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新編 Nostalgia Episode7  作者: 不死鳥ふっちょ
第二部  Power of the manuscript drives many people mad and leads to battle.
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間章Ⅹ<白き使者>

 ラスケイピア中央侯領の王城はその日、予想だにしなかった客を迎えていた。


 これに先んずること一週間、ニルヴァールヘイム公国領より伝令がきていた。もたらされた情報によれば、わが国において、ヒルヴァイロ群島における禁断の地、<緋なる湖畔(エスフォート・ライネ)>の奪取計画が成立したというものであった。


 狼狽したのはラスケイピアのほうであった。オールマイア紛争を経て、自国に統合したニルヴァールヘイムより、勇み足としか思えぬ提案があったためである。


 クレージェントを敵に回すということは、完全に念頭にはない事項であった。その要因の最も大きなところは、クレージェントに対する情報量の少なさであった。


 先の紛争にも参加していなかったクレージェントの国力は、事実ヴェールに包まれていた。機密情報を打ち崩すことは出来ず、また遠距離の観測から、領内を護るようにして張られた「ジェシカの壁」の存在は、僅かではあるがわかっていた。


 しかし、その他の戦力、国力、支援条約や盟約国などの情報を掴むまでには至っていなかったのだ。


 焦ったラスケイピアは、急遽ニルヴァールヘイムに使者を放った。クレージェント制圧戦の詳細と共に、ニルヴァールヘイムを牽制する目的であった。


 そして使者は戻ってきた。


 ニルヴァールヘイム領より、一人の男を連れて。


 





 聖堂を思わせるような、壮麗な間において、男はラスケイピア現国王イヴァルツェル五世の前に姿を現した。


 縦に長い堂内の中央には赤い絨毯が帯のように敷かれ、その双方には鎧に身を包んだ騎士たちがずらりと整列していた。天井からは、ラスケイピアの紋章である黒と白の獅子が向かい合う図の縫われた旗が、ずらりと並んでいた。


 男は、白一色の服装をしていた。詰襟のような上着の裾は長く、そのまま踝に達するまで緩やかなラインを描いて落ちていた。長い髪を後ろに撫で付けた、三十路を少し越えたあたりであろうと思われるその男は、頭を垂れ、膝をついた。


「ティアリーズ・コルヴォルトと申します。ご拝顔、恐悦の至りにございます、閣下」


「無駄な形式は省いて聞くが」


「は……どうぞ、なんなりと」


 しばしの沈黙のあと、イヴァルツェルは低い声で尋ねた。


「ニルヴァールヘイムの真意を聞こう。なぜ、<緋なる湖畔>を狙う?」


「それにつきましては、いまだ回答の許可が出ておりませぬ故、今しばしお待ちを」


「ほぅ……待てと申すか? 今すぐにでも、クレージェントの国境を破らん勢いの使者を差し出したニルヴァールヘイムが、待てと?」


「天啓。今申し上げられるのは、これが全てでございます」


 その強固な姿勢に、堂内にざわめきが広がる。これほどの状況下で、強硬な姿勢を崩さぬティアリーズという男の胆力たるや、どれほどのものか。国王の命令があれば、周囲を取り巻く騎士が一斉に剱を抜き放ち、槍衾にされることも充分に考えられるというのに。


「天啓、とな?」


「はい」


 ティアリーズは、世迷言ともとられかねぬその発言を、真っ向から認めて見せた。


「アルベルト・ガードナーと名乗る男が参りまして、わが国が<緋なる湖畔>を狙い、その奪取を目論むならば、助力は惜しまぬと……これが、その証拠にございます」


 ティアリーズは、額にかかる前髪を上げて見せた。


 額の皮膚には火傷があった。二つの円と、取り囲む十二の星が、皮膚にはしっかりと烙されていた。

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