#14 帰って来た場所
『あの…玄関のドア、開いてたぜ?不用心だな』
『『『…』』』
『その…、長い間家を空けちまって…ッ…』
『ルーカス!!』
気づけばリビングの入り口に、気まずそうなルーカスの姿。
しどろもどろに話しているルーカスめがけて、アレンが飛び込んでいく。
『うわッ!』
『ルーカス!どこに行ってたんだよッ!!無事?無事なの?ケガはッ!?』
『いや、別に大丈夫…』
『何で何も言わずに出て行っちゃうんだよッ!いや、違う、戻ってきてくれてありがとう…お腹空いてない?寂しくなかった?今までどこにいたの!?』
『…』
アレンが泣きながら支離滅裂気味に捲し立てるのを、ルーカスが何とも言えない顔で見下ろしていた。
グレンとノアも顔を見合わせ、心から安堵のため息をつく。
『お前、いい度胸してるな』
『は?こっちにだって事情があったんだよ』
『何の事情だ。ふざけた理由だったら許さないからな』
『ふざけてねぇしッ!お前らがひっくり返るような情報持って帰って来たんだからな。覚悟して聞けよ?』
『…お前、それはウソだろ』
『何で信じねぇの?』
ひとしきり泣きわめいたアレンにひたすら謝り続けたルーカス。
やがて、アレンが落ち着いてきたのを見たグレンが、「とりあえず、座って話そう」と促し、四人でリビングのソファに腰掛けた。
気を取り直したアレンが紅茶を淹れて持ってくると、そのままルーカスの横にピッタリと座る。そんなアレンにタジタジのルーカスが「ちょっと、近くね?」と耳まで赤くして動揺するのに、グレンが苦笑し、ノアはため息をついた。
そして三人は、ルーカスからにわかには信じがたい話を聞く。
『俺が何の理由もなく、一か月も連絡なしで消える男に見えんのか?』
『すげぇ見えるよ』
『…マジか。俺って信用ないんだな』
『ルーカス、ノアの言葉は真に受けなくて良いから。それより、本当にソイツはロキだったのか?』
『だから!何回も言ってるだろ?俺の本能が会った瞬間に理解したんだって!だいたい、ロキって自分から名乗ってたしッ!』
『…浅いんだよなぁ、話が』
『ふざけんなッ!死にそうに怖い思いをしたんだぞッ!?』
ルーカスの話にグレンとノアは顔を見合わせ、頷く。
グレンがルーカスに問いかけた。
『ロキの見た目の特徴を教えてくれ』
『いいぜ。髪は銀髪。長さは無造作な感じで俺より長い。目はブルーグレー…いや、パープルか?なんか、色んな色が混ざったような感じだったな』
『…』
『怖いくらいに色白で、うっすい唇が冷たそうな印象の顔だ。でも、美人は美人だったな。ちょっと、見たことないレベルのルックスかも』
『…』
『背は俺より低かった。体も華奢だし。でも、オーラで人を殺せそうな勢いだったぜ?』
『…』
ルーカスの話は、聞けば聞くほどロキの特徴と一致していた。
これは――
『確かに、ロキだな』
『だろ?…っていうか、何でお前ら知ってんの?…あ、そうか。お前、ロキにボコられたんだよな?本人から聞いたぜ?』
『…』
ルーカスに笑いながらそう言われ、グレンは、「そうだ、コイツはこういう奴だった」と若干苛立ちを覚える。
「よく無事だったよな」と続けたルーカスの言葉を無視して、グレンは、自分たちの身に起きた出来事をルーカスに語って聞かせた。ルーカスはアレンがロキと関わっていた話に一番反応し、「大丈夫だったのか?」と心配丸出しの顔でアレンに聞いていたが、アレンはそれに「大丈夫だよ」と笑って答える。
…かなり落ち着いたようだ。
『グレン、お前ロキとまともに戦ったのか?』
『…まともにって言えるかどうかは分からない。俺としては結構マズい状況だったけど、ロキが本気を出していたようには見えなかったからな』
『殺す必要がないって言ってたからな。様子見されたんじゃねぇの?』
『何でお前が偉そうに言うんだよ。この一か月でロキと友達にでもなったって言うのか?』
『…いや、別にそうでもねぇけど』
ノアの突っ込みに面白くなさそうな顔をするルーカスだったが、グレンもノアも、そしてアレンも、今この瞬間、ルーカスがいるという事実に心からの安堵と嬉しさを感じていた。
――時間を共にするようになってからまだそう日が経ったわけでもないのに、自分たちにとって、ルーカスとのこの賑やかな時間が、もう既に当たり前になっている事実を改めて実感したのだ。
『まぁ、お前が無事で良かったよ』
『ルーカス、それはこっちのセリフだ』
『え?』
『だいたい、立ち入り禁止区域内には一人で行くなとあれほど言っていただろう?』
『あ~まぁ、そうだけど…』
『お前の中でどんな理由があったかは分からないが、どんな理由であっても、それがお前の身の危険と引き換えにしていいものではないからな?絶対に』
『…分かったよ』
ルーカスとしては、ブラッド兄弟への恩返しのつもりでやったことだった。でも、結果的に、そのせいで連絡を取ることが出来ず、心配をかけることになってしまった。
この兄弟にとって、他の理由より自分の安全の方が大切だと思ってもらえるのなら、これからはもっと、自分でも自分を大切にしなければいけないなと、ルーカスは思う。
『…しかし、あまりにも酷くないか?esの地下実験施設の話』
『そうだね。結局、失踪者事件にもつながっているし、一日も早く介入したいけど…』
グレンとノアが難しい顔をする。
それを見たルーカスが疑問を口にした。
『なんだ?さっさと乗り込んで行けば良くね?』
『そう簡単な問題じゃないんだよ』
『お前には分からないかもね』
ノアの一言にルーカスが食いつきそうになるのを抑えたグレンが、ため息交じりに話を続けた。
『ルーカスの話が真実だとして…』
『真実だろ。なんで疑うんだよ』
『いや、そういうつもりではなかったんだけど…まぁ、それが事実としても、実際に証拠を押さえたわけじゃない。立証できなければ捜査令状すら取れないんだよ』
『…俺が証言してもダメなのか?』
『無理だな。その証言が本当だという証拠がない』
『…』
『それに、イチかバチかで勝手に乗り込んだとしても、esがそう簡単に尻尾を出すとも思えない。もし勝手なことをして決定的な証拠が得られなければ、警察をクビになっておしまいだ』
『…』
どうしたものかとグレンとノアが悩んでいると、ルーカスが真剣な声でつぶやく。
『早くしないと、あの場に収容されているノーマルたちがどんどん殺されていく』
『…』
『子供もいた…っていうか、子どもの方が多いくらいの印象だった』
『…』
『証拠とか何だとか言ってる場合じゃねぇよ。命がかかってる。助けてやらねぇと』
『…』
聞けば、潜入中何度もノーマルたちを助けて脱出したい衝動に駆られたルーカスだったが、ロキに言われた一言で必死に自分を抑えていたのだという。
――それに関しては、ロキに心から感謝をしたいとグレンは思っていた。
もしその場でルーカスが無茶な行動に出ていたら、ノーマルたちはもちろんのこと、ルーカスの命もなかっただろう。
救えたはずの命をすべて失うことになっていたはずだ。
それを防いでくれたロキには本当に感謝しかない。




