↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Transmission  作者: 琉風
第二部「継承」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/141

#22 決別

『やぁ、君がシヴァかい?僕はトーマス・ブラッド。君の話はレナードからよく聞いているよ』

『…初めまして』


部屋中を探し、やっとの思いで見つけたレナードの兄の連絡先。

レナードの死はまだ伝えていなかったが、何人で行く…とも伝えずに、シヴァはこの兄に「弟を連れて会いに行く」とだけ告げて、日時を約束していた。


シヴァにとって、「目的地=座標」さえしっかり把握出来れば、一瞬で向かうことができる。兄の家は村からはかなり離れてはいたが、問題は何もなかった。


レナードの兄…トーマスは喜んでシヴァとアーサーを迎え入れてくれたが、

「今日はレナードやクレアは一緒じゃないのかい?」と聞かれて、シヴァが、自分がレナードを殺めてしまったことは伏せて、経緯を話して聞かせた。

みるみる顔色が青くなるトーマスを見て、反射的に「責められる」と身構えたシヴァだったが、トーマスは「君たちは無事だったんだね、良かった」と心から安堵したような声で、シヴァとアーサーを抱き締めたのだ。

あまりの驚きに硬直していたシヴァの頭を優しくなでたトーマスが、言葉を続ける。


『レナードにとって一番大切なのは君やアーサーだったからね。もちろん、クレアのことも大切にしていたから、出来れば守ってやりたかったと思う。でも、君とアーサーが無事なら、きっと彼は天国で満足しているよ』

『…』


トーマスの言葉を聞いて、シヴァは居た堪れなくなり涙をこぼす。

そんなシヴァの姿を見て、この年齢でこんなに辛い目に遭ったのだから、感情が不安定なのも無理はないだろうと、トーマスが再度シヴァを抱き締めようとした時――


『…違うんです』


シヴァは、レナードと中身がそっくりなこの優しく誠実な兄に、自分がした恐ろしい仕打ちを黙っていられなくなる。

いっそ、この兄に自分は殺されるべきかも知れない。…そう考えて、泣きながら洗いざらい、真実を話して聞かせた。


『…』


トーマスは驚いた表情で、言葉も出せずにシヴァの話を聞いていたが、すべてを話し終え、苦しそうに辛そうに、悲しそうに泣くその姿を見て、ひと際優しい声でこう告げた。


『シヴァ、話してくれてありがとう。どれほど勇気のいることか…君は偉いな』

『…あなたはサイキックですか?』

『そうだよ』

『それなら、俺を殺してください』

『…』

『俺みたいな人間は、生きてちゃダメなんだ』

『…』


シヴァは、堪え切れず、堰を切ったように泣き叫んだ。

失うことの辛さは誰よりも知っていたはずなのに。

自分の言葉が届かないもどかしさ、恐怖、絶望――それは、自分が嫌というほど経験してきたことなのに、自分は同じことをレナードにしてしまった。


自分を信じ、愛してくれた人を信じきれず、愛しきれずに死なせたのだ。

もう、すべてがどうでも良かった。消えたい。

シヴァの心にはそれしかなく、出来ればレナードの兄によってそれが叶えられればいいと、本気で思っていた。


だが、トーマスは――


『シヴァ、泣きたいだけ泣くんだ。君はたくさんのことを我慢しすぎた』

『…ッ…』

『君はまだ十一歳の子どもなんだよ。泣いていい。甘えていい。失敗したって良いんだ』

『…でも、人殺しだ』

『レナードは君を恨んではいないよ』

『…』

『今君はレナードのために泣いている。そして、自分のしたことを後悔して苦しんでいる』

『…』

『それなら大丈夫。君は大丈夫だよ』

『…』


なぜ、自分の弟を殺されて、こんなに優しくいられるのか。

シヴァは理解が出来ず、トーマスの顔を見つめた。

トーマスは、以前から機会があるごとにレナードからシヴァの話を聞いていた。シヴァの悲しい過去も、悲劇的に強大すぎるPSIのことも。そして、そんなシヴァのストッパーになりたい、何があってもシヴァを信じて導いてやりたいと、レナードの温かく熱い思いを何度も聞かされていた。


そして、もし…もし、自分に万が一のことがあっても、どうかシヴァを責めず、受け止めてあげてほしいとも。幼い子どもの心と体では到底コントロールしきれないような、強大すぎるPSIの持ち主であるシヴァをどうか見捨てないであげてほしいと。

レナードは、万一の際にはシヴァをトーマスに託すことも考えていたのだった。


『シヴァ、今日からこの家が君とアーサーの家だ』

『…』

『僕の妻、エミリーも賛成してくれるよ。今はちょっと、仕事でいないんだけどね』

『…』


トーマスと同い年の妻、エミリーも、やはりトーマスを通じてレナードの思いを知る一人だった。この夫婦はとても優しく温厚で、レナードに勝るとも劣らない愛情深さと誠実さを持つ人間だった。レナードの死を知れば、自分と同じく、内心では大きく動揺するだろうが、それでもきっと、シヴァのことを受け入れてくれるだろうとトーマスは自信を持っていた。

まして、アーサーはまだ二歳だ。子供のいない自分たちにとって、弟の忘れ形見を自分たちが育てることは当然の義務であり、責任でもあると本気で思っている。


『シヴァ、早速明日にでも一度僕を君たちの家に連れて行ってくれないかい?』

『…』

『レナードとクレアに手を合わせて、村の人たちに挨拶を終えたら、そのまま四人でまたこの家に戻って来よう』

『…』

『そうして、この家で新しく生活を始めるんだ。大丈夫、必要なことのすべては僕に任せておけばいい』

『…』

『君は、何も心配しなくて良いからね』


その日はそのまま夕方まで三人で過ごし、やがて仕事から帰宅したエミリーとも挨拶を交わして、夕食をご馳走になり、お風呂に入って、早い時間にシヴァとアーサーは眠ってしまった。

二人が深く寝入った後、トーマスとエミリーはレナードとクレアのために涙を流し、今後のことを真剣に話し合った上で、シヴァとアーサーを引き取る前提で、明日四人でレナードたちが住んでいた村まで向かうことを再確認した。


だが――






『トーマス!大変よ!これを見て!』


朝早く、エミリーが慌ててトーマスを起こしに来る。

エミリーが差し出したのは、シヴァが書いた置き手紙だった。

手紙には、自分を許し受け入れてくれたことへの感謝と、アーサーを大切に育ててほしいという願いと、村へ連れて行けないことへの謝罪が書かれてあった。

代わりに、住んでいた家の住所と周辺の地図も記され、どうか自分のことは探さないでほしいとも付け加えられている。


『なんてことを…』


トーマスは慌てて飛び起きると、エミリーにアーサーを見ておくように告げ、自分は急いで家の外へと駆け出した。だが、庭の空気には、もうシヴァのPSIの気配はどこにも残っていなかった。

――シヴァが歩いて家を出ていくわけがない。

テレポートでどこまででも飛んでいけるのだから、今更自分が周辺を探しても意味はないだろう。


それでも、トーマスは探さずにはいられなかった。

――おそらく、自殺という最悪のパターンはない。

シヴァほどのサイキックになると、仮に自らを酷く傷つけたとしても、本能が命を守るために治癒系のPSIを始め、様々なPSIが勝手に発動してその身を守ろうとするはずだ。…シヴァのようにハイレベルなサイキックになると、たとえ死にたくても、その権利すら与えてはもらえない。


つまり、ノーマルよりも長いであろうその寿命を、辛い過去を忘れてしまうことも出来ず、死を選ぶことも出来ずに、ただ生きていかなければならない。

まだ幼い少年に、そんな生き方はさせたくない。そう思ったトーマスは、その後何年もシヴァのことを探し続けたが、結局、この時以降、再会を果たすことは出来なかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。