#23 応えた理由
『…あ…』
『…マジか…』
『…』
怯え切っているアレンと、苦しそうに荒い呼吸を繰り返すルーカスが見上げる先――
ロキが静かに佇んでいる。
『…ありがとう』
『…』
『助けてくれるなんて、俺…』
『…そいつは、放っておけば死ぬが、どうする』
『え?』
ロキがルーカスを見つめながら、そうつぶやいた。
アレンは慌てて、「お願いです!ルーカスを助けて!」と必死に叫んだ。
『…まさかお前に借りを作るとはな…』
『まだ助けるとは言っていない』
『マジか…俺、まだ死にたくねぇんだけど…』
言いながらも、力が入らず完全に倒れこんでしまったルーカスを見て、アレンが涙目になって震えた。
『お願いです!ルーカスを助けてください!』
『…お前、こんなヤツにそんなに頭下げんなって…』
『ルーカスは黙ってて!このままじゃ死んじゃうんだよッ!?』
言いながら、自分の言葉にショックを受けたらしいアレンが、涙を我慢できずにこぼしながら、シヴァに何度も助けを乞う。
『お願いです!お願い!…ルーカスを助けてください!』
『…』
正直、ルーカスを助けても助けなくても、シヴァには関係のないことで、どうでもいい話だった。
アレンがなぜここまでルーカスの命を乞うのか、その関係性も感情も、シヴァには全く理解ができない。
ただ、このままルーカスを見捨てれば、アレンは深く悲しむのだろう。
命を救わなかった自分に対して、憎しみの感情でも向けるのだろうか。
『…』
それでもいい。
誰にどう思われても、自分の人生には何の関係もない。
…その、はずなのだが――
『…』
シヴァは不意に、苦しそうにうずくまっているルーカスの元へと進むと、その場に膝をつき、ルーカスの背中に手を当てる。
『…調子に乗るからこういう目に遭う』
『うるせぇな…神経系の毒を持つサイキックなんて…初めてだったんだよ』
シヴァの手のひらがパァッと白く光り、その光がルーカスの体全体を包んでいく。
無表情に淡々としているシヴァを見て、アレンは「本当に治るのか」と一瞬不安に感じたものの、ルーカスの顔色がみるみる元に戻っていき、抉れていた左腕の傷も消えて流血が治まっていくのを見て、安堵の表情を浮かべた。
『ルーカス!良かった…本当に良かった』
『大袈裟だなぁ、これくらいなんてことないって』
『何言ってるんだよッ!?ロキが来てくれなかったら今頃どうなっていたか…!』
『いや、まぁ…そうなんだけど…』
言いながらルーカスはチラと、隣に立つサイキックを見上げる。
…この男がまるで正義の味方のように現れ自分を助けてくれた…いったい、どういう風の吹き回しだ?
『お前、今までどこにいたんだ?』
『…言う必要があるのか』
『いや別に…』
『…』
『その…ありがとな。正直ちょっとヤバかったから、助かったよ』
『…』
素直にお礼を伝えてきたルーカスを横目、シヴァはアレンの様子が気になっていた。
…やはり、自分が感じていた感覚は、あの店の空間にあるわけではない。
アレン自身が持っているものなのだと、今この瞬間にシヴァは確信していた。
『…お前は、気づかないのか』
『へ?何を?』
ルーカスに問いかけてみても、ルーカスにはシヴァの質問の意図が伝わっていない。
『…ロキ…さん、本当にありがとうございました』
『ロキで構わない』
『あ、はい。あの、ありがとう』
『…お礼を言っている場合ではないと思うが?』
『え?』
『おい、それどういう意味だよ』
『…どうやら、「向こう」も苦戦しているようだ』
『…』
向こう、とは。
ルーカスとアレンは同時に、グレンたちの身を案じた。
『おい、グレンたちは今、どこで何をしている!?』
『…警察ではないようだが…esの連中に囲まれているようだな』
『マジかよッ!捕まっちまったってことか?』
『それは分からない。が、esもようやく本性を現したようだ』
『…兄さん、ノア…』
真っ青になるアレンを見たシヴァは一瞬目を逸らしたが、直ぐにでもルーカスに声を掛けた。
『お前が望むなら、二人がいる場所まで飛ぶこともできる』
『連れていけッ!!今すぐにッ!!』
『…また死にそうな目に遭うかもしれないが、いいのか』
『死なねぇしッ!それに、助けに行かないという選択肢はないッ!』
『…もの好きな奴だ』
小さくため息をついたシヴァは、アレンを見つめた。
『…悪いが、お前は連れていけない』
『そんなッ…』
『アレン、当たり前だ。来るのは危険すぎる』
『ルーカス、でも俺…』
『あの店に強力なシールドを重ねておく。何があっても店から出るな』
『え?』
『!』
アレンが言葉を返すより先に、シヴァはアレンを花屋の店内へと移動させた。
『…おい、大丈夫なんだろうな?』
『自分の店にいる。店から出なければ安全だ』
『…』
『気は進まないが、仕方がない』
シヴァが、今度は自分とルーカスの二人を目的の場までテレポートで移動させる。
グレンとノアが追い詰められている、その場所まで――




