44章 勇者艦隊 VS 魔王艦隊 04
俺たちを乗せた宇宙戦艦『ウロボロス』は今、惑星エルクルドから少し離れた場所で、姿を隠して停泊している。
その『ウロボロス』と惑星エルクルドの間あたりに、今まさに正体不明艦隊がジャンプアウトしてきた。
それが『魔王』の手下たちである『魔王艦隊』であることは間違いなさそうだが、問題はその数である。120隻を超える大艦隊というのはさすがに俺としても驚きであった。
しかし敵の数が多いからといって、放っておけば新良の故郷の惑星はメチャクチャにされてしまう。
ここはイグナ嬢と『ウロボちゃん』が作り出した『新魔力ドライバ機関』の力を信じて戦うしかない。
もっとも、俺の勇者専用魔法『隔絶の封陣』があれば大丈夫だろうという読みもある。それにこちらには『ウロボロス』と『ヴリトラ』という、銀河連邦でも最強の戦艦を魔改造しまくった超兵器もある。向こうがこちらの度肝を抜くような新兵器でも繰り出してこない限りどうにかなるだろう。
ただまあ、普通に考えたら13隻対120隻以上なんていうのは戦いにすらならない。事情を知らない九神やリーララや明智校長などは、不安そうな顔を向けてきていた。
「先生、どうするのですか?」
と皆を代表して聞いてきたのは新良だ。
「もし『魔王艦隊』なら戦うしかないだろ。その前に相手が何者かは確認しなきゃならんけどな」
「しかし、今回向こうも『オメガ機関』を応用した装備を行っているはずです」
「そうだな。だがま、俺の防御魔法は破れないだろうしなあ。それより問題なのは、連中が俺たちよりエルクルドにモンスターを落とすことを優先した場合だな。それから、例の繭みたいな物体というのも気になる」
「そうですね。まだわからないことが多すぎます」
『ウロボちゃん』のほうを見ると、微動だにせずに立っているのでどうやら情報収集に集中しているらしい。ただ動かないのはただの演出らしいので、構わず話しかける。
「『ウロボロス』、相手の艦隊数とかは確定したか?」
『はい艦長。識別不明艦隊は、リードベルム級戦闘砲撃艦1、ガルガンティール級戦闘艦16、トライレル級砲撃艦24、ミッドガラン級駆逐艦60、それにモズモント級強襲揚陸艦20の121隻編成でっす。その他に、宇宙船ではない全長1キロほどの謎の巨大物体が200ほど出現していまっす。これはミッドガラン級駆逐艦とモズモント級強襲揚陸艦が牽引しているようですね~』
「その物体の映像って出せるか?」
『できまっす』
正面モニターがすごい勢いでズームアップをしていくと、星とは別の光の集まりが急速に近づいてくる。それらはすぐに宇宙戦艦の集まりというのが判明するが、120隻の大艦隊というのは無限に広がる大宇宙の中にあってもなかなかに壮観だ。
そして、その多くの宇宙戦艦が、自身より巨大な物体を複数のワイヤーで牽引しているのが見えた。
それは、見た目はまんま蚕の繭であった。白い楕円形の球体で、その表面は輪郭がぼんやりしていて、金属などで作られていないことがわかる。
「なんだこれ」
「あ、前にテレビで見た蚕の繭みたいですね!」
清音ちゃんがそう指摘すると、双党が「あ~、確かに似てるかも」と反応する。
「お兄ちゃん、あれが繭なら中になにかいるんじゃないですか。大きな蚕さんとか」
「その通りだろうね。ただ多分、中にいるのは蚕みたいな可愛い虫じゃなくて……」
「モンスター、ですね」
と俺の言葉を横取りしたのは新良だ。この場での当事者であるからか、モニターを見つめる顔は誰よりも真剣だ。
「恐らくそうだろうな。『ウロボロス』、あれの中身ってわかるか?」
『それはちょっと難しいですね~。近づいてセンサーを打ち込まないと無理かもしれません~』
「だよな。だがま、ロクでもないものなのは間違いないだろう。奴らが動き出す前になんとかしたいが、一応その前に挨拶はしないとな。『ウロボロス』、こちらの姿を見せてあの艦隊に接近してくれ。向こうに呼び掛けるのも忘れずにな」
『了解でっす。ウロボロス、隠蔽シールド解除。艦長、艦隊を宇宙空間に出してください~』
「ああ、忘れてたわ」
『ウロボロス』以外の船はまだ俺の『空間魔法』内にしまったままだ。俺は急ぎ展望室へ行って、『ヴリトラ』を筆頭に12隻の船を出す。ちなみに強襲揚陸艦一隻だけは地球のイレギュラー対応のために残してきている。
『統合指揮所』に戻ると、モニターには全13隻の『勇者艦隊』が表示されていた。
『リードベルム級戦闘砲撃艦2、ガルガンティール級戦闘艦2、トライレル級砲撃艦3、ミッドガラン級駆逐艦4、モズモント級強襲揚陸艦2、すべて揃いました~。各艦動力問題なし、兵装展開完了、艦長、いつでも行けまっす』
「じゃあ接近開始」
俺の指示で、『勇者艦隊』は『ウロボロス』を先頭に逆V字陣形で、『魔王艦隊』へと接近していった。三次元モニターにはそれぞれの艦隊がアイコンで表示されているが、それだけ見るとやはり相手になるとは思えない戦力差である。
それでも俺の力を知っている青奥寺たちは平気な顔だが、さすがに明智校長や山城先生は不安そうな顔をしていた。保健の関森先生は食い入るようにモニター、ではなく、近くのアンドロイドクルーを見ているが。
少しして、いきなりモニターに『通信接続』の文字。
『艦長、先方から応答がありました。艦名「ファフニール」より、映像ありでの交信を求められていまっす』
「じゃあ映像ありでつないでくれ」
モニターの一部が切り替わり、そこに相手方の画像が表示された。
『統合指揮所』内と思われる部屋を背景に、現れたのはトカゲ頭の宇宙人だった。トカゲと言っても、コモドドラゴンみたいなゴツいタイプのそれで、頭頂部には赤いトサカがあり、その目には明確な知性が感じられる。
トカゲ顔なので分かりづらいが、それでも見る者に威圧感を与える、大物の風格は確かに感じられた。見た瞬間にフィーマクードのボスだと納得できるオーラがある。
『顔を見せるのは初めてか。しかしすでに何度も話をした間柄だな、アンタッチャブルエンティティ』
「そうだな、フィーマクードのボス。俺の名前はハシル・アイバだ。最後くらいは名前を知っておいてくれ」
『ズワウルだ。こうして最後に貴様ときちんと話ができて嬉しく思う』
「こちらもまあ、そう思わないでもない。しかしまさか天下の『フィーマクード』が『魔王』、じゃなかった、『導師』なんてペテン師の走狗になっているとは思わなかったな」
『相変わらずふざけた男だ。だがその態度に何度も煮え湯を飲まされてきた。「導師」様がおっしゃる通り、理を曲げる人間よ』
そう言って、ズワウルは目を細め口を歪めた。苦々しい表情をしたのだろうか。
『だがそのふざけた態度もここまでとしてもらう。「導師」様のもとへ行くつもりだったのだろうが、ここで宇宙の塵としてくれる』
「それはお互い様だ。しかしまさか宇宙船でモンスターを星に投下するなんて、随分とアホなことを考えたんだな『導師』は」
これは繭の中身を探るつもりでカマをかけたのだが、どうやら正解だったようだ。
ズワウルは目を細め、口の両端を持ち上げた。
『「導師」様のお力はすごかろう。アビスビーストを生きたまま宇宙空間内で運搬する技術だ。これのお陰で「導師」様の支配が一気に進む。私はその手伝いができるのを光栄に思っているのだよ』
「確かに大した技術だ。だからこそこっちは阻止させてもらわないとならないんだけどな。一応聞いておくが、降伏するつもりはないよな?」
『こちらも同じことを聞いておこう、と言いたいところだが、貴様は必ず滅ぼすと決めいている。もちろんこちらに降伏の意志などないし必要もない』
「了解だ。ああそれから、お前自身はなんで『導師』にそんな心酔してるんだ? もう一度言うが、あれはただのペテン師だぞ」
『あの方のお力を見てそのお考えを知れば、誰でも心から従う気になるだろう。絶対者による絶対的な支配。それこそがこの世界が最も安定する唯一の方法なのだよ』
ズワウルの目に、ふと熱のようなものがこもった気がした。
どうやら、こういうのはどこの世界でもどの星でも同じらしい。つまり向こうにはそれなりの理由があるが、こちらにはそれが理解不能という構図である。
ズワウルにも思想的、もしくは哲学的ななにかがあってこんなことをしているのだろう。しかしそれが俺たち側の考えとは相容れない。とすれば、どちらかがどちらかを駆逐するまで騒ぎは収まらない。話し合いで着地点が見いだせる相手じゃないというわけだ。
「そっちの考えはわかった。遠慮なくやっていいというのもわかった。有意義な通話だったな。感謝するよ、ズワウル」
『それを貴様の最後の言葉として記憶してやろう。では、始めようか。ハシル・アイバよ』
そこで通信が切れた。
最初から分かっていたことだが、いよいよ何度目かの、そしてたぶん最後の宇宙艦隊決戦だ。
俺が振り返ると、青奥寺や新良、九神やカーミラなどは真剣な目でうなずいてくれた。
双党やレア、絢斗たちはどう見てもワクワクした感じで目を輝かせている。
山城先生と明智校長は、これから始まることに不安いっぱいという感じだが、これが普通の反応だ。
その中で、一番不安そうにしているはずの清音ちゃんがすごく嬉しそうな顔をして、
「お兄ちゃん、今のやりとりすごくカッコよかったです!」
と言ってきたのに俺は驚いてしまう。
「そ、そうかな?」
「はい。なんか映画とかアニメとか、そんな感じでした!」
チラッと見ると、三留間さんと雨乃嬢がすごく力強くうなずいてくれていた。宇佐さんも眼鏡を光らせていて、ルカラスはなぜか腰に手を当ててドヤ顔だ。
リーララはそっぽを向いていて、関森先生はアンドロイドクルーの腕をツンツンつついている。
う~ん、この統一感のない艦内、さっきのズワウルに見せたらどんな顔するんだろうなあ。
そんなことを考えると、俺の中にわずかに芽生え始めていた緊張がスッと抜けていく気がした。
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peroshi氏のイラストもすさまじく充実しており、特にゲシューラの姿は一見の価値ありです。
また、『おっさん異世界最強』のコミカライズも2巻まで発売されています。
どちらもよろしくお願いいたします。




