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Transmission  作者: 琉風
第三部「伝達」

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#39 侵入者たち

『…無事に着いたみたいだな』


ノアが解析したルートを基に、グレンが二人を連れてテレポートした先は、ノアが「深層施設」と表現した隔離エリアだった。

無機質で音も匂いも何もしない、まるで「無の空間」のような場所。


――空気が、妙に整いすぎている。

グレンは一瞬だけ、T-15地区で感じたあの違和感を思い出した。

壁や天井など、周囲を全て、蟻一匹通さない異次元のシールドで囲われている。

…一度このエリアに連れ込まれてしまえば、抜け出すことはまず不可能だろう。

実際、このエリアは研究棟の地下四階に位置し、esの中でもごく僅か、限られた人間しかその存在を知らない危険なエリアだ。


『…入るには入れたが、このままではアレンを助けたところで外には出られないな』

『前回ロキに助けられた時と同じような空間…このエリア全体が異常な空間の歪みによって守られてる。…僕がまた解析した上でルートを確保するのは不可能ではないけど、多少は時間がかかるから、アレンを救出した後に…ってなると逃げきれなくなる可能性が高いね』


ノアの言葉にグレンが考え込む。ルーカスは「そん時はそん時だろ。とにかくアレンを助けようぜ」と苛立ち気味につぶやくが…


『ノア、いっそのこと、esの基幹システムを攻撃…ってのはどうだ?やれるか?』

『僕のことを誰だと思ってるの。不可能なんてないよ』

『おい、どういうことだよ』


二人のやり取りにルーカスが慌てて問いかける。


『このままでは各エリアに張られているシールドがいちいちネックになる』

『…』

『それならいっそ、esのシステムすべてを破壊して、セキュリティ自体を働かなくさせればいい』

『何言って…そんなことしたら一瞬でバレて囲まれちまうぞ?…っていうか、できねぇだろそんなマネ』

『失礼だな。不可能はないって言ったろ?』


驚くルーカスにノアが不満そうな表情を浮かべる。

だが、続けて…


『まぁ、癪だけど、お前が協力してくれればより精度は上がるかもね』

『俺?』

『あぁ。さすがにesのシステムすべてを…ってなればかなり時間がかかるし難易度も高い。システムダウンをさせる前に見つかってしまったらかなり危険だ』

『…』

『でも、お前の索敵能力や電撃系の攻撃のPSIは、システムの破壊には打ってつけだ』

『…』

『まぁ、僕がナビするから、サポートと攻撃を頼むよ』

『…何を偉そうに…』


ノアの言葉に不服そうなルーカスに、グレンが問いかける。


『どうだ?ルーカス。ノアのナビでシステムを攻撃し、破壊することができるか?』

『…できるか?じゃなくて、やるしかないんだろ?』

『分かっているならいい。万が一、途中で邪魔が入るようなら俺がすべて始末する。二人はシステムへの侵入と攻撃に全神経を集中してくれ』

『了解』

『すべてをぶっ壊して、esん中、どこでも入り放題にしてやるよ』








――地下四階、別室。


白い光が、やけに目に刺さる。

アレンは小さく息を吐いた。

何度目かも分からない検査が終わり、短い間隔を挟んで、また次の工程へと移される。採血、バイタルスキャン、意味の分からない質問、光と音に対する反応確認――

どれも大した負担はない。痛みも、苦しさもない。

だが、それが逆に不気味さを感じさせた。


『…次だ』


感情のない声に促され、アレンはゆっくりと顔を上げる。

案内された先も、同じように無機質な部屋だった。

壁も床も白で統一され、境界が曖昧になるほど均一な空間。

中央に置かれたイスに座らされると、研究員が手元のケースを開く。

中に収められていたのは、小さな結晶のようなものだった。

――淡く光を放っている。


『これは、何?』


アレンが問う。


『適性確認だ』


抑揚のない説明。


『これに触れてくれ』

『…それで終わり?』

『ああ。すぐに終わる』


一切の迷いもなく返される言葉。

だが、その視線にはわずかな期待のようなものが混じっていた。

――嫌な感じがする。アレンは一瞬だけ手を止める。だが、ここで拒んだところで意味はない。それはもう、ここに連れて来られた時点で理解していた。

ゆっくりと、指先を伸ばす。

そして、触れた瞬間――


――ピシッ。


空気が、微かに軋んだ。


『…?』


結晶の光が揺れる。ただの明滅ではない。

輪郭そのものが歪み、内部から何かが押し返されているような挙動。

モニターの数値が一斉に跳ね上がる。


『…待て』


研究員の声が、わずかに変わる。


『反応値、急上昇…いや、これは…』


波形が乱れる。

――上昇ではない。崩壊に近い。

規則的だったラインが崩れ、異質なパターンを描く。


『…何だ、この波形は』


アレンが眉をひそめる。


『何を測ってるの?』


その問いに、答えは返らない。

研究員は画面を見たまま、言葉を失っている。

――数秒。アレンが手を離した瞬間、結晶の光は元に戻った。

何事もなかったかのように、静かに。


『…終了だ』


短く告げられる。

だがその声は、先ほどまでとは明らかに違っていた。


『次へ進む』


研究員はすぐに背を向ける。

その仕草は平静を装っていたが、わずかに早い。

アレンはその背中を睨む。


『…何だったの?今のは』


返答はない。ただ一つ分かるのは――

自分が、さっきまでとは「違うもの」として扱われ始めたということだけだった。


『…』




そしてその結果は、即座に上位権限へと送られる。


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