#60 白日のその先
――特別報道。
二か月前、警察本庁および複数の関連機関に対し、大規模な強制捜査が実施された。この一連の捜査により、警察本庁上層部の幹部職員七名が逮捕されたほか、特別治安執行局(特治)トップである局長、異能犯罪捜査部(異捜)トップである部長を含む、幹部職員計十一名が身柄を拘束された。
容疑は、民間研究機関であるes研究所との長年にわたる癒着、およびそれに伴う一連の重大な内部不正である。
具体的には、
・国家機密の不正提供
・違法人体実験の隠蔽および黙認
・特定個人の違法拘束および引き渡し
・不正資金の授受(贈収賄)
・公文書改ざんおよび証拠隠滅
など、極めて悪質かつ組織的な犯罪行為が確認されている。
関係当局は、今回の事件を「戦後最大規模の警察不祥事」と位置付け、現在も全容解明に向けた調査を継続している。
続いて、同時期に発覚したes研究所に関する問題です。
これまで一部関係者の間でのみ存在が囁かれ、公的記録からは抹消されていた地下実験施設の存在が正式に確認されました。
調査の結果、旧es研究施設の位置と現在のT-15地区の区画が高い一致率を示していることが判明し、当該地区外縁部には、かつて人体実験を主目的とした専用施設が設置されていた可能性が高いと見られています。
当時はノーマル居住区に隣接する立地が選ばれていたとされ、被験者の確保および運用効率を優先した構造であった可能性が指摘されています。
こうした背景から、五十年前に同地区周辺で発生した大規模失踪事件との関連性についても、現在、慎重に調査が進められているということです。
なお、地上施設は既に失われているものの、地下構造の一部は現在も残存していると見られており、近年においては、それらが移送経路として再利用されていた可能性も指摘されています。
公開された資料によりますと、当該施設では長期間にわたり、サイキック能力の人工的強化および複合化を目的とした違法な人体実験が行われていたと見られています。
被験者の多くは意思確認のないまま拘束され、実験に用いられており、その過程で重大な精神的・肉体的損傷を受けた可能性が高いとのことです。
一部の被験者については救出が確認されており、現在は各機関による保護および治療が進められています。政府はこれを受け、被害者の特定および救済、並びに同様の事案の再発防止に向けた特別委員会の設置を発表しました。
一方、esの施設に関しては、事件発覚とほぼ同時期に発生した大規模な崩壊により、研究棟・管理棟を含む大半の建造物が壊滅状態となっています。
現場検証の結果、この崩壊は自然災害ではなく、極めて高出力のサイキック能力に
よるものと断定されました。しかし不可解な点として、医療棟および製薬ラインなど、一般市民の生命維持に直結する施設については、構造的損傷が最小限に抑えられており、現在も修復作業を経て近日中の再稼働が可能な状態にあることが確認されています。
専門家は、「破壊と同時に精密な保護が行われた可能性がある」と指摘しています。
また、es内部において地下実験に直接関与していた関係者計八名が逮捕されました。
関与者は相当数いた模様ですが、崩壊時に多くが死亡し、生存していた直接関与者
八名が逮捕されたということのようです。
一方で、当該計画に関与していなかった多数の研究員については、国家主導の調査により無関係が確認されており、現在は各医療機関および研究機関への再就職支援が進められています。厚生当局は、「有用な技術や知識を社会に還元することが重要」とし、人材の保護と活用を両立させる方針を示しています。
政府は今回の一連の事態を受け、警察組織および特殊機関の全面的な再編に着手しました。新たに設置された監査機関は警察本庁から独立した権限を持ち、すべてのサイキック関連事案に対する監督および透明性の確保を担うとしています。
また、特治および異捜についても体制の見直しが行われ、幹部人事の刷新とともに、権限の分散および外部監視の強化が進められています。そして、今回の事件の鍵を握る存在――esの施設を崩壊させたとされる正体不明のサイキックについては、現在も行方が分かっていません。
複数の証言および現場の痕跡から、単独で行動していた可能性が高いと見られていますが、その能力規模・目的ともに不明であり、当局は引き続き慎重な調査を続けています。なお、一部では「被験者の一人ではないか」との見方も出ていますが、公式な発表はなされていません。
長年、水面下で続いていた不正と、その裏で犠牲となってきた多くの人々――
その実態は、ようやく白日の下に晒されることとなりました。
表向きには収束へと向かいつつあるこの事件ですが、その影響は今なお、社会の各所に静かに残り続けています。
――以上、特別報道をお伝えしました。
『…だってさ』
『あぁ。…まぁ、これでとりあえずはひと段落つきそうだな』
特治A班室――
テレビで流れてきたニュースを、グレンとノアを含むA班のメンバーたちが見ていた。あの事件から二か月が経ったが、この間、グレンとノアは目まぐるしい忙しさに襲われていた。
事件の当事者とも言える立場で、二人して色々とやらかしてもいる。
…大事件の解決へと繋がったからこそ、始末書だけで済んだが、場合によっては
自分たちの立場も危うくなるくらいに、関与しすぎてしまっていた。
そんな二人が今も普通に特治に在籍できているのは、他でもないフロストの力に
よるところも大きい。
フロストも、ブラックウッドや異捜とesとの関係性について証拠を集め、事件解決に大きく貢献した一人だ。そんなフロストの直属の部下であること、そして、フロストが二人のこれまでの貢献度や有能さを存分にアピールしたからこそ、処分らしい処分も受けずに済んでいる。
「色々と、ご迷惑をおかけいたしました」
「…ご苦労だったと言ってやりたいが、暫くは騒々しいだろう。覚悟しておけ」
「処分は覚悟の上です」
「…辞めるつもりか?」
「…その判断が下されるなら、仕方がないと思っています」
「私としては辞めさせるつもりはない」
「…」
「これだけの大事件の解決に誰よりも貢献した人間を、なぜ辞めさせる必要がある」
「…」
「本庁では、正直なところそういった声がないわけでもないが、私は反対だ」
「…」
「君たち二人にこの仕事を続ける気があるなら、全力で守るつもりだが」
「…」
「どうなんだ?」
「…よろしくお願いします!」




