#35 魔手
『…』
シヴァが瞬時に降り立ったのは町の中心地。
本来なら最も賑わいを見せている場所だが、夜だということを抜きにしても静かすぎる状況だ。
『…いるのは分かっている』
辺りには誰もいないように見えたが、シヴァがそうつぶやくと、シヴァを囲むように複数人のサイキックが姿を現した。
『この俺の認識阻害をいとも簡単に見破るとは面白い。見た感じあまり能力は高そうに見えないのにどういうことだ?』
リーダー格らしい男がニヤニヤと笑いながらシヴァに話しかけた。それなりに強いPSIを持つサイキックらしい。
――シヴァが瞬時にその場にいる全員の能力値を計測する。
どうやら、突出しているのはこの男だけで、残りのサイキックは平凡な能力しか保持していないようだ。…もちろん、平凡だろうが何だろうが、ノーマルにとっては脅威でしかない。
『この辺りは国の外れの地で、住んでいる人間はほぼノーマルばかりだ。なぜお前らのようなサイキックが集団で襲う必要がある』
シヴァの問いに、リーダー格の男が答える。
『何でだろうなぁ。別に、理由なんて必要か?ノーマルなんて非力な生き物、生きていたって意味がないだろ?』
『…』
『俺たちのように力があるなら、金も飯も、酒も女も寝床も、必要ならノーマルから奪えばいいだけのことだ』
『…』
『ノーマルがサイキックに従うのは、弱肉強食の世界における摂理だとは思わないか?』
『…』
『お前だって、俺ほどではないがそれなりのPSIを持っていそうだ。好きに生きればいいじゃないか』
『…』
確かに、目の前のこの男にはそれなりの能力が備わっているようだ。並のサイキックでは戦うことを躊躇するくらいには強いだろう。
…だが、力を持っているからと言って、自分より弱い者の存在を軽んじる権利など無い。まして、ノーマルに対して好き勝手に傍若無人な行いをするなど、絶対にあってはならない。
『…』
だいたいこの男は、シヴァが敢えて自分のPSIを外に漏れないように抑えている事実にも気がついていない。真に優秀なサイキックであれば、シヴァを見た瞬間、その強大すぎるオーラに何も言えなくなるだろう。
『都会に行きゃ、それなりに規制が厳しいからよぉ』
『…』
『サイキックにとっての天国は、こういうド田舎のノーマル集落なんだよ』
『…』
『お前もそう思うだろ?だから、いるんじゃねぇのかよ、この場所に』
『…』
サイキックもノーマルも、好きでそう生まれたわけではない。
シヴァはサイキックとしての自分が嫌いだった。
自分がこんな力を持っていたばかりに、大切な人たちを失った。自分だって、辛く苦しい経験をした。だからと言って、自分の体は代えられない。ノーマルだって、何の力も持たず、世間の差別や、こういう頭のイカれたサイキックの脅威におびえながらも、日々必死に健気に生きている。
サイキック同士の衝突ならまだしも、サイキックがノーマルに手を出すのは絶対に許されない――自分が、許さない。
『安心しろよ。町の人間は全員殺したわけじゃない。全滅させちまったら、俺たちに奉仕させる人間がいなくなっちまうからな』
『…』
確かに、ここから少し離れた一角に生体反応が複数ある。だが、おそらく町に住む人たちの半数以上は殺されている。目の前に遺体が無くても、シヴァには気配で感じ取ることが出来た。
『…なぜ、共存の道を選ばない』
『共存?してやっているだろう?全滅はさせていないと言ったばかりだ』
『ノーマルに、一人として殺していい相手などいない』
『…お前、ノーマルの肩なんか持ってなんなんだ?…あぁ、ロクなPSIも持っていないから、都会から逃げて、こんなところでノーマルたちと仲よくやってるってことか?サイキック社会でも優劣による差別はあるからなぁ』
『…』
『でもな、どんなに底辺でもサイキックはサイキックだ。ネズミのようなノーマルとつるむだなんて、プライドが許しちゃくれねぇのよ、普通はな』
『…』
『お前のような腰抜けは、同じサイキックとして反吐が出るぜ。同胞のよしみで選ばせてやる。ここで終わるか、それとも苦しむか』
『…』
『抵抗せずに受け入れれば一瞬で終わらせてやる。だが、抵抗するなら、嬲ってから殺してやろう』
『…』
『さぁ、選べ』
『どちらも断る』
そうつぶやいた瞬間――空気が、わずかに歪んだ。
次の瞬間には、男の体は切り裂かれていた。相手が言葉を返す間も、何が起きたか理解する時間すら、与えられなかった。
『うわぁッ!』
『な、なんだコイツ…』
『バカな…PSIは微力しか感じなかったのに…』
周りにいた仲間のサイキックたちが恐怖に騒ぎ出す。
血だまりの中で息絶えている自分たちのリーダーの姿などお構いなしに、散り散りに逃げようとするその背中に向けて、シヴァが手をかざした。その瞬間、まるで、見えない刃で切り裂かれるように、次々と血しぶきをあげて倒れこむ。
一人残らず息絶えたことを見届けたシヴァが、生体反応のあった場所へテレポートで向かった。
『…』
そこには、恐怖におびえたノーマルたちが、形ばかりの武器を手に、震えながら身を寄せ合っている姿だった。
――自分と同じサイキックが与えた、底知れない恐怖。ここにいるノーマルたちにとって、サイキックはもう、憎むべき存在でしかないだろう。
『…生き残っているのはここにいる者だけか?』
『…』
『…大丈夫、俺はアイツらの仲間ではない。今、奴らのことは始末してきた』
『…ほ、本当か?』
『あぁ』
まだ疑いの目を向けてはいるが、ほんの少し、場の緊張が和らいだのを感じる。
シヴァは、この町でいったい何が起きたのかを知りたいと思ったが、さきほどあの男が言っていたことが大筋なのだろう。流れてきたサイキックの集団が、ただ、自分たちの欲望のままにこの町を襲った。たまたま流れ着いたのがこの町だったというだけで、ここに住んでいる人たちが犠牲になった。
…そんな、身勝手すぎる行動で、多くのノーマルの命を奪ったということだ。
『…今、この町には俺以外のサイキックはいない。だからもう…』
『アイツらは何人いましたか?』
『…』
まだ目の奥に恐怖の色が残っている一人の住人が、震える声でシヴァに尋ねる。
『…六人だったが』
『…す、少ないです。俺たちが襲撃を受けた時には、その三倍以上はいました』
『…』
その言葉を受け、シヴァは再び町の中とその周辺に対してPSIを発動させる。どれだけ念入りに索敵しても、残りのサイキックは見つからない。
『…大丈夫、この町とその周辺にはもういない』
いない、が…
では、残りはどこへ行った?
『…』
シヴァは索敵範囲をもっと広げてみたが、おそらくこの地域一帯にはもう、対象はいない。…テレポートをしたのであれば、見つけることは難しいだろう。だが、少なくとも十人以上はいるはずのサイキック全員にテレポーテーションのPSIが備わっているとは考え難い。敢えて、同じPSIを持つグループを結成するという可能性も
無くはないが、それならば、先ほどのシヴァの攻撃でリーダー格の男が倒された瞬間に、他のサイキックたちがテレポートで逃げなかったことの説明がつかない。
…一人か二人のサイキックが残りの仲間を連れてテレポートしたのだとしたら、ソイツは相当なPSIの持ち主であるということになる。…そんな厄介なサイキックたちが、いったい今どこにいるというのか…
『あの…』
『…』
『アイツらは、ここはすでに押さえた。と言っていました』
『…』
『ここを拠点にして、あとは周辺の村まで含めてこの地域を丸ごと貰おうって』
『…』
『自分たちの王国を作ろうって、笑いながら俺たちの家族を殺したんだ』
『…』
住人の一人の言葉に、シヴァの顔色が見る見る青くなる。
――周辺の村?
この地域の村は、この町を中心にいくつか点在している。いくつかある中でも、リリアたちが住む村は一番小さい。…小さいが、薬師が数人いる、医療に特化した村とも言える。都会と比べ、このような国の外れにあるさびれた地域では、薬草を扱った素朴な薬でも、生きていくためにはとても重要なものだった。
『…』
…その情報を、もしあのサイキック集団たちが知っていたら…?
『…ッ』
シヴァは村へ戻るために、テレポーテーションを使う。




