44章 勇者艦隊 VS 魔王艦隊 06
『勇者艦隊』と『魔王艦隊』の衝突。
大砲の撃ち合いはこちらの一方的な優勢に終わった。
次はどう来ると待っていると、正面モニターに再度『警告』の文字が表示される。
『無数の「ソリッドキャノン」が発射されました。どうしましょうか~』
「また魔法で防ぐから、それが終わったらこっちもお返ししてやれ」
『了解でっす。各艦、「ソリッドキャノン」発射準備~』
『ウロボロス』の甲板上部に並んだ100基×4列の『ソリッドキャノン』発射口のハッチが流れるように開いていく。
「これこれ、いつ見てもカッコいい~!」
「オウ、これはオンナゴコロをくすぐりまぁすね!」
ミリタリーマニアの双党とレアがはしゃいでいる。まあ確かに、特に興味がない俺が見てもカッコいいと思える動作ではある。あと女心はこういうのではくすぐられませんよレアさん。
山城先生も、「男の子はこういうの好きよねえ」などと言っているが、今興奮しているのは女子2名だけである。
俺は再度『隔絶の封陣』を展開して、敵方の『ソリッドキャノン』着弾に備える。
「そういえば『ウロボロス』、こっちの『ソリッドキャノン』は改造してないのか?」
『もちろん「魔力ドライバ機関」を応用し、マギエネルギーを高密度状態で充填していまっす。威力は通常の「ソリッドキャノン」の10倍以上、しかも通常のラムダエネルギーシールドではそのエネルギーの5%しか減衰できません~』
「要するにトンデモ兵器ってことか。まあ向こうも『オメガ機関』のシールドを使ってるみたいだし、果たしてどこまで威力が出るか」
と話をしている間に、『魔王艦隊』の「ソリッドキャノン」の着弾が始まった。
『隔絶の封陣』の多面体シールドの表面に、バババッと瞬時に100以上の光が閃いては消えていく。しかもそれがしばらく止む気配がない。一体何発の「ソリッドキャノン」が飛んできたのだろうか。
『敵の「ソリッドキャノン」から強力なマギエネルギーを感知。「オメガ機関」を利用した兵器のようでっす』
「そっちは改良してきたか。『隔絶の封陣』なしだったらさすがにマズかったな」
『当艦隊に実装済みの「マギシールド」であれば20発程度は防げると思いまっす』
「そうなの?」
う~ん、思ったより技術の進歩が進んでるみたいだなあ。『ウロボちゃん』の表情はどことなく自慢気である。
さて、しばらく続いた『魔王艦隊』の『ソリッドキャノン』攻撃だが、さすがに弾が尽きたようで、モニターに爆発の閃光が映らなくなった。
『敵からの「ソリッドキャノン」尽きました~。こちらの射撃開始しまっす』
俺が『隔絶の封陣』を解くと、密集していた『勇者艦隊』は散開し、それぞれ『ソリッドキャノン』を射出し始めた。
『ソリッドキャノン』搭載艦は11隻で、それらが一斉に甲板から垂直にミサイルを打ち上げていく様子は壮観である。
特に『ウロボロス』『ヴリトラ』の100×4列という凄まじい数の発射管から連続射出される映像は圧巻で、双党やレアだけでなく、清音ちゃんや絢斗も少し興奮気味だった。明智校長すら「凄まじい光景ですね」と漏らしていたくらいである。
射出された千を超える『ソリッドキャノン』の弾頭はカーブを描いて、それぞれロックオンした敵艦に向かって行く。
三次元レーダーを見ていると、無数の光点が今だ60隻以上いる『魔王艦隊』へと飛んでいくのが確認できる。当然向こうも黙って見ているはずはなく、各艦が回避行動を取りながら、さらに小さな光点を無数に射出し始めている。
「これはたぶん『ソリッドキャノン』を迎撃するための武器ですねっ」
マニアな双党がそう解説すると、『ウロボちゃん』が『その通りだと思いまっす』と答えてくれる。
見ているとその迎撃によって、半分くらいの『ソリッドキャノン』が撃墜されたようだ。
『かなり精度が高い迎撃システムのようですね~。『オメガ機関』を利用したものかもしれません~』
『ウロボちゃん』が感心したように言うが、それはまだ余裕があるということである。
迎撃されてなお数百発が残る光弾が散開してそれぞれの獲物に向かって進んでいく。さらに多くの『ソリッドキャノン』が敵方の迎撃によって落とされたが、それでも光弾は、敵艦に次々と着弾していった。
正面モニターにも、いくつか小さな輝きがパパパッと光っては消えていく。あの光の影で数百数千の命が失われているかと思うとなんともやるせないが、戦いとはそういうものだ。手加減すればそれだけこちら側の人間が同数以上死ぬことになる。
三次元モニターを見ていた新良が、
「あっという間に120隻の艦隊が壊滅……」
とつぶやいた。
見ると確かに『魔王艦隊』の数は30隻ほどまでに減っていた。
戦争では、全軍の3割も失えば戦闘継続は不可能なんて言われている。ということは、すでに『魔王艦隊』はもう艦隊の体を成していないともいえる。
だがそれでも諦めていないのか、『魔王艦隊』は逃げるどころかこちらへ向かって移動を開始した。その中にはズワウルの乗る『ファフニール』も含まれている。
『敵艦、こちらへ接近を開始しました~。通常兵装による攻撃をしてくるものと思われまっす』
「じゃあ受けて立ってくれ。……いや、こいつら……そうか」
三次元モニターを見ていた俺に勇者の勘のささやきが届いた。技術差をこれだけ見せつけられてもなお突っ込んでくるその姿。それは俺が勇者をしていた時に何回か見たことがあるものだった。
「こいつら死兵だな」
『シヘイというのはなんでしょうか~?』
「死を覚悟して突っ込んでくる奴らのことだ。刺し違えてでもこちらを倒そうって魂胆だな。向こうはまだ30隻、こちらは14隻、一艦で一隻沈めれば向こうの勝ち、そういう考えで突っ込んでくるってことだ」
『そんなに簡単には行かないと思いますが~』
「死ぬつもりなら簡単だ。攻撃なんて必要ない。30隻をそのまま体当たりでぶつければいい。数の差で向こうが勝つ」
『なるほど~、人間でないと考えつかない戦法ですね~』
感心したようにうなずく『ウロボちゃん』。
一方で青奥寺や絢斗は俺の方を凝視していた。『戦い』を経験している人間なら、俺が言ったことの異常性がよく理解できるのだろう。
三留間さんや明智校長、山城先生などは顔を曇らせているが、それも当然の反応である。
清音ちゃんはよく理解してなかったようだが、リーララに説明されて、口を押さえて驚いた顔をしていた。
『どう対処したらよろしいでしょうか~?』
「多分、人間が乗っている宇宙船の体当たりは俺の『隔絶の封陣』だと防げない。となれば手は一つだけだ」
『それは~?』
「全力で逃げる。逃げながら撃て」
『なるほど、さすが艦長でっす! 了解しました~』
ビシッと敬礼して、それから動きを止める『ウロボちゃん』。
正面モニター端に『勇者艦隊』の各艦の状態が表示されているのだが、そこに『了解』の文字が並ぶ。
『全艦回頭、敵艦から距離を取りつつ通常兵装で攻撃を行いまっす』
散開した『勇者艦隊』が、その場で180度回転する。もちろん巨大な宇宙戦艦なのでその動きはかなりゆっくりだ。
回頭が終わると、『勇者艦隊』は『魔王艦隊』から逃げる方向へ加速を始めた。三次元モニター上の表示では、『魔王艦隊』はかなりのスピードでこちらへ迫っている。
だがこちらが動き始めると『魔王艦隊』のスピードが落ちてくる。彼我の相対速度が落ちてきたからである。
これでひとまず体当たりというトンデモ戦法は封じられる。後は撃ち合いで勝つだけだが、そこで新良が口を開いた。
「先生、逃げるのは仕方ないと思いますが、この状態で通常兵装の撃ち合いをした場合、こちらが多少不利になると思いますが」
「ああ、そうかもしれないな」
『パルスラムダキャノン』や『レールガン』といった通常兵装は船体の前と横に多く設置されていて、後ろは比較的手薄である。だが『ウロボちゃん』の話だと、そのあたり大丈夫なはずだ。
『当艦隊の通常兵装「マギレーザー」は敵艦隊のそれを上回っているので問題はありません~』
と答えてくれるが、そこで俺の勘が働いた。こちらの思った通りにいかない時の『ピンときた』である。
「どうやら向こうも結構やるみたいだ。『ウロボロス』、俺の宇宙服を用意しておいてくれ」
『了解ですが、なにかあるのですか~?』
「俺の勘だ。たぶん一筋縄ではいかないと思う」
『艦長の超感覚ですね~。了解でっす。艦長用の特製オリハルコン製宇宙服「ブレイブアーマー」を用意してありまっす』
「お、おう」
う~ん、俺の勘は我ながらすごいと思っているのだが、『ウロボちゃん』の先読み能力もすごいな。しかし『ブレイブアーマー』って……。俺が勇者だからその名前なのだろうか。
さて、『ウロボロス』の後方を映している正面モニターに敵艦の姿が見えてきた。数は30、中央の大きいのが敵旗艦『ファフニール』だろう。
『通常兵装の射程圏内に入りまっす。3、2、1、各艦射撃開始~』
『勇者艦隊』の各艦から赤黒いレーザー光がパパパッと閃く。
それは正確に敵艦を捉えるが、シールドで大きく威力を減殺されたのか、装甲の表面を削り取っただけで致命的なダメージは与えられていない。
一方敵艦からも赤黒いレーザーが放たれて、正確にこちらの艦尾に命中する。といっても、こちらのシールドは完全にその攻撃を防ぎ切った。
『敵艦のシールドが想定よりも強固でっす。また敵艦にマギレーザーに類似の兵装を確認。長時間の射撃戦は危険かもしれません~』
「あ~、やっぱりそうなるか」
俺はそう口に出して、艦長席から立ちあがった。
「仕方ない、ちょっと外に出てくるわ。大丈夫、心配しなくても――」
俺は皆の方を振り返って、不安になっているだろうメンバーに声をかけようとした。
しかし明智校長と山城先生の初めて参加組以外、心配そうな顔をしている女子はいなかった。むしろ双頭やレア、清音ちゃんなどはワクワクした顔をしている。
う~ん、やはり長年付き合っていると勇者への信頼は高まるようだな。そう、これから始まるのはいつもの理不尽ですよ。




