#32 届いたSOS
『今日もいい天気だな』
翌朝――
庭先にあるポストまで郵便物を取りに行くのはアレンの仕事だった。
実家に住んでいた頃は毎朝の日課として欠かさず行っていたが、こうしてたまに
戻って来た時にも、滞在中はアレンの仕事となる。
父親が張っているシールドは家が建つ敷地内全体に及んでいるため、庭の門を開けて、一歩敷地の外へ出てしまわない限りは問題ない。
『…ん?』
封書やDMはがきなど、特に必要な物でもなさそうなものが大半だったが、
その中に、封筒に入っていない状態の、四つに折り畳まれた便箋を見つける。
『何だろう…』
アレンはその場でその手紙を開いてみた。
『…』
そこには、衝撃的な文章が書かれていた。
――助けて下さい。私は、あなたと同じノーマルです。
あなたしか頼れません。
お願いです。このことはどうか誰にも言わないで。――
『…なに、これ』
アレンは顔を上げて庭から周囲を見渡した。
閑静な住宅街に建つ、大きめの戸建てであるアレンの家の庭先からは、隣接する家が左右に一軒ずつ見えているだけだ。
家の目の前には大きな公園が広がっているが、時間的にその公園にも、目の前を通る道にも、人は誰もいない。
『…』
「あなたと同じノーマル」…これは、どう考えても自分に宛てた手紙だろう。
でも、誰が?何の目的で?
『…』
助けて下さい…って、いったい何から?
この辺りにノーマルが住んでいるという話は聞いたことが無い。
どの家も古くから付き合いのある家ばかりで、いちいち詳細までは把握していないが、家族の中にノーマルがいる家庭は、この辺りでは自分たち家族以外にはいなかったと記憶している。
『…なんで、俺がノーマルだって知っているんだろう』
近所の人なら知っていることでも、その中にノーマルがいないのなら、この手紙はもっと別の…アレン自身も知らない距離感の人間からのものではないのだろうか。
『…』
アレンはもう一度辺りを見渡してみるが、やはり誰もいない。
一瞬、門の外へ出て確認してみたいとも思ったが、それは危険すぎるので無理だと
すぐに思いとどまる。
『…』
イタズラだろうか。
でも、もし本当だったら?
…失踪者事件のこともある。
もし、同じノーマルが苦しんでいたり、恐怖に襲われているのだとしたら、自分にできることであれば救ってあげたい。
だが…
『…』
自分にできることなんてあるのだろうか。
アレンは、あまり外に長くいると家族が心配をし始めるだろうと思い、その手紙を服のポケットに入れて、家の中へと戻った。
『なぁ、証拠って言えばさ、T-15地区の立ち入り禁止区域内にある地下の話はどうだ?』
朝食後、グレンは自室でノア、ルーカスと三人で今後について話し合っていた。
するとルーカスが、統括監理局に提出する報告書の中に、esの悪事を暴く証拠として、立ち入り禁止区域内にある地下道の映像データを添付したらどうかと提案してきた。
『この前も言ったけど、ロキに連れられて入った時に見たヤツがヤバすぎた』
『お前とアレンが襲われた時にいた、「ワープができる道具」とされていた生き物と同じようなものだと言ったな?』
『あぁ。あの時esのサイキックは「三体成功した」みたいなことを言っていたから、そのうちの一体があの地下道にいたヤツだと思う』
『でも、俺たちだけで行ってすんなり地下に潜れるのか?』
『前みたいに敵が待ち受けていればちょっと面倒だろうけど、グレンがいれば多分、テレポートは問題なくできそうだと思うけどな』
『もし待ち伏せされていたり、侵入したことに早々に気づかれでもしたら厄介だが、できれば証拠は欲しいな』
『だろ?なら行こうぜ♪』
『…お前、退屈しのぎに言ってないよな?』
『違うって!ただほら…運動不足が解消できて証拠もゲットできるなら良くね?』
『…お前の目的は前者だけのような気もするけどな』
呆れるグレンと、そんなグレンを気にも留めず「今日行こう、すぐに行こう」と上機嫌のルーカス。
あの場所は本能が拒絶するレベルで不気味な場所だとボヤいていたのはどこの誰だったか…と、ノアは、ため息交じりに二人の様子を見つめていた。
『父さん、今夜ノアとルーカスを連れて、T-15地区まで行って来る』
『危なくはないのか?』
『…ないとは言い切れないけど、立ち入り禁止区域内にesの悪事に関する証拠を掴めそうな場所があるから、どうしても行ってみたい』
『…』
『本当はノアかルーカスのどちらかを家に残していきたいんだけど、万が一向こうで敵と遭遇した場合、一人でも多い方がリスクを減らせるから、悪いけど…』
『それはもちろん構わない。私では戦うのは無理だが、この家の敷地の外にさえ出なければ絶対に攻撃は受けない。アレンは大丈夫。それは保証するよ』
『あぁ。それに、いざとなれば母さんが強いだろ』
『…それはそうだが、あまり言うと怒られるぞ』
父親は防御系のPSIしか持っていないが、母親は攻撃系のPSIを二つ持つ、なかなかの強さを誇るサイキックだ。
日頃はあまりその強さに触れられるのを好まないタイプだが、もちろん、いざとなれば家族のため、存分にその力を発揮してくれるだろう。
ある程度のレベルの攻撃系サイキックと、万能防御系サイキックが守る家だ。
万が一の際にも、自分たちが戻ってくるまでの間くらいは、持ち堪えるだろうと思う。
『アレンにはあとで俺から話しておくよ』
『あぁ、分かった』




