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Transmission  作者: 琉風
第三部「伝達」

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#22 届かぬはずの声

『クソッ…!』


鈍い音とともに、ルーカスの身体が大きく揺れた。

腕をかすめた攻撃が、肉を裂き、熱を残す。

それでもどうにか、アレンが巻き添えを食わないように、一身に攻撃を受け止める。

…数秒遅れて、痛みが追いついてきた。


『ルーカス!ルーカスッ!!』

『…大丈夫だから、隠れてろ』


さて、どうする?

自分にはヒーリングのPSIはない。

受けた傷は致命傷ではないが、それなりの出血は、自分がPSIを扱うのに少々邪魔だ。


『…ちょっと痛ぇしな…』


苛立ちながらも、ルーカスは最後まで生き残っているesのサイキックと、そのサイキックが管理しているあの、実験のなれの果てのような異質な生き物を見ていた。

このサイキックを始末したとして、「あれ」はどうすれば良いのだろう。

「ワープをするための道具」だと言っていた。

あんなものが一人で勝手に街中をウロウロし出したら、住人たちが被害に遭うかもしれない。

T-01地区でこんな騒ぎが起きればとんでもないことになる。


だが――


『…』


今は余計なことは考えるな。

自分にとって、アレンが無事ならそれでいい。

後のことは後で考えるべきだ。


『…グレンに任せりゃいいだろ』


面倒なことは嫌いだ。

とりあえず、今自分は目の前のコイツを消せばいい。


『…?』


PSIを仕掛けるつもりでesのサイキックへと向きなおった瞬間――

ぐらりと視界が歪み、ルーカスが膝をつく。


『ルーカス!』

『…あれ?』


気づけば、傷を受けた左腕が痺れている。

その指先は、針で刺されるような痛みが出始めている。


『…マズいな』

『効いてきたようだな』


先ほど受けた攻撃が神経侵食型のPSIだったことに気づいたのと同時、ルーカスはひと際重たく大きな電撃をサイキックに向けて放つ。

サイキックがそれを防ぐ隙にアレンのもとへと駆け寄り、手短に伝えた。


『アレン、ちょっとマズい。次の攻撃のタイミングで一人で逃げろ』

『何言ってるの?できるわけない!』

『良いから。自分のことは自分で何とか出来る。でも、この傷はちょっと厄介だから、お前を守れるかどうかが怪しくなっちまった』

『…それなら、一緒に逃げよう』

『そうしたいけどな、まぁ、先に行ってくれよ』

『ルーカス!』

『チャンスは一度だけだ。俺が攻撃を仕掛けるタイミングで全速力で走れ。そして、少しでも距離を取ったらグレンを呼ぶんだ』

『…』

『いいか?アホほど念じろ。グレンが来ないとちょっとヤバい』

『…』

『良いな?絶対に…ッ!』


話の途中で急に、ルーカスが苦し気に頭を抱える。

右が金色、左が緑色のルーカスのオッド・アイが、左右逆に変色する。


『ルーカス!ルーカス大丈夫ッ!?』

『大丈夫ではないだろうな。私のPSIが脳に侵食を始めているのだろう』

『…クソッ!陰湿なPSIを使いやがって!』

『そう減らず口を叩くのもあともう僅かだろう』

『…』


真っ青な顔でesのサイキックを睨んだルーカスが、震える手をかざして攻撃の体制を取る。

――この一撃で倒せなければ、自分だけでなくアレンまで巻き添えにしてしまう。

何としても、仕留めなければ…


『…ッ…』

『無理に足掻くな。殺しはしない。二人とも連れ帰らなければならないからな』

『…アレン、逃げろ』

『嫌だ!』

『…!!』


ルーカスの目が強く光り、かざした手から衝撃波が繰り出される。

だが、感覚にズレが生じているのか、その攻撃はesのサイキックの体を逸れてしまった。


『…ッ…』

『ルーカス!』


痺れの悪化と共に、痛みも激痛へと変化する。

このままではマズい。

自分はともかく、アレンだけは逃がさなければ。

…グレンを呼ぶか。ルーカスは一瞬そう考えて、やめた。

グレンが今どんな状況にいるか分からない。

こんなにも早々に自分たちのもとへesの人間が来たということは、同時にグレンたちの所にも来ている可能性がある。

誰かに頼るのではなく、自分がアレンを守る必要があるとルーカスは考えた。





『ルーカス!ルーカス!…どうしよう、どうしよう…』


痛みが全身に回り始め、苦しそうに崩れ込むルーカスの肩を抱き、アレンは恐怖の中で必死に考えていた。

当たり前だが、自分ではルーカスを守れない。

では、兄に頼るか?ノアを呼ぶか?

目の前にいる敵を倒すだけではない。

ルーカスを救うことができないとダメだ。

ノアは人に対するヒーリングのPSIは持っていない。

兄にしても、自分に対して発動するのがメインであって、人を治す力はそれほど強いわけではないと聞かされている。

…つまり、他人に対しては応急処置的な意味合いや、軽傷に対して効果があるという程度のもので、今目の前で苦しんでいるルーカスのこの状況を治せるだけの力があるのかどうか、不安が募る。


『…』


かと言って、他に誰も頼る相手など…


『…ッ…』


もし…もし、この声が届くなら――

ヒーリングのPSIをどれほど持っているかは分からない。

ただ、自分たちを助けてくれそうな存在、そして、気遣う心配も不要なくらいに圧倒的な強さを持つ相手…


『…ロキ…』


ロキであれば、ルーカスを救ってくれるのではないか。

分からないが、自分が思い浮かべることのできるサイキックなど、兄かノア、そして、ロキくらいしか知らない。


『お願いッ!!』


アレンは心の中で強く、これ以上ないくらいに強くロキの名を繰り返し呼んだ。

どうか助けてほしい。

自分のことはどうなっても構わない。

ルーカスのことを助けて――

そう願って、何度もロキの名を呼び続ける。




『ッ!!!』


その瞬間、空間が裂けたように弾かれる。

アレンの目の前に現れた人影から放たれる、周囲を巻き込むような重苦しい圧と、轟音を響かせた凄まじい衝撃――

至近距離で攻撃を受けたesのサイキックの体が一瞬で消える。

同様に、あの、異質な生き物の姿も、跡形もなく消え失せていた。


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