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Transmission  作者: 琉風
第三部「伝達」

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#29 狂気の価値観

『父さんが早期に警察を辞めたのって、今度の事件が関係しているの?』


アレンは三人の邪魔をしないよう、一人父親とリビングで過ごしていた。

母親は仕事を持っているため日中は家にいない。

そのため、今では父親が家事の大半を担っているようだった。

少し離れた場所に住む祖父の家に行くこともあるようだが、最近では広い庭で育てている野菜や花の世話をするのが楽しいらしく、しっかり隠居生活を満喫している。


『…いや、まさかこんなことになっているとは知らなかったよ』

『そうなんだ』

『ただ、不穏な空気は感じていた。ブラックウッドなんかはその筆頭だったが、証拠がない上、自分一人の力でどうにかできるものでもないからね』

『…誰かに相談はしなかったの?』

『あぁ。話すことでその人物が危険に晒される可能性もあったからね。ただ、正義と信じて疑わなかった自分の仕事に自信が持てなくなって、辞めたんだよ』

『…兄さんが警察の仕事を選んだ時に反対しなかったのはなぜ?』

『その時はまだ知らなかった。知っていたら、どうだったんだろうな。でも、グレンの人生を私の一存で決めるわけにはいかないから、結局は同じだったかもしれない』

『…』


確かに、正義感が強く、そして、意思も強い兄のことだ。

仮にその時点で父親が何かを知っていて、警察へ入ることを反対したとしても、それならば自分がその問題に立ち向かおうと、熱意も増していた可能性が高い。

兄は、そういう人間だ。


『明確な危険を感じていたら、もちろんグレンにも辞めてほしいと思ったかもしれない』

『…』

『だが、あくまでも私の勝手な憶測であり、何一つ証拠がない中で、グレンの未来を潰す気にはなれなかった』

『…』

『だが、こうなった以上、やはり辞めさせておくべきだったのかも知れないな』

『…言ったところで、兄さんは聞かないよ。きっと』

『そうだな…確かに、そうだ』


そう言って父親が諦めたように笑う。

マーカス・ブラッド――若くして本庁内で管理官に就いたエリートだったが、三年ほど前に退職。

部署は違うが、息子であるグレンとは数年、同じ警察官として働いたことになる。


『しかし、お前たちの話は、にわかには信じ難いほど、あまりにも大きすぎる話だよ。「ロキ」が実在するというだけでもあり得ないような話だが、esの裏の顔についても、私はそこまでのおぞましい実態を想像していたわけではないからね』

『うん…でも、こうなった以上、兄さんたちの性格からして見ないふりは絶対にできないと思う』

『…警察の人間として、それが正しい行動とは思うが、父親として見るなら、息子たちが危険な目に遭うのを黙って見ているのはあまりにも不甲斐ない気がするな』

『…こうして守ってくれているんだから、黙って見てるわけじゃないでしょ?』

『…戦うには足手まといになるが、防御ならいくらでも協力するよ』


兄と同じく正義感に溢れ、警察官であることに強い誇りを持っていた父がなぜ早々に退職の道を選んだのか、兄も自分もよく理解できずにいたが、こういうことだったのだなと、アレンは父親の胸中を思って心を痛めた。








一方、esの地下実験施設では――


『一度に全員を回収できるなんて思ってはいなかったけれど…』

『…』

『まさか、この場まで連れてきたにも関わらず全員に逃げられて、挙句、せっかく成功の兆しを見せた貴重な「道具」まで消されただなんて、さすがに看過できないわね』

『申し訳ございません!次は決して…』

『あなたに次はないわ』

『え?あ…ッ…』


ヴェイルの合図で、横にいたサイキックが、失態を犯したサイキックの姿を一瞬で消し去る。それを見ていた他のサイキックたちが青い顔をして息をのんだ。


『お遊びじゃないのよ?相手が強いサイキックだということは百も承知。でも、こちらにだってずば抜けたPSIの持ち主はたくさんいるわ。そうでしょう?』

『お、仰る通りで…』

『一対一では勝てなくても、大人数でかかれば生け捕りは不可能ではないわ』

『…』

『彼らは絶対に生きた状態で手に入れるの。最高のモルモットたちなのよ』

『…』

『ロキはもちろん、グレンやノア、ルーカスも、サイキックとして最高に価値の高い人間だわ』

『…』

『そして、グレンの弟のアレン。彼は、ノーマルとしての最高峰にいる』

『…』

『調べたところ、彼らの家系は皆ハイレベルなサイキックばかり。その中で唯一のノーマルだなんて、なんて血筋の整ったノーマルなの?』

『…』

『きっと、PSIの移植に適応すると思うわ。彼は最高の道具になる』

『…』

『ロキ、グレン、ノア、ルーカスは「兵器」として、アレンは「道具」として完成させたい』

『…』

『もしあの容姿を保ったまま「道具」にできれば、販促用のサンプルモデルとして披露することもできる。そうすれば、注文が殺到するかもしれないわね』

『…』

『そのためにも、一日も早く彼らを回収してきなさい。何度も失態を犯すことは許されないわ』

『は…はい!もちろんです…』


研究員の中には、もはやヴェイルの価値観やesの方針について行けなくなっている者もいたが、誰も、自分の命惜しさに、この状況から抜け出すことはできずにいた。


『アレンに関しては、手足くらいなら折っても構わない。ただ、出来るだけ容姿を傷つけずに回収すること』

『…』

『ロキ、グレン、ノア、ルーカスに関しては、あの容姿を崩すのはもったいないけれど、サイキックとしての中身さえ無事なら、どんな形での回収となっても構わないわ』

『…』

『最低限、生きていれば問題はない。ハードルは低いはずよ?絶対に回収なさい!』

『…はッ』


今回の一件で、esとしては優秀なサイキックを大勢失っている。

その事実を見ても、標的である彼らがどれだけ強いサイキックなのかが分かる。だからと言って、彼らを諦めるという選択肢のないヴェイルの指示に、あと幾つの優秀なサイキックたちの命が削られるのだろうと、誰一人、口にできない不安と不満を

飲み込みながら、準備に向かうしかなかった。


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