#18 断絶
『クレア、シヴァ、これは…』
『レナード…あなた、esにいたの?』
『…遠い昔の話だよ』
『なぜ言ってくれなかったの?…もしかして、私たちをずっと監視してたってこと?』
『まさかッ!そんなことあるわけないだろう。…話さなかったことは謝るよ。あとでちゃんと説明する。だから今は…』
レナードとクレアのやり取りを見ていた男たちが、「これはいい」と笑い出す。
『esの人間がesからの脱走者親子を監視か。お手柄だな、レナード』
『バカを言うな!僕がesにいたのは二十年以上も昔の、それもほんの二年間だけだ!』
『だが、そこの親子は信じていなさそうだぜ?』
『…』
すっかり怯えた目をしたクレアの姿と、疑念に揺れる目が危険に光るシヴァの姿。
この状態ではおそらく何を言っても信用してもらえない――レナードはそう感じた。
――クレアがレナードに心を開き、自分たち親子がesから逃げてきたのだと打ち明けてくれた時、レナードは、自分も過去にesの研究員だったことを話すべきか酷く悩んだ。
だが、最終的に、そのことを話せばクレアが自分を疑うかも知れない。
もし疑うまではいかなくとも、自分と一線を引いてしまうかも、不安がらせてしまうかも知れないと考えたレナードは、言わずにいることを選んだ。
単純に、クレアやシヴァからの信頼や愛情を得たい一心だった。
そして、研究員だった当時、esのやり方や考え方に疑問を抱くことが増えていき、自ら辞めることを選んだレナードにとって、クレアたちのesでの出来事を知ることで、関わることをやめて正解だったと再認識したのだ。だからこそ、自分が絶対にこの二人を守ると固く心に誓って、以来、それを行動で示してきたつもりだった。
『まぁ、実際お前はesから頼まれてこの親子を監視していたのだから、バレたからと言ってその態度は無いんじゃないか?』
『デタラメを言わないでくれ。そんなウソは調べればすぐに分かることだ』
『分かるも何も、事実だろう?』
『…クレア、シヴァ、頼むからこいつらの言うことなど信じないでくれ』
この男たちの思惑など見え見えだ。
ウソでも適当でも、それによってクレアとシヴァの不信を買わせることが出来ればそれで良いのだろう。二人を動揺させ、自分から引き離すことが目的なのだ。
たとえ二人からどう思われたとしても、今自分の手から離れてしまえば取り返しのつかないことになる。レナードは必死でクレアとシヴァに、後で納得のいく説明をすること、そして、今は何があっても自分の後ろから離れないこと、その二つをお願いした。暫く不安げな目でレナードを見つめていたクレアが、それでも、深い呼吸を一つした後、レナードを見つめてつぶやいた。
『…この数年間のあなたの言葉や行動がウソだったなんて、思いたくない』
『クレア、その通りだよ。僕は君にウソなど一度もついていない』
『…信じて、良いのね?』
『もちろんだとも』
クレアの言葉にレナードが力強く答える。
――それを見ていた男たちのうち、シールドを破って現れた長身の男が面白くなさそうに言った。
『信じるとはつまらないな。それならもう、お前に用はない』
そう言うが早いか、鋭い閃光がクレアの胸元を貫く。
目を見開いたレナードの目の前、クレアがアーサーを抱きしめたまま倒れ込んだ。
『クレアッ!』
『お母さんッ!お母さんッ!!』
クレアの元に駆け寄って必死に叫ぶシヴァ。
レナードも駆け寄りたかったが、この男たちに背を向けるわけにはいかなかった。
『あ~あ、死んじまったな』
『…』
『レナード、お前のせいだぞ?何年間も騙して監視した挙句、それを認めなかったお前のな』
『…お前たちの目的は一体…』
『目的は、そこの少年さ。まぁ、母親も一緒の方がコントロールしやすかったかも知れないが、仕方ない。場合によっては、母親は殺しても構わないと言われていたからな』
『…』
争いごとが嫌いで温厚なレナードでも、気がふれてしまいそうなほどの怒りに襲われる。人の命を何だと思っているのか。自分には攻撃系のPSIはない。だが、このままこの者たちを帰すわけにはいかない――そう考えていた時…
『うわッ…な、なんだッ!?』
『ぎゃあッ!!』
四人一斉に苦しそうな表情を浮かべてのたうち回る。
レナードが慌てて後ろを振り返ると、ダイヤモンドダスト状に瞳を輝かせ、全身から恐怖を感じるほどの強大なPSIを立ち昇らせたシヴァが両手を四人に向けてかざしていた。
一見して能力を吸い取っているのが分かる、あまりにも残酷な風景。とても、十一歳とは思えないPSIの放出に、レナードでさえ一瞬足がすくむほどの状況だ。
『シヴァッ!やめるんだッ!』
レナードの声もおそらくシヴァには聞こえていない。
その瞳は我を失っているようでもあった。
母親を攻撃した憎き者たちの命を吸い取るという目的以外に、今シヴァの思考は働いてはいないだろう。
『…アーサー』
レナードは泣いているアーサーを慌てて木の茂みへと隠した。
幼いアーサーの命まで狙われては困る。
そして、すぐにでもクレアの元へ駆け寄るが、一目見ただけでもう、息をしていないことが分かった。レナードは胸が張り裂けそうな思いでクレアを見つめたが、それよりも今はシヴァを止めなければ。それが、今自分にできる唯一にして絶対のことだとレナードは思う。
だが――
『…』
シヴァはあまりにも恐ろしい速さで、一度に四人ものサイキックのPSIと寿命を吸い取ってしまっていた。レナードが声を掛けることも忘れ、呆然とその場に立ち尽くしていると、シヴァがこちらへ振り返る。
『シヴァ…』
『お前が…』
『…』
『お前がお母さんを危険にさらした』
『…』
『お前が俺たちを騙したからッ!』
『シヴァ、そうじゃない。そうじゃないんだ!』
レナードが弁解をする余地すら与えず、今度はシヴァのPSIがレナードに容赦なく襲い掛かった。




