↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Transmission  作者: 琉風
第三部「伝達」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

120/141

#41 均衡崩壊

『…よし』


ノアの指が止まる。


『中枢、見えた』


ルーカスの目が鋭く細められる。


『いい位置だ。削るぞ』


電流が中枢へと叩き込まれる。一瞬、光が大きく揺らいだ。


『…まだ残るか』


ルーカスが低く呟く。


『当然でしょ』


ノアが淡々と返す。


『今回は、壊される前提で組み直してきてる。…最初から僕を想定してる』


その言葉と同時に、影が再び広がる。

今度は、侵入ではない。「圧し潰す」ように。回線全域へ。

防壁の隙間を埋めるように、影が入り込む。


『…全部、見えてる』


ノアの声。

選択はない。迷いもない。すでに「終わり方」が決まっている。


『――落とす』


ルーカスの声。次の瞬間…電流が、一斉に暴れた。

一点ではない。全域。

分岐した回線すべてに、同時に叩き込まれる。

影と電流が、完全に重なる。

逃げ場はない。一瞬の沈黙。

そして――すべてが、落ちた。


監視。

制御。

防衛。


完全停止。


『…終わり』


ノアが小さく息を吐く。

だが、その直後。施設全体が赤く染まる。

警報――バックアップ起動。


『まだ来るか』


ルーカスが笑う。


『いいね。しつこい方が面白い』


ノアもわずかに笑う。


『好きにやっていいよ』


その一言で、充分だった。

次の瞬間。影が、一気に増殖する。

侵入ではない。制圧。同時に、電流が全域へと広がる。

逃げ場はない。


『――終わりだ』


一瞬の沈黙。

そして。施設全体の光が、完全に消えた。

余韻すら残らない。

…すべてが、落ちる。


『…終わった』


ルーカスが息を吐く。

ノアはすでに視線を外している。確認は不要だった。

最初から、結果は決まっている。


『終わったな。お疲れさん』

『そっちこそ。随分と派手にやってたじゃない』

『次から次へと来るから、いい腕慣らしになったよ』


グレンが笑いながら答えるその足元には、無数のサイキックたちが転がっていた。

ここからは見えない位置まで吹っ飛ばされているサイキックたちも無数にいそうだが、見れば見るほど、この短時間で、たった一人で、よくぞここまで応戦できたものだと二人は感心する。


『のんびりしているヒマは無いな。システムがダウンしたのが俺たちのせいだって、ヴェイルあたりがすぐに察しそうだから、すぐにでもこれ以上の追手が集まって来るぞ』

『その前にアレンを助けないとね』










――一方、その頃…


『…!』


シヴァは周囲に張り巡らされていたシールドが消えたことに気づく。

しかも、このエリアだけでなく、es全体のセキュリティがシステムダウンしているようだ。


『…なるほど』


もう少し待っていれば、苦労せずともこのエリアに侵入できたというわけか。

しかし、このesのセキュリティを破壊できるとは、確か、焦げ茶色の髪の男――ノアという名のサイキックは、情報干渉系のPSIの持ち主だったな。

アイツの能力にルーカスの持つPSIを合わせたら、できないことはないだろう。


『…』


一番面白いのは、セキュリティがダウンしたことで、地下施設の存在が露わになるかどうか、だ。バックアップまでやられたのなら瞬時には難しいだろうが、おそらく、地下エリアを守るシールドは、まったく別の干渉が存在するはず。

…その間に、その存在が公になればかなり楽しめそうな展開になるが…


『…ッ』


地下四階のとあるエリアで廊下を歩いていたシヴァが、ふと、視界に入って来た部屋の窓から、中の様子に気づく。そこには、「ワープの道具」として実験台にされた者ほどの異質さはなかったものの、普通の人間と呼ぶには程遠い、身体能力を異常なまでに強化された、まるで兵器のような獰猛さを持つサイキック(おそらく)の姿があった。

シヴァは、廊下の左右に続く部屋たちに視線を送る。


『…』


小さめの部屋が横にずらりと並んでおり、一部屋につき「そういった者」が一体ずつ、隔離されている。

――シヴァは、その部屋に施されていたであろうシールドもすべて解除されている事実を考え、足を止めた。

もし、中にいる兵器のようなサイキックたちがその事実に気がついたなら、形だけの施錠など、いとも容易く破壊して、外へと出てくるはずだ。


『…』


いったい、こういった者たちをあとどれくらい隔離しているのか。ここですべてだと思いたいが、それにしたって、決して少なくはない数だ。


『…』


「コレ」らがあのノーマルの元へ行くようなことがあれば、少々厄介だ。

その前に三人が無事に救出できれば問題はないが――


『…』


わずかに、視線が揺れる。

その先にあるのは、ただの可能性ではない。

「起こり得る現実」だ。


『…面倒だな』


小さく吐き捨てる。だが、その声音に焦りはない。

ただ、計算しているだけだ。


――解放された場合の被害。

――動線。

――接触確率。


すべてが、瞬時に組み上がる。


『…』


結論は、出ている。

ゆっくりと、歩みを止める。その場で、静かに振り返った。

閉ざされていたはずの扉の向こう。

今はただ、薄い隔たりだけで仕切られた空間。

その中で、「それら」が蠢いている。


『…出る気か』


問いかけるように呟く。返答はない。

だが――

一つ。内側から、わずかに軋む音がした。

次の瞬間。


――ピシッ。


施錠が、音を立てて崩れる。


『…』


シヴァは、動かない。ただ、見ている。「その先」を。

扉が、ゆっくりと開く。

暗がりの中から、獣のような気配が溢れ出す。

理性はあるのか。命令系統は残っているのか。

――関係ない。


『…』


その存在が、一歩踏み出した瞬間。空気が、変わった。

目に見えない「何か」が、場を支配する。

圧。ではない。もっと根本的な――「干渉」。


『…やめておけ』


静かな声。それだけで充分だった。

次の瞬間――すべてが止まる。

踏み出しかけた足も、膨れ上がった気配も、何もかもが、途中で凍りついたかのように静止する。


『…』


シヴァは一瞥する。興味を失ったように。


『…邪魔だ』


その一言で、「それら」は、崩れ落ちた。

音もなく。抵抗もなく。

ただ、存在を保てなくなったかのように。

――静寂が戻る。


『…』


再び、歩き出す。視線は、すでに先へ向いている。


『…急いだ方がいいか』


誰に向けた言葉でもない。だが、その足取りは変わらない。

焦りも、迷いもない。

ただ確実に、目的地へと向かっている。


――その頃。


施設の奥では、まだ誰も知らない。

この場所に、「もう一つの異常」が侵入していることを。

そしてそれが、すべての均衡を、静かに崩し始めていることを。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。