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新編 Nostalgia Episode7  作者: 不死鳥ふっちょ
第二部  Power of the manuscript drives many people mad and leads to battle.
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第十五章第二節<The six of Rathcapia>

 聖十字騎士団、ベル・ジェルード領内に上陸成功。


 その報告は、ラーヴェルグ海峡内にある、地図にも記載されていない小島で待機していた聖槍騎士団の士気を多いに高めた。軍議においては、まだまだ若輩者の大言壮語よ、と半ば冷笑を押し隠しつつ好きにさせていたエリファレットも、今度ばかりはメルヴィンの策略の巧みさを認めぬわけにはいかなかった。


 たった二日半において、大将一人拘束、中将率いる二個中隊壊滅。この戦績は、ただの猪突猛進では成し得ないだけの力を持っていた。


 さらに、こうした国内外に不安を抱える情勢下での戦争、さらには初戦という段階での快勝は、いやがうえにも戦意を高め、そして軍隊を活気付かせるための、格好の材料でもあったのだ。


 報告を受けたエリファレットは即座に軍を展開、準備を進めていた七○○の兵を率いてベル・ジェルードへと上陸した。既に海岸線一帯はヒルヴァイロの占領下にあり、上陸を狙った戦闘などは起きることなく、無事に侵攻を果たす。


 そして上陸より十日。


 エリファレットは第二次上陸の部隊一,五○○人と合流し、そのまま南下、先行している聖十字騎士団がファレイアークとの国境に到達する前にソルトガイアから援軍が来るのを阻止するように戦線を展開していったのだ。






 斥候が定期的にもたらす情報では、聖十字騎士団の南下は順調であり、およそ三日後にはファレイアーク子爵領に到達すると伝えられていた。


 報告を受け、エリファレットは大きく頷くが、それと同時に胸中には一抹の不安も拭い去れなかった。


 進軍が順調に行くこと自体、悪いことでは無論、ない。しかし今回問題に感ずるのは、上手く行き過ぎるということなのだ。


 もっとも、上陸からこれまで、エリファレットが遭遇した戦闘が皆無であったわけではない。陥としてきた砦もあれば、小領主の城もあった。


 だが経験が物語っているように、ベル・ジェルードの抵抗が考えていたよりもずっと少ないのだ。


 何故、抵抗してこないのか。初戦の鮮やかな戦いぶりに、ヒルヴァイロに智将ありと見て早々に尻尾を巻いた、とは簡単には考えにくい。


 部下たちの中には、同じような考えを持っている者も、いるにはいた。彼等の主張では、ファレイアーク侵攻は聖十字騎士団に任せ、我々は別働隊としてソルトガイアに侵攻し、一気に攻め滅ぼすことが出来れば、さらに迅速に戦争は終了するだろう、という考えである。


 その気持ちも分からなくはないが、それでもエリファレットは首肯することはなかった。


 我々は聖十字騎士団の進軍速度に呼応する形で進んでいるのであり、また聖十字の速度はエリファレットの考えを上回っていたのだ。敵領内に攻め入る場合、もっとも恐れなければならないのは孤立することである。


 我々はラーヴェルグ海峡を越え、遠くヒルヴァイロの地からここまでやってきた。ということは、我々の味方もまた、遠き地にしかいないということである。


 もし制圧してきた地の何処かに、ベル・ジェルードが軍を集中させるようなことがあれば、我々は一気に退路を断たれるということになる。


 それを考慮に入れ、制圧の地に関しては野放しにならぬようにそれぞれの監視を置き、また物資の調達をしっかりと固めた上で進まなければ、後方の憂いをいつまでも抱えたままでいることになる。


 やはり、メルヴィンはそれを考えていない。知識と指揮だけは一流ではあるが、そうした戦争の基本を生かすだけの経験がまだ足りぬ。


 今の彼には、如何に流麗に敵地を陥とすか、それしか頭にないのだろう。士気を高める材料を、彼は部下の妄信から誤用してしまったのだ。


 だが、現時点で斥候や伝令程度で彼が耳を傾けてくれるとも思えぬ。


 半ば諦めを抱きつつも、エリファレットは書状を再三に渡りしたため、それをメルヴィンへと送ろうと考えたが、やはりそれが敵の手に渡り、いらぬ弱点を暴露するということを恐れ、ついに行動には移すことをしなかった。


 あと少し経てば、メルヴィンは国境越えの戦闘に対しての準備のため、幾許かの時間を要するようになるはずだ。そうしたときは、部隊を分けて合流し、今後の計画を話し合えばよい。


 用兵術に関しては、留学していたメルヴィンのことだ。恐らくは問題ないに違いない。


 そう、彼に欠けているのは、経験なのだ。






 ラスケイピア領は、大きく分けて六つの領域に分割することができる。


 まず、ラーヴェルグ海峡にもっとも面した地域の広い、ベル・ジェルード辺境伯領。


 ラスケイピア随一の水揚げ量を誇り、良好な港を数多く持つ、ゲゼル・ヴァイラス侯領。


 領土の三分の一を森林地帯に覆われ、美しい湖を湛える地、ソルトガイア侯領。


 最も南に位置し、さらに南方には山岳地帯を控えるワルキュリエ共和国との緩衝地帯、チェルセイクレア伯領。


 平坦な領土が広がるため、農業技術の先達を多数算出した、ファレイアーク子爵領。


 そして、ソルトガイア、チェルセイクレア、ファレイアークに接する位置にあるラスケイピア中央領。


 ヴァライア諸侯国連合解体後、領土を拡張したラスケイピアは、オールマイア滅亡と教皇領壊滅の歴史の交代劇には殆ど関わらなかったこともあり、国力を浪費することはなかった。歴史が変革する際の渦に巻き込まれることなく、戦後の国家間調整によって成長したラスケイピアは、故にその勢いを衰えさせることなく、着々と力をつけていた。


 その力、如何ほどのものか。


 エリファレットは、不安を打ち消せぬままの迷いを秘めた視線を、天に向けた。

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