#48 崩壊する秩序
『これで二つ片付けた』
『で?次がラストだよな?』
ノアとルーカスが必死にesのセキュリティの別回路を探し、潰すのに時間を要していた。それでも、三つ存在を突き止めたうちの二つは完全に破壊し終えている。
ラストの一系統に取り掛かろうとしていたところへ、グレンが姿を現す。
『兄さん!』
『グレン、そっちはもう大丈夫なの?』
『やっぱ仕事が早ぇな』
三人がグレンに気づき、シールドを解除する。
『…シヴァが来て、厄介な実験体たちを始末してくれた』
『え?アイツもいるの?』
『ノア、セキュリティシステムはどうなった?』
『三つも仕込んであったよ。でも、そのうちの二つは破壊済み』
『よくやった。だが、残りはもういい』
『え?どういうこと?』
グレンは、自分が一階から地下四階までに大きな縦穴を開けたため、今さらセキュリティシステムを稼働させたところで、実験施設の存在を隠せるわけではなくなったこと、そして、シヴァの言葉通りなら、es内のどの建物にいても危険になることを告げ、すぐにでも地上に出る必要があると三人に伝えた。
『どおりで、さっきあり得ない轟音と地響きが起きて、地震でも起きたのかと焦ったが、お前だったのか。マジで信じられねぇことするよな』
ルーカスが呆れたようにつぶやく。
『とにかく、上に出よう』
グレンは三人を連れて地上へとテレポートした。
『ブラッドさん!』
一階部分へと移動して降り立つと、あちこちに建物の倒壊が起きていて、既にどこもパニック状態に陥っていた。
…シヴァが地下に降りる前にやったのかも知れないと、グレンも三人も瞬時に思う。
そんな中、何人か目についていた特治の人間のうち、同じA班の人間がグレンたちを見つけ駆け寄って来た。
『大丈夫ですか!?…コールドウェルも』
『あぁ、大丈夫だ。お前たちは何をしている』
『自分たちは監の指示でこちらへ』
『…』
『二人の援護をするようにと指示を受けました』
『…そうか』
やっぱり、あの人は敵ではなかったのだな。
グレンとノアは目を合わせて頷く。
他にも、フロストが統括監理局へと出向いたこと。
そもそも、ここ最近はブラックウッドをはじめとする、内部の不正を働く者たちの証拠を集めるのに極秘で動いていたこと、今、警察内ではブラックウッドや異捜、本庁上層部などの取り調べが行われていることなどを聞く。
『分かった。それを聞けて一安心だ。悪いが建物内にいる人たちを一人でも多く、迅速に、安全な場所まで避難できるよう誘導してくれ。ここは危ない。いずれすべて倒壊する』
『…分かりました。他の者にも伝えます』
『あぁ、頼む。自分たちの安全も絶対に確保しろよ?』
『はい!』
そう言って走っていく部下を見送り、グレンはノアとルーカスを振り返る。
『アレンを連れて安全な場所まで逃げろ』
『!…グレンは?』
『俺はまだ、することがある』
『それなら僕も行く!』
ノアの言葉を優しく手で遮ったグレンが、「お前にはやって貰いたいことがある」と告げる。
『ノアは、最後の一つのセキュリティシステムが下手に作動しないように、安全な場所へ移動した上で破壊してほしい』
『…』
『地下ほどの影響はなくても、基本的に全館にシールドが張られているような組織だ。避難する人たちの妨げになるようでは困る』
『…分かった』
『ルーカス、お前はノアのサポートと、アレンを宜しく頼む』
『俺は使えるだろ?連れてけよ』
『…お前は民間人だ。明らかに危険と分かっている場所へは連れて行けない』
『今更過ぎねぇ?別に危険とか全然関係ねぇし』
ふてくされるルーカスを見つめたグレンが、低い声でつぶやいた。
『…お前はまず、自分の命と健康をしっかり大切にしろ』
『…』
『お前に関係なくても俺やアレン、ノアには関係がある』
『…』
『俺は大丈夫だから、二人をしっかり守ってくれ』
『…分かったよ』
グレンは最後に、心配そうに自分を見つめているアレンに向かって優しく言葉をかけた。
『アレン、すべきことを済ませたら必ず戻って来るから、心配せずに二人と待っていてくれ』
『…どこに行くの?』
『…』
『地下だよね?』
『…あそこにはまだ、実験されて人の形を成していない者たちが多数残っている』
『…』
『あれが地上へ出てきてしまえば、人々にとって脅威にしかならない』
『…』
『esを完全に潰すには、まずあれを始末して、救える者は救い、施設自体も跡形もなく消し去る必要がある』
『でも、兄さんにも危険が及ぶ』
アレンが強い目でグレンを見つめる。
自分の言っていることのすべてを理解できていても、それを自分が一人で背負う必要があるのかどうか…そこに納得していないのだろうとグレンは思う。
『おそらく、今この場にいる中では俺が一番適任だ』
『…他の人も一緒に行くべきじゃない?』
『部下を危険には晒せないし、地下にはまだシヴァがいる』
『…』
『たとえ一時的だとしても、今アイツは俺らの敵ではない』
『…』
『それなら、アイツ以上の戦力はここにはいないよ』
『…』
『アイツ一人で他のサイキックの百人分にも千人分にも相当する』
『…』
『むしろ、俺が足手まといになるかもしれないが、加勢する』
『…絶対に、帰って来て』
これ以上は何を言っても無駄だと諦めたかのように、アレンが震える声でつぶやく。
それに「もちろんだ」と答えたグレンが、「行って来る」と残して瞬時に姿を消した。
『…』
『アレン、あまり心配すんな。俺がちゃんと追ってる』
『え?』
『クリアに見えるわけじゃねぇけど、グレンの気配や大まかな流れは把握できるから、万が一ヤバい状況になった時には俺が駆けつける』
『ルーカス…ありがとう。兄さんをお願い』
『おう。任せとけ!』
そう言って笑ったルーカスが、「少しでも距離は近い方がいい」と言って、三人、グレンが地下から開けた竪穴の近くまで移動した。そこで、ノアが最後のセキュリティシステムの破壊を進め、ルーカスがその補佐をしつつグレンの気配を追い、アレンは、またしても、この場で自分だけが役に立たない無力感を感じていた。




