#34 遭遇
『これ以上、待ってらんねぇしなぁ…』
とある夜――
ルーカスはT-15地区の外れ、荒野地帯に来ていた。
自分が突き止めた「地下へと続く何か」がある場所…この場所の捜索は、グレンとノアの二人がesの事件を担当することになって以降、中断されたままになっていた。
一人で調べるのは危険――そう判断したからこそ、グレンからもここへ一人で来ることは禁止されていたのだが、ルーカスの仕事として、これまで街中で聞き込みを続けていても何も進展が得られない日々が続いていた。
これ以上同じことを続けるより、進展が望めるこの場所を調べる方がいいと考えても当然だ。ただ、グレンに止められていたというだけではなく、ルーカス自身も以前この場所を調べようとした際、とてつもない不快感や違和感を感じていたことで、出来れば一人で来たくはないという気持ちも強かったため、これまではグレンの言う通りに保留としていたが、あまりにも進展しない現状に加え、この度自分はブラッド家に世話になることが決まった。
しかも、自分にしかメリットの無い提案をされたことで、何か返せる物がないかと考えていたのだ。グレンが「何か見返りを考えておく」とは言っていたが、今のところは何も言ってこない。自分は教養もなく礼儀も知らない人間に入るだろうと思っているルーカスだったが、それでも、この状況に甘んじるほど図々しい人間ではないとも思っている。…何より、自分が役に立っている実感が欲しい。
それならば――
『…まぁ、行ってみるか』
失踪者事件に少しでも進展が見られれば、ブラッド兄弟にとっての見返りになる上に、失踪している被害者たちを救うための一歩にもなる。
何一つ悪いことなどない。ただ自分がほんの少し、この場に感じる不快感や違和感を我慢すれば良いだけのことだ。
『…』
そっと地面に手を当てたルーカスの両目が金色に光る。
やはり、相変わらずモヤがかかっているような不透明さだ。
本来ならクリアに見えるはずの「クレヤボヤンス」のPSIだが、相手が相当強力なシールドを張っているのだろう。
――ルーカスは、PSIを限界ギリギリまで発動する。
『…やっぱ、あるじゃんか』
それでも、ハッキリとクリアになるわけではなかった。
このシールドを張ったサイキックは相当な能力の持ち主だなと、ルーカスは感心しながら地下に広がる「絵」を見ていく。
『…ったく、気持ち悪ぃな…』
シールドの効果は視界の遮断だけではなく、やはり精神的にも嫌な攻撃を加えてくる。ルーカスの心臓がバクバクと大きな音を立て、背筋が凍るようなおぞましい感覚が背骨の裏側を伝っていく。前回はここで諦めた。
だが――
『俺のPSIを見くびるなよ』
両目がひと際深く鮮やかに光ったかと思うと、ルーカスは強引にシールドの向こう側を辿っていく。
『…なんだ?すげぇ長い通路だな…』
無機質な空間に、延々と伸びる通路。
両サイドには規則的にドアが並び、別の空間へと伸びているようだ。
…人の気配はない。
『…』
――最近は新たな失踪者は出ていない。
八名の失踪者が無事に戻って来たタイミングから被害が止まっている。それは、犯人側が警戒し、様子を伺い始めたということだろう。
これ以上被害者が増えないのならそれはいいことかも知れないが、犯人に辿り着けなければ、既に攫われている被害者たちを救うことは出来ない。
『何か残してねぇのかよ…』
あまりにも集中しすぎていた。
そのせいで、ルーカスは一瞬、自分の背後に隙を与えてしまった。
『!?』
気配を感じた瞬間、その場を飛び退いて振り返る。
と同時に、閃光が凄まじい速さで自分に向かって来るのを見た。
かろうじてその光をかわして体勢を整えたルーカスの両目が強く金色に光る。
――その瞬間、空気を裂く閃光とともに、雷撃が一直線に走る。
ルーカスのエレクトロキネシスが解き放たれ、雷のような直撃が敵を一瞬で吹き飛ばす。
『何だこいつら』
いくら暗闇の中とはいえ、ロクに建物も建っていない荒野のど真ん中で、一体どこから現れたのか。ルーカスはクレヤボヤンスを発動して周囲の索敵を開始する。
『…ふぅん、なるほどね』
つぶやいたと同時に、ルーカスの指先に青白い閃光が集まる。
次の瞬間、稲妻のような電撃が一直線に走った。
『ぐあぁッ!』
『な、なぜ分かったんだッ…』
電撃に貫かれて姿を現したサイキックが二人。
倒れこむその二人を見てルーカスが笑う。
『それで姿を消したつもりか?』
その場にいるのにルーカスの目に映らなかったということは、相手のサイキックはおそらく認識阻害のPSIを発動しているのだろう。だが、認識阻害は人の意識を欺く能力だ。対してクレヤボヤンスは、視覚ではなく空間そのものを読む。つまり、そこに人間が立っていれば決して隠れることはできない。
――とはいえ、これはルーカスのサイキックとしてのレベルが高いからこそ、ここまでクリアに把握出来るのであって、並のサイキックであれば、敵の居場所を把握できず、攻撃されダメージを受けていただろう。
『認識は騙せても、存在そのものは消せないんだよ』
言いながらルーカスは、掌をわずかに傾ける。
その瞬間、音の刃が一直線に走り、敵の足元を切り裂く。
新たな悲鳴と共に、サイキックが次々と姿を現した。
『…あと何人だ?』
ルーカスが周囲に気を配りながら身構えたと同時、突然地面の中から鋭い閃光が走る。幸い、地面に伝わる微かな振動と違和感に気付いて、咄嗟に体をかわしたルーカスだったが、さすがにバランスを崩し、直ぐにでも襲ってきた次の攻撃を防ぎきれるかどうか危うい状況になる。
その時――
『うわッ…』
急に、見えない圧に体を持って行かれるような感覚がしたのと同時に、数名の叫び声が一気に聞こえた。
『…何が起きた?』
『今ので残りは片付いた』
『!?』
背後から聞こえた声に、ルーカスが慌てて振り返る。
気配が微塵もしなかった。認識阻害さえ暴く自分が、こんな近距離で後ろを取られるとは。ルーカスは動揺しながらも、「お前は誰だ?」と問いかける。
――目の前には、フードを深くかぶった黒づくめの人物。




