#09 下へ続く道
ルーカスがやれやれと肩を回している横で、ノアがうつむき加減に小さく息を吐いた。
『…この周波数、頭の中の配線を雑にかき回されてるみたいだ。最悪だ』
グレンがちらりとノアを見る。
『ルーカスアレルギーとでも言っておくか?』
『笑えない』
『文句は言いっこなしだぜ?生まれ持った仕様なんだからな』
思っていたよりもアッサリとオッド・アイの青年――ルーカスはグレン達に協力の意を示した。血気盛んな戦闘屋に見えたが、冷静に話も出来るなら有難い。
グレンは「今出せる分だけで良いので情報を共有しよう」と早速ルーカスに持ち掛ける。
『…とは言っても、情報らしい情報とは言えないんだけどな。今起きている「これ」は、単なる失踪ではなく、大掛かりな組織による連れ去り事件の可能性がある』
『大掛かりな組織って?』
『…特定は出来ていない』
『まさか、情報ってそれだけとは言わねぇよな?』
『痕跡が一切無いんだよ』
『え?』
『失踪した人間の痕跡が不自然なほどに無い。誰かが意図的に痕跡を消している』
『アンタらが辿れないだけじゃねぇの?』
『誰にものを言っている』
ケラケラ笑うルーカスをひと睨みしたグレンが、「お前、使えるPSIは幾つだ?」と聞いた。その問いにルーカスが「三つだけど?」と得意気に答える。
『三つか…』
なかなか見ないエリートだ。
三つなら、自分たちの部署に入る資格にもなるPSIの数である。
グレンは再度ルーカスの内側に意識を集中させる。
その時、グレンの漆黒の瞳が深紅に染まった――
その姿を見てルーカスが慌てる。
『お前ッ!今PSIを使っただろッ!俺に何をしたッ!!』
『…凄いな。フォノンキネシス(音操)、エレクトロキネシス(電操)、クレヤボヤンス(透視)…俺の周りにはいないPSIの持ち主だ』
『…へぇ、単なる筋肉バカだと思ったけど、テレパス(読心)まで使えるのか。…にしても、勝手に人ん中探るたぁ、不躾過ぎねぇか?』
『不躾はお互い様だ。あと、ついでに言うと俺はプレコグニション(予知)とヒーリングも使える。まぁ、ヒーリングは身体専門だからお前のその口の悪さは治せないけどな』
『五つも使えるのか。そんな奴初めて見たな』
ルーカスは素直に驚き、食い入るようにグレンの顔を見つめた。
どうやら喜怒哀楽が激しいだけで、根は素直で純粋なタイプなのかも知れない。
『で?そっちのお前は?』
ルーカスがノアを見る。
やはり、相性の悪さを感じているのはお互い様のようだ。
ルーカスとノア両方の複雑そうな表情を見て、グレンが内心でため息を吐く。
『シャドウキネシス(影操)とロジックマスター(論理支配)、そして、ヒーリング』
『お前もヒーラーなの?』
『僕のヒーリングは生体治癒ではない。機械と情報を対象とした再構築能力だ』
『再構築?』
『身体や心を治す力ではなく、失われた事実や情報を本来あるべき形へと戻す、「再構築」を目的としたメモリー・ヒーリングってこと』
『良く分かんねぇけど、まぁ、三つも使えるのは優秀だな』
『…』
お前に言われるまでも無い――
ノアの表情を代弁したらこんな感じだろうか。
能天気に笑っているルーカスを見て心底嫌そうな顔をしたノアが、「ま、誰一人PSIが被っていないのは良いことだよ」とうんざりとした顔で呟いた。
『いいか?あまり自分たちで自分のPSIをひけらかす様な真似はしたくないが、そういうことだ。足取りを追えないわけじゃない。だからこそ、あまりの不自然さに困惑している状況なんだよ』
『俺なら追えるかもな』
『そう思ったからあれもこれも見逃して協力を持ちかけたんだ』
『…』
索敵に加え透視まで使えるなら、「痕跡を追う」という点に関してのみ言えば自分達よりもよほど精度が上だろう。
粗暴さは少々厄介だが、根は単純そうなので上手く操縦出来れば力になるはずだ。
そんなグレンの期待に応えるかのように、ルーカスが笑う。
『この辺りで痕跡が消えているのは確かだ。だが、この場所は面白そうだぜ?』
その言葉にグレンとノアは顔を見合わせ、ノアが感じた違和感が間違いではなかったようだと確信する。
『一見何もない更地だけど、下からどっか別の場所へ出るための長い道筋を感じる』
『下?地下ってことか?ハッキリ見えるのか?』
『いや、何か変な靄がかかっているような感じがするから、誰かの力が意図的に関わってるかも知んねぇけど、薄っすらだけど確かに感じる』
『失踪者の気配が消えた場所で、どこか別の場所へ続く道の痕跡…か』
『調べる価値は充分にありそうだね』
ノアもやっと仕事モードに切り替えルーカスのことを割り切ったのか、彼の言葉に積極的になって来た。
『それなら直ぐにでもこの辺りを捜査…』
グレンが言いかけた時、警察本部から連絡が入る。
とっさにルーカスを通信先に映りこまない位置へと押し遣り、対応に出た。




