#37 深層施設
『…シヴァ?』
『…これ、ロキだよな?』
『まぁ、面影はあるね』
『どういうことだ?なんでアイツのデータがこんなところに?』
三人は困惑しながらも、データを読み進める。
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【閲覧制限ファイル】
ES-ARCHIVE / CLASSIFIED DATA
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対象個体:No.███(コード未設定)
識別名:シヴァ・フォレスト
IQ:155
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『…いったい、何のデータだ?』
『っていうか、IQ155?マジかよ』
グレンとルーカスの言葉にノアは何も言わず、スクロールを進める。
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■ 実験分類
複合型PSI適応強化プロトコル
■ 被験体状態
・高適性(適合率:異常値)
・複数PSI同時保持:成功
・精神負荷:許容範囲超過(継続観察対象)
■ 投与薬剤記録(抜粋)
① オーバードライブ・ブースター
目的:PSI出力の限界突破
結果:出力上昇確認/神経負荷増大
② アブソープション・アダプター
目的:他者PSIの定着・同化
結果:拒絶反応なし/多重能力保持成功
備考:人格混濁傾向あり
③ センサリー・エクスパンション
目的:感知領域の拡張
結果:高精度索敵能力獲得
副作用:睡眠障害(浅眠状態継続)
④ ニューロ・リインフォースメント
目的:神経系強化
結果:高負荷PSI連続使用可能
副作用:痛覚鈍化・自己損傷認識低下
⑤ エモーション・サプレッサー
目的:感情抑制によるPSI安定化
結果:感情振幅の低下
備考:共感能力の著しい減衰を確認
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『…おい、これ…』
グレンの指が、無意識に止まる。
ノアは何も言わない。
ただ、さらに下へ。
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■ 総合評価
本個体は、すべての投与薬剤に対し完全適応を示した唯一の成功例である。
通常個体においては複数PSIの同時保持は不可能、または精神崩壊を引き起こすが、
本個体に限り例外的に成立。
出力・適応・感知のすべてにおいて規格外。
現段階において、当該個体に「限界」の概念は確認されていない。
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『…ふざけんなよ』
グレンの声に、明確な怒りが混じる。
ノアは、さらにスクロールする。
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■ 備考
本個体は「兵器」としての完成形に最も近い。
今後、さらなる出力試験および能力拡張を継続予定。
倫理制限:適用外
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ここで画面が止まる。
『…』
画面に残るのは、ただの記録ではない。
それはまるで、「人を壊して作られた存在」の証明――のようだ。
『…これが、ロキ…?』
グレンが呟く。
誰も答えない。
ただ、その言葉だけが、重く沈む。
『…おい』
重苦しい沈黙の中、ルーカスがつぶやく。
『そのデータもめちゃくちゃ気になるけど、今はアレンが先だろ?』
『…そうだね』
ノアが頷き、グレンに「このデータもコピーしたから、あとで話そう」と告げて、
再びシステムの中へと潜っていく。
グレンはデータに記載されていた「シヴァ・フォレスト」の名前が引っ掛かっていた。「どこかで聞いたことがあるような…」そんな気がしてならない。
ただ、今はアレン救出のことだけに集中しようと、その気掛かりをすぐにでも払しょくする。
『…』
ノアの指が止まる。
画面を見たまま、数秒――
『…違う』
短く答え、指が再び動き出す。
さっきまで見ていたのは「記録」だ。だが、今必要なのは、「現在」の位置。
『直接の被験体ログは…やっぱり消されてる』
画面上に浮かぶのは、欠損だらけのデータ。
『名前検索はダメだ。完全に伏せられてる』
『じゃあどうすんだ?』
『…痕跡を辿る』
ノアの声が低くなる。
『搬送ログ、エネルギー変動、セキュリティの再配置…人そのものじゃなくて、「動いた結果」を拾う』
データが高速で組み替えられていく。
断片が繋がる。ズレが浮き上がる。
『…ここだ』
ノアの指が止まる。
一点に、異常な集中。
『このエリアだけログの密度がおかしい。…それに、意図的に隠されてる。
搬送とエネルギーの流れが全部ここに集まってるみたいだ』
『場所は?』
『…深層施設』
空気が、わずかに張り詰める。
『深層って…地下か?』
『いや、物理的な「下」じゃない』
ノアが首を振る。
『表層の実験ラインとは別系統。アクセス権も、構造も違う。「成功例」や「特殊個体」を扱う隔離領域だ』
『…そこに、アレンが?』
『断定はできない。でも――』
ノアの視線が鋭くなる。
『この流れから外れる可能性は低い』
画面が切り替わる。
断片的なスケジュールログ。
――次段階移行予定
――適合検証
――処理ライン移動
『…ッ』
ルーカスが舌打ちする。
『時間、ねぇな』
『あぁ』
ノアが短く頷く。
『次のフェーズに進められたら…戻れない側に行く可能性が高い』
『…ふざけんなよ』
グレンの拳が、強く握られる。
『場所は割れるか?』
『割る』
ノアが迷わず答えた。
『ただし、深層は構造自体が歪んでる。通常ルートじゃ辿り着けない』
画面に浮かぶのは、複雑に折り畳まれたような構造図。
『直線移動は無理だ。途中で空間ごとズレる』
『つまり?』
『ショートカットするしかない。…かなり精度がいる』
『問題ない』
グレンが即答する。
『やるしかないなら、やる』
その声に迷いはなかった。
『…ルート、出た』
ノアの指が止まる。
『ここを抜ければ、深層に直接入れる』
『…行くぞ』
グレンの一言で、三人の意識が揃う。
もう、迷う理由はなかった。




