇者しか使えない魔法なんでしょう? 先生以前に何人くらい使い手がいたのかしら」
「ルカラス、知ってるか?」
「んむ? それはな――」
『敵の「ソリッドラムダキャノン」、着弾しまっす』
状況を忘れて始めた世間話は、『ウロボちゃん』の警告によって中断された。
『隔絶の封陣』の多面体シールドの向こうでなにかがキラッと光り、次の瞬間画面全体が真っ白になった。向こうの『ソリッドラムダキャノン』が着弾……というより、着弾する寸前に爆発、弾頭に蓄積された『ラムダエネルギー』を全解放したのだ。
緑がかった白い光がその証拠だが、それはつまり向こうはまだ『ソリッドラムダキャノン』に『オメガ機関』の技術を取り入れていないことの証でもあった。
一瞬の鋭い光に『統合指揮所』にいた女子たちはビクッと身体を震わせたようだが、震動一つ起きないことに安堵の息を漏らした。
『「ソリッドラムダキャノン」のエネルギー解放を確認。解放されたラムダエネルギーの50%が消失。残りは宇宙空間に拡散しました~』
「『ソリッドラムダキャノン』を完全に防ぐシールド……。わかってはいましたが、先生の魔法の力は想像を絶します」
光のない目を向けてくる新良に、俺は首をわずかに横に振ってみせた。
「俺がすごいっていうよりこの魔法の効果がおかしいんだ。まあ魔法なんて神様の力みたいなもんだからな。ほとんどインチキさ」
「インチキなのは先生の存在だと思います。……もちろんいい意味でです」
「まあ、それも言えるかもな」
『当方の「ソリッドマギキャノン」着弾まであと10秒でっす』
『ウロボちゃん』の言葉に、俺は三次元モニターの方へ目を向けた。
『ウロボロス』『ヴリトラ』から発射された弾頭が、今にも『魔王艦隊』の中へと飛び込んで行くところだった。ちなみに2発の弾頭を迎撃するための攻撃は行われていたようだが、『マギシールド』を装備した弾頭を破壊することはできなかったようだ。
もちろん『魔王艦隊』は、『ソリッドマギキャノン』の爆発から逃れるように、散開行動も取っていた。元々それなりの散開隊形を取っていた艦隊だが、艦隊はさらに広がっていた。
『「ソリッドマギキャノン」目標地点に到達するまで5秒、4、3、2、1、到達、エネルギー解放しまっす』
三次元モニター内で、大きな球体が2つ、唐突に出現して広がった。正面モニターでも小さな太陽のような光が2つ、いきなり出現したのが確認できる。その光球の縁がわずかに赤みがかっているのが、『魔力ドライバ機関』を利用したことの証らしい。
三次元モニターに目を戻すと、球体は半分以上の宇宙戦艦を飲み込んだように見えた。そしてその球体が消えると、確かにその部分の宇宙戦艦はごっそりと表示が消えていた。
『魔王艦隊』の集合の中に、ぽっかり二つの球状の空間ができたような形である。
『敵艦隊121隻のうち、57隻の撃沈を確認。ただし10隻ほどの艦艇は、「ソリッドマギキャノン」の効果範囲にあったにも関わらず中破でとどまっていることを確認。「オメガ機関」を利用したシールドを装備しているものと思われまっす』
「防がれたってことか」
『敵艦は多くが「オメガ機関」シールドを装備しているようでっす。こちらの使用した兵器が従来の「ソリッドラムダキャノン」であれば、かなりの割合で防がれたものと推定されまっす』
「やはり向こうもしっかり準備してきているんだな。だが今の攻撃で彼我の技術差はわかったはずだ。さて、ズワウルはどう出るか」
三次元モニターの表示から、旗艦『ファフニール』が健在なのは確認できる。
モニターをそのまま見ていると、『魔王艦隊』の多くの船から無数の光弾が射出されるのが確認できた。同時に、一斉にこちらに向かって移動を始めたようだ。大砲の撃ち合いは不利と見て、格闘戦に切り替えたということだろう。




