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Transmission  作者: 琉風
第三部「伝達」

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#25 露わになる本性

『なんだ、今の』

『分からない。とりあえず、やるしかないでしょ』


ノアが言いながら、鋭い影の軌道を走らせる。

その軌道は先ほどのようにサイキックの体を捉えて貫くはずだった。

だが…


『…!?』


どういうことだ?

影がサイキックを避けるように明後日の方向へと向かっていく。


『なんだよ、これ』


慌てるノアの隣、グレンがテレポートで姿を消す。

次の瞬間、esのサイキックのすぐ目の前へと着地して攻撃…

するはずだったが、本来立つはずだった地点から、わずかにズレる。


『!…』


ノアのシャドウキネシスと言い、自分のテレポートと言い、

いったいどうしたんだ?

…座標が、合わない。先を…ズラされている?


『…座標干渉型…か』

『お前たちの攻撃は、私には通用しない』


どれだけ攻撃を仕掛けても、座標に干渉されては、威力は半減どころの話ではない。

初めて見るPSIだが…他の奴らも皆同じPSIを持つ者なのか?

だとしたら、かなりマズい。


『…マジで厄介だな』

『このまま逃げちゃう?』


ノアと二人、どうしたものかと考えていたその時――


視界が、歪む。

足元が消える感覚。


『ッ…!』







 ――次の瞬間、グレンたちは硬い床に叩きつけられていた。

 無機質な白。どこまでも無機質な空間。


『ここは…』

『…最悪だね』


 ノアが小さく吐き捨てる。

 グレンが周囲を見渡す。

 ――壁、天井、床。どれも継ぎ目のない構造。

 外界と切り離された、完全な閉鎖空間。


『es…か』

『正解だ』


不意に聞こえた声に二人が振り向くと、前方に先ほどのサイキックが、何事もなかったかのように立っている。


『歓迎しよう』

『迷惑な話だな』


グレンが立ち上がる。

だが――

違和感。


『…』


テレポートの感覚が、鈍い。

座標が掴めない。


『まだ効いてるね』

『…あぁ』


ノアの影も、わずかにブレている。


『この空間は特別でね』


サイキックが笑う。


『外とは違う』

『…だろうな』


グレンが低く返す。


『だから、ここではお前たちの力は「完全」ではない』

『…面倒な仕様だね』


ノアが肩をすくめた。


『その状態で、どこまで戦えるか』


サイキックが一歩踏み出す。


『試してみよう』


同時に、周囲の空間が揺れる。

そこに現れた新たなサイキックたち。

先ほどの奴らか…?

――数は、十。


『来るよ』

『分かってる』


グレンの瞳が赤く光る。

踏み込んだ正面に圧を叩き込む。

二人、吹き飛んだが…


『やっぱり、精度が落ちてる』


決定打にならない。

次はどう攻撃するべきか…悩むグレンの横――

ノアの影が走る。

鋭く伸びた影が相手を拘束…のはずだったが、わずかにズレた。


『チッ』


攻撃が、微妙に外れる。その「わずか」が致命的だった。

すかさず、相手からの反撃。

凄まじい衝撃をグレンが逸らす…だが、完全ではない。

芯を捉えられない。次は、まともに食らってしまうかもしれない。


『…やりにくいな』

『それが狙いでしょ』


ノアが短く答える。

囲まれる。距離が詰まる。

このままでは――


『お前たちには価値がある』


サイキックが言う。


『心配しなくても殺しはしない。ヴェイル統括研究監からの厳しいお達しなのでな』

『…まさか、実験台にでもするつもりか』

『理解が早いな』


なぜ、あれほどまでに自分たちのPSIの数値を測りたがっていたのか、esの本性が露呈した今なら分かる。

自分たちやルーカスのように、強大なPSIを持つサイキックが欲しかったんだ。

…モルモットとして。


『そういうわけだ。この国の科学に偉大なる貢献ができるということだぞ?感謝しろ』

『何を言って…』


その瞬間――

空気が、変わった。


『ッ!?』


全員が同時に反応する。

圧倒的な、圧。異質な気配。

――次の瞬間、空間が裂け、何かが割り込んできた。


『…』


視認するより早く――衝撃が爆発する。

至近距離にいたサイキックが、一瞬で消える。

…音は、遅れて来た。


『…なんだ?今のは…』


誰かが呟く。

その中心に…黒い、影。


『…ロキ』


グレンが低く呟く。

シヴァはグレンを一瞥しただけで、何も答えない。

ただ、一歩前へ出る。

その動きに合わせて、空気が軋んだ。


『…なんだ、お前は…』


サイキックがわずかに後退る。

ハイレベルなサイキックであればあるほど、数値など分からなくても、シヴァの持つPSIの強大さは本能で感じ取れる。むしろ、このサイキックが、そこそこまともな能力の持ち主という証拠になるだろう。


『…』


だが、シヴァは興味を示さない。


『…無駄だ』


ただ一言。


『ここで戦っても、終わらない』

『…どういう意味だ』


グレンが問う。


『ここは閉じた空間だ』


シヴァが淡々と告げる。


『いても消耗するだけだ』

『…』

『戦う場所を選べ』


その言葉で、グレンは理解する。

そして…


『…ノア、退くぞ』

『了解』

『なんだ、今はやんねぇのかよ』


ルーカスの声。

気付けば、シヴァの後ろに立っている。

その姿を見たグレンが、すぐさまルーカスに問いかけた。


『アレンは無事か?』

『あぁ、大丈夫』

『どこにいる!?』

『アレンの店だよ。ロキがシールドを張ってくれているから安全だ』

『…』


グレンは驚いた表情でシヴァを見つめた。

どうしてまたアレンと接触している?

――いや、今は他に考えるべきことがある。


『…ロキ、だと?』


esのサイキックたちがどよめく。

グレンたちが「なんだ?」と辺りを見渡していると、ブラックウッドが「ほう」と感心したように声を上げた。


『まさか、あのロキか?』

『…』

『本当に実在しているとは、驚きだよ』

『…』

『君たち、確か彼が必要だったのではなかったか?』


ブラックウッドの言葉にesのサイキックたちが「信じられない」と口々に漏らすも、そのうちの一人が「ヴェイル統括研究監にいい知らせができる」と興奮気味に声をあげた。


『…やっぱりあの人、曲者だったね』


ノアが鬱陶しそうにつぶやく。

ロキもesに狙われていたのか――

自分たちならともかく、実在するか分からない存在だったロキのことまで実験に巻き込むつもりだったとは――


『行くぞ』


シヴァがそうつぶやいた次の瞬間――

視界が反転する。空間が引き剥がされる。

そして――四人の姿が消えた。


『まさか!この空間から逃げられるサイキックなど…』

『では、そもそも入ってくることもできないはずだろう?』

『それは…』

『あれが本当に「ロキ」なら、これくらいのことは造作も無いはずだ』


一人のサイキックが、感嘆のため息をもらす。


『…素晴らしいじゃないか。いるはずのない存在が、実際にいた』


その表情は、狂気の笑みに満ちている。


『「アレ」を実験材料に使えたらどれほどの成果を上げられるのか。考えただけで震えが止まらない』


嬉々としてそうつぶやくサイキックを見て皮肉気に笑ったブラックウッドが、


『無事に捕獲ができるといいがな。では私は、署内での片づけがあるのでこれで失礼するとしよう』


…と伝えると、esのサイキックに転移され、そのまま特治の建物へと何食わぬ顔で戻って行く。


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