#16 自制
『シヴァ、帰って早々悪いが、お母さんが夕食の準備をしてくれるまでまだもう少し時間がある。買って来たハーブたちを庭に植えたいので手伝ってくれるかい?』
『もちろん、いいよ!』
レナードとシヴァは家の目の前に広がる畑の一角、ハーブ類を育てているエリアに、今日買って来た珍しいハーブたちを植えていく。
一生懸命に土を掘り起こしているシヴァの横顔を見つめながら、レナードがシヴァに話しかけた。
『シヴァ、さっきの山賊たちのことだけど』
『…うん』
『あの者たちは本当に危険だった。シヴァのおかげで助かったよ、ありがとう』
『…』
『ただね、あの時最初シヴァは何をしようとしたかな?』
『…倒そうと思った』
『うん、確かにそれも一つの方法だ。でもね、相手を倒すのは、自分や自分の大切な人の健康や命の保証が出来ない状況で、他に選択肢が一つもない場合に限ってやることだ』
『…』
『逃げるという選択肢が取れるのなら、逃げた方が良い』
『…』
『意味は分かるかい?』
『…』
黙ってうつむく姿を見て、きっとこの子は意味を理解はしているのだろうとレナードは思った。だが、シヴァが経験してきた過去たちが、逃げるよりも相手を倒すことの方が、より確実で不安や恐怖が残らない解決法だと植え付けてしまったのかも知れない。
そして、なぜ正しい側が逃げなければいけないのか――
幼いゆえに、そう言った単純な疑問も沸き起こるのだろう。もしかすると、そもそもの性格にもよるのかも知れない。
レナードはもともと平和主義者で暴力が苦手な人間だった。だが、攻撃系のPSIを持つサイキックは、自ずと好戦的になるタイプも多い。ルールやモラルは守れることが前提で、攻撃をすることに深い抵抗を感じないタイプが多いのは仕方がないのかも知れないが、相手を死に至らしめる可能性の高い者は、逃げることで解決出来るならそうした方が良いと、レナードは心から思っていた。
『シヴァは自分の持つPSIの数と種類は知っているね?』
『うん』
『これは強制ではないが、「サイキック・スティール」はできるだけ使わないようにした方が良い』
『なんで?』
『PSIを奪われるサイキックも不憫だが、シヴァ、君の心身にも相当な負担がかかるんだよ。数多くのPSIを体内に吸収してしまうと、精神や命に関わることもあるんだ』
『…』
『君の身に何かあれば、お母さんがとても悲しむ。もちろん、僕もね』
『…』
おとなしくて感情表現に乏しいからと言って、好戦的でないとは限らない。
まだ子どもだから分からないだけで、シヴァのサイキックとしての本質は、とても攻撃的で「奪う」ことに躊躇いがない可能性もある。並のサイキックであればそれでも様子見で構わないが、シヴァの場合は今からしっかり導いてあげなければ取り返しのつかないことになる。
『シヴァ、さっきは僕をテレポーテーションで助けてくれただろう?』
『うん』
『瞬時に飛ぶ先をしっかりとイメージできたのはとてもすごいことだ。…君は、自分ではどの程度の距離まで飛べると思う?さっき飛んだ距離よりも、もっと飛べそうかい?』
『…あの、…飛べない距離って、あるの?』
『…』
『実際には分からないけど、イメージでは、行けない場所は無い気がする』
『…そうか』
三~四歳くらいまでの幼児であれば、自身のPSIの限界を分からなくても無理はないが、シヴァくらいの年齢になれば誰でも、サイキックなら自分のPSIができること、出来ないことのおおよそは把握できる。特に、シヴァのように能力の高いサイキックであればなおさら。
…ということは、おそらくシヴァは、行こうと思えば行けない場所など存在しないということになる。今この場に留まっているのは、シヴァの家族やこの場に対する愛着や、安心への依存から来るものなだけであり、極端な言い方をすれば、単なる気まぐれでしかないということだ。
飛ぼうと思えば、一瞬でesへ乗り込むことも可能ということか――
『シヴァ、よく聞きなさい』
『…』
『似たようなことを何度も言っているとは思うが、敢えてもう一度言わせてもらうよ?PSIは捨てることは出来ないが使わずにいることはできる』
『…』
『自分や自分の大切な人が危険にさらされた時以外には、極力使わない方が良いものなんだよ』
『…』
『私利私欲のためや横着のため、誰かを傷付けるために使うものではない。絶対に』
『…』
『分かるかい?』
『…うん』
『…納得は、できるかな?』
『…』
『シヴァ、自分に正直でありなさい。納得できないなら、これからもたくさん僕と話をしよう。その中で、もし僕の考えに納得できる日が来れば、教えてほしい』
『うん、分かった』
この先十年でも二十年でも、自分がこの子と向き合って、話して、寄り添って、平穏な人生を歩かせてやりたい…レナードはそう思いながら、シヴァを優しく見つめた。




