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Transmission  作者: 琉風
第三部「伝達」

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#49 失われる制御

『ッ…!』


グレンがテレポートしたのは、先ほどまで自分がいた場所からほんの少しズレた先。

戦闘中のシヴァの目の前にでも着地しようものなら、攻撃の巻き添えを食らうリスクが高い…そう考え、部屋の端に着地した。

グレンの狙い通り、シヴァの背後に当たる部分に無事テレポートができたが、何となく、シヴァの様子がおかしい…?


『…』


自分の気配に気づいているのか?

――シヴァなら、本来であれば自分がこの空間に着地する前から、自分の気配を感じ取れるレベルのサイキックのはずだが、いくら戦闘中とはいえ、背後に対してあまりにも無防備な印象を受ける。


『…』


グレンは素早く周囲に視線を配った。

やはり、実験体たちはまだ相当数いる。受ける圧から考えて、先ほどのものよりは能力的に劣るのかもしれない。それでも、「得体の知れない者」が一定数いるという時点で、決して楽観できる状況ではなかった。


『ッ…』


とりあえず自分はシヴァの援護に回ろう。

グレンがそう考え、応戦中のシヴァ周辺にいる実験体たちではなく、よそからこの部屋へと入って来ようとしている新たな実験体たちに向かってサイコキネシスの攻撃を仕掛ける。


――その瞬間、


『!?』


シヴァが弾かれたようにグレンを振り返る。

――やはり気づいていなかったのか?


『…』


何か、おかしくないか?

グレンはシヴァの様子を見つめた…なんだか、顔色も悪い上に、息も荒い。


『…大丈夫か?』

『…何しに戻って来た』


グレンの問いをシヴァが遮る。

…その声もどことなく震えているようだ。


『攻撃でも食らったのか?』

『…お前に関係ない』


いや、シヴァに限ってまともに相手からの攻撃を食らうわけがない。

それに、もし仮に攻撃を受けたのだとしても、自己ヒーリングですぐにでも体は元に戻るだろう。ではなぜ、こんなにも苦しそうなのか…


『…援護する』

『不要だ』


吐き捨てるようにそう答えたシヴァが、目の前にいた数体の実験体に向かって光を放つ。…一瞬でこの世から消し去ると同時に、シヴァの体もよろけた。


『おいッ!』

『俺に構うなッ!』


冷たい拒絶の言葉と共に、グレンを受け付けない仄暗いオーラがシヴァの全身を覆う。…グレンは、シヴァに何が起きているのかが理解できないまま、攻撃の手を休めることもできず、応戦を続けていた。

すると――


『…ヴェイルを死なせたのはお前か?』

『!?』


突然現れた二人の男に、グレンが身構える。

テレポートしてきたのではないらしい。

…なぜなら、「ワープの道具」らしきものの中をくぐって来たように見えたからだ。


『…』


グレンは「それ」を見上げる。

よく見ると、顔や手足など、元となっている人間が最低でも二人はいたのではと思うような、単体ではない歪さと悍ましさを帯びている。

――これが、アレンが攫われた時に使われた、あの女性の弟妹を犠牲に作られた「道具」なのか…。

そう理解したグレンが、さすがに顔をしかめて視線を逸らす。

シヴァは、この様子を荒い息のまま一瞥しただけ…


『優秀な部下だったが、まぁ、研究員としての欲が深すぎて、自業自得の最期とも言えるな』

『…お前は…』


グレンの言葉に嫌な笑みを浮かべた男が言葉を続けた。


『私はアルドリック・ヴァルディス。esのトップに立つ者だよ』

『…』

『そして彼がナンバー2のガイウス・レイカーだ』

『…』

『マーゴット・ヴェイルがナンバー3だったのだがね。君たちに殺されてしまったのでこちらは困っているところだ』

『今更なんだ?もうesは終わりだ。悪あがきはやめておくんだな』


グレンの言葉に、ヴァルディスはわずかに首を傾げた。


『終わり、か…』


その声音には、何の感情もない。


『君たちは、どうやら終わりという概念を、都合よく扱い過ぎているようだ』


次の瞬間――


『跪け』


静かな命令。


『ッ…!』


頭の奥に、直接ねじ込まれる異物感。


――ドミネーション


思考を侵し、意志を上書きする支配。


『…ッ、ふざけるな…!』


グレンは即座にテレパスを展開し、自我を強引に固定する。

侵入してくる「命令」を押し返すように、意識を一点に集中させる。


『ほう…抵抗するか』


ヴァルディスの目がわずかに細められる。


『ならば、壊すとしよう』

『――ッ!!』


世界が、歪む。


――マインド・クラッシュ


記憶が引き裂かれ、思考が乱される。

視界が揺れ、現実と断片的な記憶が混線する。


『ぐッ…!』


膝が沈みかける。その瞬間、レイカーが踏み込んだ。


――キネティック・バースト


爆発的な加速で距離を詰め、グレンの懐へと入り込む。


『…ッ!』


防御が間に合わない。

接触――内側から、衝撃が炸裂する。

呼吸が強制的に途切れる。

視界が、跳ねる。


『…ッ』


床を滑るように数歩後退する。

だが――倒れない。


『終わりだ』


触れた瞬間、内部から炸裂する破壊。


――ブレイク・インパクト


『ッ…!』


一瞬、呼吸が止まる。

身体が弾けるように吹き飛び、肺の空気が強制的に吐き出される。


『…まだ立つか』


淡々とした声。


『…当然だろ』


グレンが歯を食いしばり、立ち上がる。

だが、その瞬間――


『無駄だ』


ヴァルディスの声が重なる。


『お前はもう、一人ではない』

『…!?』


思考が、流れ込む。

一つではない。複数。

…レイカー、実験体、そしてヴァルディス自身。


――サイキック・リンク


すべての思考が繋がり、「一つの意思」として流れ込んでくる。


『抗えない』

『…チッ』


動きが読まれる。次の行動すら、共有される。


『それなら…』


グレンが低く呟いた、その瞬間。


『…グレン』


背後から、かすれた声。


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