#24 見えない亀裂
『キリが無いな』
『なんでここで暴れちゃうんだよ』
『いや、ここだから暴れるんだろ?』
警察本庁や特治の建物が並ぶ警察組織の敷地はとても広大だ。
屋内施設だけではなく、戦闘・制圧エリアである隔離区画や、模擬戦闘用に使う訓練場など、屋外にもかなりの広さの施設が設けられている。
グレンとノアの二人は、ブラックウッドと、その後ろについていたesのサイキックたちと共に、特治の建物を出て、そのまま敷地内を歩いていた。
『監視カメラがついているはずなのに、誰も異変に気がつかないのかな』
『カメラは別にここだけじゃないからな。未だに気づかないなんてあり得ないだろ。…いよいよ警察全体が怪しいかもな』
『考えたくない展開だね』
隔離区画は戦闘を前提としたエリアだ。
警察の敷地外へ出る前に仕掛けるなら、ここしかない。
グレンはそう判断し、ノアに合図を送った。
――無機質な広場。周囲を囲むのは、強化素材で作られた壁と、いくつもの監視装置。…だが、今はそのカメラが機能しているとは思えない。
それでも――人や建物を巻き込まずに済むこの場所に出られただけ、充分だった。
『なるほど。自分から檻に入るとは賢明だ』
『外で暴れるよりマシだろ』
ブラックウッドの言葉にグレンが苛立たし気に答える。
この言いぶりからして、やはり、あちこちに設定されている監視カメラは、何の役にも立っていないということか。
『…いったい何を考えているんだ』
異捜のトップだけでなく、特治のトップまでもがesとつながっていた。――考えてみればこの二人は同期だ。最初から二人グルでesと癒着していたというのか…
『胸くそ悪い…正義はどこに行ったんだ!』
『もちろん、私の中にも正義はある。ただ、君の抱える 「それ」とは少し形が異なるだけだ』
不敵に笑うブラックウッドが何かを合図したように見えた。
その瞬間、esのサイキックが突然背後から現れ、グレンに攻撃を仕掛けようとする。
だが…
『遅いな』
振り返ることも無く、グレンの手がわずかに動いた。
その瞬間、サイキックの身体が空中で弾かれると同時に、地面に叩きつけられる。
『相変わらず容赦ないね』
『人のこと言えるのかよ』
呆れたグレンと小さく笑ったノアのすぐ目の前、新たに二人のサイキックが姿を現し挟撃を仕掛けてきた。
片方が一直線に距離を詰め、もう一人が後方から電撃を放つ。
『ノア、右!』
『了解』
ノアの影が地面を滑るように伸びて、サイキックの足元を絡め取る。
『ッ…』
一瞬、動きが止まった。
『…よっと、』
ノアの声と同時に、影が一気に引き上がった。
拘束されたサイキックの身体が宙に浮く。
そこへ――グレンの圧が叩き込まれた。横から一撃。
サイキックは身体ごと吹き飛ばされ、地面に転がる。
『あと一人』
『…なるほど、連携も悪くはないな』
esのサイキックがそうつぶやいて笑った。
次の瞬間、空気が変わる。
――重い。見えない圧が、じわじわと広がる。
『ノア、気を付けろよ?』
『もちろん』
グレンの目が赤く、そして、ノアの目がオレンジ色に染まる。
真正面から圧しかかって来たエネルギーをほんのわずかに軌道からズラし、致命を外して上手く逸らす。
『ノア!』
『分かってるって!』
影が跳ねる。地面から立ち上がり、刃のように鋭く変形した。
慌てたサイキックだったが、一直線。回避は間に合わない。
…見事に、体を貫かれた。
『…ッ』
男の身体が崩れ落ちて、静寂が戻る。
グレンが軽く舌打ちした。
『レベルは大したことないが…いったいどこから現れている?』
『この場にはいなさそうなのにね。…まだ来るんじゃない?』
二人にルーカスのような索敵の能力は無い。
そのため、今この場に実際何人の敵が潜んでいるのか、正確には計ることはできない。
だが、第六感を働かせても微塵も気配がしないのに、気づけば、もともとこの場にいたサイキックたち以外の人間が姿を現すことに、二人は不穏な空気を感じていた。
次の瞬間、空間が歪む。
『マジか…』
『やっぱり、キリが無いかもね』
新たに数名――
どこからともなく、サイキックたちが現れる。
…いったいどういうことだ?
確実に「外」から来ているように思うが、これだけスムーズに移動ができるとなると、警察側からの手引きがあるのではという疑惑も生まれる。
しかも、今度は確実にレベルの上がったサイキックたちが…十名。
『うーん…さすがにちょっと、面倒だな』
『半分ずつ、いく?』
ブラックウッドについているサイキックたちはほんの数名ほど。
それなのに、いざ戦闘が始まったら次から次へと出て来る。
何も動きのない、警察各所…ここは、ホーム中のホームではないのか?
――グレンもノアも、内心では相当に苛立っていた。
『大人しくesまでついて来てもらいたいものだな』
『悪いがそれは遠慮願いたいね』
『弟とお仲間くんが先に着いて待っていたとしても、か?』
『…なんだと?』
相手の言葉にグレンとノアが息をのむ。
アレンもルーカスも、自分を呼ぶ気配はなかった。
――それなのに、捕まっただと?そんなことはあり得ない。
…いや、仮に、呼んでいたのに自分が気づけなかっただけだとしたら?
『…』
『グレン、ウソかもしれない。落ち着いて』
『…分かってる』
分かってはいるが、アレンが捕まっているかも…
そう考えるだけで、グレンに動揺が走る。
――二人は大丈夫なのだろうか…
『…グレン、僕のことはいいからテレポーテーションでアレンの所へ行って』
『何を言ってる』
『飛んだ先がesでなければ、とりあえず今のアイツの言葉はウソだって分かる』
『…』
『仮にesにいるなら、危険だろうが何だろうが助けに行かないと』
『…いや、お前を置いていくわけにはいかない』
『グレン』
ノアの言葉にグレンが一瞬辺りを見渡した。
…このレベルのサイキックたちに、この人数で囲まれている。
いくらノアでも、一人になればどうなるか分からない。
アレンやルーカスのことは心配だが、だからと言って、今この場を離れる気にはやはりならなかった。
『それなら、ここを二人でさっさと片付けて、二人で飛ぶ』
『…弟だろ?』
『俺にとってはノアも同じ弟だ』
『…』
『それに、アレンにはルーカスがついてる。アイツは強いよ』
『…アホだけどね』
いくらここが隔離区域で、各施設の建物からは距離が取られている場所だとしても、
あまりに警察関係者が無反応すぎる。
至る所に設置されている監視カメラがなんの意味も成していない状況では、応援はまず期待できない。
…それどころか、身内の中にいったいどれほどの敵が隠れているのかも分からない状態だ。
…監視カメラが作動していないのか。
そもそも、自分たちを丸ごと覆う強力なシールドを張れる者でもいるのか…
『遊びはそろそろ終わりにしようか』
不気味に笑ってそう二人に語り掛けたサイキックが、両手をかざす。
すると、空間に一瞬、歪みのようなものが生じた。




