#14 慈愛
『ところでシヴァ、PSIの訓練はどうかな?キツくはないかい?』
『うん、大丈夫だよ』
レナードは週に一~二度のペースで、シヴァにPSIをコントロールする方法を教えていた。
…これは二年ほど前から始めたものだ。最初は月に一~二度ほど、訓練とも思わせない遊びの延長線上のような形で行い、この一年ほどで週一~二度のペースに変えた。
最初は、シヴァにesでの出来事を思い出させてしまうのではという不安と、単純に、レナードがシヴァのサイキックとしての資質を把握するために、気軽に遊ばせながらPSIを扱う様子を観察する程度のものだったのだが、シヴァの現状での実力とポテンシャルの高さは、ひと月もしないうちに充分過ぎるほど理解が出来たため、レナードは、一刻も早く制御の仕方や感情を安定させる術をしっかり教えてやらないと、シヴァがサイキックとして誤った方向へ流されてしまうリスクもあると判断し、その日からずっと、シヴァに寄り添いながら一緒にPSIのコントロールの訓練を続けていた。
『シヴァは勘が良いしセンスもあるからね。本当はもう、僕が教えてあげられることなんて殆どないのだけれど…』
『そんなことないよ。レナードにコントロールの方法を教えてもらってから、体がとてもラクになったもの』
『…そうかい?』
シヴァの言葉にレナードが複雑な思いを抱く。
シヴァの内に宿るPSIの能力は、優秀な大人のサイキックのそれを優に超えるほどのレベルだった。しかも、保持しているPSIが一つや二つではない。
クレアによれば、もともと持って生まれたPSIは三つとのことだったが、レナードが把握する限り、シヴァは既に十以上のPSIを扱うことができる。
これは、シヴァがもともと持っていたPSI「サイキック・スティール」によって他者から奪い取ったPSIなのだろうが、まだ完成していない幼い体にいくつものPSIを受け入れてしまえば、それを扱うどころか、受け皿そのものが壊れてしまう危険さえある。
まして、そのうち何人かはおそらく命まで奪ってしまっているだろう。
子どもだからこそ加減が出来ず、PSIだけではなく「コア」まで奪ってしまっている可能性が高い。
『PSIで怖いのは、自分で自分の能力の上下限が分からないことなんだよ』
『…俺はもう、知ってる?』
『どうかな。まだ完全ではないかも知れないね』
「コア」とは、サイキックならば誰でも持っている、いわば「力の源」のようなものだ。PSIが能力エネルギー…サイキックの力そのものであるなら、コアはその力を生み出す源・中枢・核…になる。
本来なら、「サイキック・スティール」のPSIを持つサイキックは、相手のPSIのみを奪う。だが、シヴァの場合、聞く限りでは相手のコアに触れることができる。
PSIだけを奪った場合、相手のサイキックは能力は奪われるが命の危険はない。それに対し、コアまで奪った場合は、それが一部であっても相手を廃人化させてしまうし、全部を奪えば即死をさせてしまう上、亡骸さえ残さない「完璧な殺人」となる。
『それにな、シヴァ。サイキックはPSIが強ければ良いというわけじゃない』
『…』
『PSIを正しく最大限に使うためには、PSIそのものの強さだけではなく、体も、心も、頭も、すべてが強く、冷静でいられないと難しいんだよ』
『うん、それはもう、何回も聞いてるよ?』
『ははッ…そうだったな。確かに僕は何度もこの話をしている。でも、大切だから繰り返すんだ』
『…』
『シヴァ、君は自分の中にあるPSIを、正しく、冷静に、意味のあることに使わないといけない』
『…それは、お父さんとちゃんと約束した』
『そうだったね。そしてシヴァは、その約束をしっかりと守れる子だ』
『…うん』
レナードがシヴァと出会った時、シヴァはまだ五歳だった。
シヴァにとって実の父親の記憶が残っているとはいえ、生涯自分の子として接しようと決心した以上、レナードの本音には自分を「父」と呼んでほしい、認めてほしいという気持ちがない訳ではなかった。
だが、結果として、レナードは最初からシヴァに自身のことをレナードと名前で呼ばせている。
シヴァにとって「お父さん」と呼ぶべきは、亡くなったジュリアン・フォレストしかいないと理解し、そこに敬意を表したのだ。クレアにとっての「夫」がジュリアンだけであるように、シヴァにとっての「父親」もまたジュリアンだけ。
その事実に寂しさを感じないと言えばウソにはなるが、レナードはクレアより八つ上だったこともあり、とても大人で理解のある、包容力の塊のような男だった。
『さぁ、そろそろ町が見えてくるぞ。買い物を全て済ませたら、市場でお昼を食べて帰ろう。新鮮でおいしい肉や野菜がたくさんあるぞ?』
『うん!』
目をキラキラと輝かせ、楽しそうな表情を浮かべるシヴァを見る機会などそうそう無い。レナードはそんなシヴァの姿を目を細めて見つめ、すぐにでも周囲を警戒すると、そのまま二人で、町へと続く一本道を歩き続けた。




