#45 封じられた異形
『…ノア、esの全系統セキュリティの破壊は可能か?』
『さすがにちょっと時間がかかるけどね。できないことはないよ』
『ルーカス、アレンを守りつつ、ノアにも加勢することは?』
『だから、できるかどうかじゃなく、やるしかないだろ?』
それならば…
『アレン、絶対に二人から離れるな』
『分かった。…兄さんは?』
『二人に任せた以外のことは、俺がやる』
シールドに邪魔をされることがないなら、自分一人でも地下エリアに存在するサイキックたちくらいは片付けることができる。
だが、ヴェイルが匂わせた「実験されたサイキック」が本当に存在するなら、それは未知の存在として用心しなければ――
グレンが短いため息をついて一歩踏み出すのと同時、ヴェイルが手元の小さなリモコンのようなものを操作する。
『…なんだ、それは』
『さぁ、何かしらね。今から楽しいものが見られるわよ?』
ヴェイルが操作したのは、実験済みのサイキックやノーマルたちを隔離しているエリアの、収容室の各ドアの施錠解除だった。
『まだ実用にまでは至っていない未完成品たちばかりだから、制御不能なものもいるとは思うけれど』
『…』
『命令系統がしっかり確立された個体も幾つかは存在しているわ。彼らが私の命令でどれほどの威力を発揮するのか、実戦で試せるというのはいい機会かもしれないわね』
『…』
そう言うと、ヴェイルが壁についているボタンを押した。
――途端に、ヴェイルの周辺にシールドが立ち上がる。
『ッ…』
『残念だったわね。こんな、危険と隣り合わせの実験エリアよ?万が一の際に身を守るための個別系統のシールドくらい、そこかしこに備わっているわ』
確かに、そのくらいの設備はあって当然だろう。
できればヴェイルを確保したかったが、今はそんなことを言っていられる状況ではない。単なるサイキックたちだけではなく、得体の知れないものまで出てこられたら、三人を守りながらどこまで戦えるかも分からない。
グレンがより一層緊張感を増していると、まずは地下エリアに配属されているサイキックたちが一斉になだれ込んできた。
『…やるか』
低く呟いたその瞬間、グレンの姿が消えた。
――テレポーテーション。
なだれ込んできたサイキックたちの視界から、完全に消失する。
次の瞬間、先頭に立っていた男の背後へと現れた。
『なッ…』
声が上がるよりも早く、サイコキネシスが発動する。
見えない力が、首元と両腕を同時に拘束。
動きを封じたまま、そのまま床へと叩きつける。
『ッ!!』
衝撃音。だが、グレンは一切視線を向けない。
――来る。
確信に近い感覚。振り返るよりも先に、体がわずかに傾く。
背後から振り下ろされた刃が、空を切った。
『遅い』
そのまま腕をかざす。圧縮されたサイコキネシスが、接近していた敵の胴を横殴りに打ち抜いた。吹き飛ぶ体。壁へと叩きつけられ、動かなくなる。
間髪入れず、二人目。
『囲めッ!』
声が飛ぶ。複数のサイキックが同時に能力を展開。
だが――
『無駄だ』
その時点で、すでに結果は決まっている。
グレンの中では、いくつかの「先の展開」が重なって見えていた。どこから来るか、
どこへ逃げるか、どの選択が最も遅れるか――
『そこか』
一歩踏み出す。――消失。次に現れたのは、隊列の中心。
『なッ!?』
反応が遅れる。その一瞬で充分だった。
『動くな』
低く落とされた声と同時に、周囲の空間そのものが歪む。
――サイコキネシス。
複数対象への同時拘束。
空間ごと押さえ込むような圧力が、周囲のサイキックたちの動きを一斉に封じた。
『ぐッ…!?』
『な、なんだ、この圧は――』
膝が折れる。呼吸が詰まる。
逃げることも、抵抗することもできない。
『…』
グレンは無言のまま、手をわずかに下げた。
次の瞬間――拘束されていた数人の体が、同時に床へと叩きつけられる。
鈍い音が連続して響く。一掃――
だが、それでもなお、後方から新たなサイキックたちが押し寄せてくる。
『数で押し切れ!』
『たった一人だぞ、潰せる!…潰せ!』
その判断は、間違いではない。
だが――相手が悪すぎた。
『…数の問題じゃない』
――来る。
その感覚と同時に、グレンの姿が再び消える。
現れたのは、後方支援に回っていた能力者の背後。
『ッ――!?』
反応すら許さず、首元へと正確に打ち込まれる一撃。
意識が途切れる。
そのまま、倒れる体を視界の端に流しながら、グレンは次の地点へと跳ぶ。
――連続テレポーテーション。
位置を固定させない。捉えさせない。
そして、確実に仕留める。
『どこだッ!?』
『見失うな!』
焦燥が広がる。
だが、その混乱すら、グレンにとっては「隙」に過ぎない。
『遅い』
現れる。叩き伏せる。消える。
――その一連の動作に、無駄は一切ない。
やがて、最後に残っていた一人のサイキックが、震える声で後ずさる。
『ば、化け物か…』
『違うな』
グレンが、目の前に現れる。――逃げ場は、ない。
『これが、「現実」だ』
その言葉と同時に、サイコキネシスが発動。
意識を断ち切るように、静かに、確実に倒す。
――静寂。その場に立っているのは、ただ一人。
『…』
グレンは周囲を見渡す。動ける者はいない。
戦闘は、完全に終わっていた。
『…esと言っても、こんなものか』
わずかに息を吐く。
だが、その目はまだ緩まない。
――終わっていない。
ここからが、本番だと理解しているからだ。




