#26 敵か味方か
一方――
グレンとノアは特治へと戻り、捜査がまったく進まない現状の改めての報告と、今日の出来事、そして、実は自分たちがPSIの能力を計測されそうになっていたことなどをすべてフロストに報告した。
「なぜ黙っていた?」と一言だけ眉を吊り上げて聞かれた以外、フロストは特に何も言うことなく、暫くは黙って手元の資料を見つめつつ、グレンとノアの報告と合わせて頭の中で整理していたようだったが、不意に顔を上げると二人を交互に見つつ、淡々と言葉をつなげた。
『君たち二人をes襲撃事件の担当にと強く推したのは異捜だ』
『『…』』
『異捜は日頃からes絡みの案件の窓口にもなっている。もしかすると、esの目的が何なのかを知った上で君たちを向かわせたのかも知れないな』
『…であれば、このまま担当を続ける訳にはいきません』
『いや、このまま担当してもらう』
『何故ですか!』
声を荒げたのはグレンではなくノアだった。
驚いたグレンが思わずノアを振り返る。
だが、フロストは眉一つ動かさず、ノアを無表情に見つめていた。
『オブザーバー自ら目の前に出てきてあからさまに計測をされたんですよ?開き直っているじゃないですか』
『そうだな』
『明日またesへ行くとしたら、計測してくださいと言わんばかりでは…』
『計測させてやればいい』
『『…』』
二人が驚いてフロストを見つめる。
この上司は一体何を言っているのか。
『一体どういうことでしょうか?』
『言葉通りの意味だ。そんなに計測がしたいのならさせてやればいい』
『目的も分からないのに、ですか?』
『だから、行けと言っている』
『…』
『どうせなら、esの目的を知った方が良いとは思わないか?』
『…』
『心配せずとも、君の能力は簡単には計測などされないだろう』
『…』
『捜査の邪魔をされるのなら、いっそのことesを探ってくればいい』
『…』
フロストの考えがまったく読めない。
もちろん、上司の許しがあってのことなら遠慮なく、esに裏の顔があるのかどうか探ってくるのもいいだろう。
だが、自分たちには一刻も早く、失踪者事件に戻るという目的がある。
『esの目的も気になりますが、それ以上に、自分たちは失踪者事件に戻ることを望ん でいます』
『…』
『それに、いくら何でもリスクが高いとは思いませんか?』
『…』
『esの本拠地ですよ?あの場にたった二人で乗り込んで、いざという時に勝ち目があると思いますか?』
『もちろんだ』
『…』
『言っておくが、私は危険と判断するレベルの者を行かせたりはしない』
『…』
『君たちならes内でトラブルが起きても無事に戻ってこられるレベルだと判断している』
『…それは、光栄なことですね』
呆れた顔で答えるグレンに、それはさすがに上司に対して失礼なのでは?と一瞬慌てたノアだったが、グレンの気持ちもよく理解できる。
言うのは簡単だ。
実際に、自分はともかくグレンは問題ないだろう。
五つのPSIを持つというだけでほぼ全てのサイキックに対する牽制にはなるが、数の問題だけではない。スキャナが計測不能と警告を発したように、グレンの能力は未知数の強大さを誇る。
自分の限界など試したことがないのだから本人も分かっていない部分が多いだろうが、グレンが本気で自分の持つPSIの極限までの能力を発揮しようとするなら、止められる相手は今のところどこにもいないと断言してもいい。
ノアにはそう確信があった。だが、esだって素人集団ではない。
あれだけのサイキックやエリート研究員ばかりが集う組織の中で、たった一人(ノアが一緒にいたとしても)で立ち向かうなど、本人にとっては命を懸けた場になるに決まっている。
『監はesをどのようにお考えですか?なぜ自分たちはPSIを計測されかけたのでしょうか?』
『それは私には分かりかねるな』
『では、局長は?』
『…』
『特治とesとの関係性はどれほどの距離なのでしょう』
『…』
これは早まったのではないかとノアは内心かなり警戒した。
フロストが100%自分たちの側にいると断定できない状況で、esとの関係性を探るような発言は避けるべきだっただろう。フロストがどう出るか、ノアは緊張しつつ答えを待った。
『少なくとも、私の立場まではesとは無縁と理解している』
『…本当ですか?』
『私は嘘は言わない。が、信用できないならそれでも構わない』
『…』
『そして、局長が異捜のようにesとの距離を詰めているかどうかは、私には知り得ないことだ』
『そういった話を監とされることはないのですか?』
『特には無いな。まぁ、監職は私だけではないから、他の者がどうかは分からないが』
『…』
信じていいのだろうか。
フロストの話を鵜呑みにするなら、少なくともフロストは敵ではない。
だが、感情に乏しすぎて何を考えているのかまったく読めない上司を相手に、敵か味方かなんて簡単に判断がつくはずはなかった。
『向こうが隠す気なくあからさまに仕掛けてくるのであれば、こちらも堂々とそれに対抗するまでだと思うが?』
『簡単に言わないでくださいよ。だいたい、自分たちには戻るべき現場があるんです』
『局長からの指示を無視する訳にはいかない』
『では、監から担当者変更の申請を局長にしていただけませんか?』
『する必要性を感じていない』
『…』
まったく融通が利かない。
内心腹が立つが、かと言って、この上司が間違ったことを言っている訳でもない。
『…では、es内では臨機応変に自身の裁量で動くということでよろしいですか?』
『好きにしろ』
実はこの上司もesとつながっていて、自分たちをesに差し出しているだけではないのか?それとも、本当に自分たちの能力を信じて任せているだけなのか?考えても答えは出ないが、命令に背くことができない以上、esの中で好きなようにやらせて貰うしかない。
目的をさっさと暴いて、万が一にでも腹黒い実態が浮き彫りになるのであれば、襲撃事件よりも更に大きな事件へと発展させてしまうかも知れないが、とにかく出来ることをやるしかない。




