第3話(ご褒美回)
確定率22%のご褒美:縁側のスイカと、愛の重度の確認
【第一部:お父さんの感謝と、100%の問いかけ】
「……よし。これで、ブラックボックスは完全に潰せたな」
液晶画面に並ぶ、ガバナンス構築のガントチャートを眺めながら、キヨタカは小さく息を吐いた。
第2章で、ただの恐怖による独裁から「仕組みによる風通しの良いガバナンス」へと進化したキヨタカの部署は、劇的な変貌を遂げていた。
部下たちが『事なかれ(隠蔽)』に走る前に、自発的にアラートを上げ、対話で解決する。
現場の風通しが良くなった結果、業務効率は跳ね上がり、トラブルは未然に消滅するようになった。
時計の針が、17時30分を指す。
長年、事なかれ主義の空気でダラダラと残業を続けていたキヨタカが、人生で初めて、そのセリフを口にした。
「お先に失礼します」
部下たちが驚きと、どこか晴れやかな笑顔で見送る中、キヨタカは堂々の定時退社をキメた。
すべては、あの1分45秒のリミット戦で掴み取った『22%の未来』を、一刻も早く手元に手繰り寄せるためだ。
夕暮れのスーパー。惣菜コーナーを通り抜け、ふと果物売り場で目が留まる。
『見切り品:カットスイカ 398円』
これまでの自分なら、「一人で食べてもな」と通り過ぎていた些細な選択。
だが今のキヨタカは、不思議と温かい気持ちで、それを買い物カゴへ滑り込ませていた。
帰宅し、居間の古いソファにどさりと腰掛け、心地よい疲労感の中で目を閉じる。
その瞬間――視界の裏側で『ポフン』と因果のレバレッジが跳ねた。
ガガッ……ピピピッ……!
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【システムログ:現実行動の因果還元】
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■ 現実行動:定時退社、および家族への『398円のカットスイカ』の購入を検知。
■ 処理結果:
・確定率22.00%のバフが適用。
・因果のレバレッジ(100倍)により、対象アイテムを異世界へ強制マッピングします。
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「――っ!」
目を開けると、そこは現実の狭いリビングではなかった。
美しい紫と青のアジサイが咲き誇り、心地よい夕風が吹き抜ける、異世界の縁側。
そこには、現実で買った398円のカットスイカが、100倍の倍率で反映された『ひんやりと冷えた、直径1メートルを超える巨大魔導スイカ(糖度100倍)』となって、ドカンと鎮座していた。
「しゃりっ、じゅわぁ……!」「おじさん!……ううん、パパ! これ、すっごくあまいにゃ!」「しあわせー!」
縁台の上で、口のまわりを真っ赤な果汁だらけにしながら、嬉しそうにスイカを頬張る三姉妹(ミカ、コユキ、モナ)。
確定率が22%まで爆増したことで、見えない因果のパスが深く深く結びついたのだろう。
さっきまで「おじさん」と呼んでいた娘たちの脳内に、キヨタカが自分たちの本当の父親であるという確かな記憶のピースが、今、カチリと音を立てて繋がったのだ。
そのあまりにも愛らしい姿を、キヨタカは50前の中年犬顔を優しく綻ばせて見つめる。
キヨタカは娘たちの頭を順番に、大きな手で撫でながら、ずっと胸につかえていた言葉を口にした。
「ミカ、コユキ、モナ……ありがとな。さっきは、お前たちの力(言霊や誓霊)を借りちまって。……大切な『確定率』を、俺のために消費させて、本当にごめん」
その言葉に、真っ先に反応したのは長女のミカだった。
三毛猫の耳をペタンと寝かせ、普段のツンツンした態度を完全に窓から投げ捨てて、キヨタカの服の裾をぎゅっと握りしめてくる。
「パパ、謝らないで……っ! 確定率が減るより、パパに会えなくなる方が、ミカたちは何百倍も、何千倍も嫌! パパが危ない時は、いつだって迷わず全部使うんだから!」
「モナもパパ助けるー! 何回でもゴロゴロして、パパをいっぱーい守るのっ!」
末っ子のモナも、スイカの汁まみれの手で全力でキヨタカの太ももに抱きついてくる。
その人間の子供としての愛おしい生々しさと温もりに、キヨタカは胸を熱くしながら、その光景を優しく見守っていた妻のユミに、世界の核心を問いかけた。
【第二部:超絶娘の全力甘え大進撃!……からの、妻ユミの大嫉妬】
「ユミ……この確定率が、もし『100%』になったら。俺たちは本当に、ずっと一緒になれるのか?」
品のある黒猫のしっぽを、キヨタカの足首にそっと絡ませながら、ユミは切なげに、だが絶対の確信を込めて微笑んだ。
「ええ、必ず。……ですが、今の22%では、あなたがこうして私たちの世界に長く留まることはできません。確定率が20%を超えたからこそ、こうして少しだけ長くお話しできていますが……次の目安は、システムの気まぐれ。私したちにも分からないのです」
だからこそ、この限られた「ご褒美の時間」が、狂おしいほど愛おしかった。
「時間が限られている」その事実を知った家族の愛の導火線に、一気に火がついた。
「コユキだけのパパ。……はい、あーん。シャリシャリで、つめたくて、おいしいよ?」
茶トラのコユキが、完全にキヨタカの膝の上に座り込み、小さな手でスイカを差し出して甘えん坊モード全開になる。
「う、羨ましくなんてないんだからね!……でも、左腕は私がもらうわっ!」
長女のミカが顔を真っ赤にしながら、キヨタカの左腕にガシッと抱きつき、二の腕にすりすりと頬を寄せる。
「ふぎゃーー! パパはモナのなのーーー! お姉ちゃんたちずるいーー!」
完全に出遅れた白黒パンダみたいなモナが、野生の雄叫びを上げて大ジャンプ。
キヨタカの正面から胸元へダイブし、短い手足で首にギュッとしがみつく。
そのまま、スイカの果汁がついた口元を、キヨタカのシャツにゴシゴシと擦り付けながら全力で独占アピールを始めた。
右腕にミカ、膝にはコユキ、首元にはスイカまみれのモナ。
幸せの質量に物理的に埋もれ、本気で窒息しかけているキヨタカ。
そこへ、冷たい麦茶のおかわりを持ってきたユミが、笑顔のまま一歩、縁側へ踏み出した。
「ピキィィィ……!!」
アジサイの庭の空間が、物理的に凍りつくような音がした。
「あら、あらあら、あらあらあら……? お父さんを寄ってたかって独り占めですか。
ずいぶんと賑やかで楽しそうですねぇ……?」
笑顔なのに、美しい黒猫の耳がピクピクと怒りで震えている。
ユミの背後から、ドロリとした漆黒の嫉妬魔力が立ち上り、周囲のアジサイが恐怖で微震した。
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【システムログ:妻ユミによる『正論の言霊』を検知】
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■ 精神干渉:キヨタカの脳内に現実以上の危機管理アラートが強制点滅。
■ 処理結果:
・現実世界で全権を掌握した絶対管理者の権限が、我が家の真の独裁者の前に【完全無効化】されます。
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「あなた? さっき魔女裁判の処刑台のロープをぶち切って、自爆覚悟の魔力大暴走であなたをお救いしたのは、この私なのですが……?
私の分の『あーん』と『ゴロゴロ』は、一体どこへ行ってしまったのかしら? ええ?」
(ひ、ヒィッ……! 助けてくれ、最高の幸せだけど、愛が重すぎて死ぬ……!!)
【第三部:嬉しすぎてポフンッ! 最高のモフモフ獣化】
ユミの笑顔のヤンデレ風威圧、三姉妹の全力ホールド、精度と「1秒だって離れたくない!」という家族全員の最大級の愛(魔力)が、確定率22%のシステムと衝突し、臨界点を超えてスパークした。
「ポフンッ!」「ポフンッ!」「ポフンッ!」
縁側に、可愛らしい白煙が一斉に立ち込める。
「え……?」
煙が晴れた時、キヨタカの腕の中にいたのは、耳としっぽを残した少女たちの姿ではなかった。
キヨタカの首に短い手足でがっしりしがみつく、小さくて愛くるしい『黒子猫のモナ』。
左腕に顔を埋めて「ミャー、ミャー」と必死に甘える『黒猫(三毛姿)の子猫のミカ』。
そして膝の上で完全に丸くなり、ヘドロのように溶けながら『ゴロゴロゴロゴロ……』と最大音量で喉を鳴らす『茶トラの子猫のコユキ』。
さらに、驚いたキヨタカの視界が、一気にぐんと高くなった。
自分の不摂生で冴えない人間の手が、分厚くて、信じられないほど温かい、黄金色の毛並みに覆われた「大きな肉球付きの前足」へと変貌していく。
愛する猫たちをすべてその懐の中に隠し、12割の力で包み込んで守れる、圧倒的な包容力を持った『黄金色の犬の聖獣(大型犬パパ)』。
それこそが、キヨタカの異世界における【本来の姿】だった。
遅れて部屋に入ってきたユミが、その光景に目を丸くする。
「まあ……あなたまで……。ふふ、私たちの愛が強すぎて、世界のシステムが一時的に【本当の姿】のバグを起こしてしまったのですね。……仕方のない、愛しい私のワンちゃん(あなた)」
呆れたように、だが愛おしそうに目を細めた上品な黒猫もまた、吸い寄せられるようにキヨタカの大きな胸元へと飛び込んできた。
ふかふかの黄金色の毛並みに顔を埋め、幸せそうに目を閉じて、ゴロゴロと喉を鳴らし始める。
巨大な犬の聖獣となったキヨタカは、胸の中に集まった愛しい家族の、柔らかくて温かい命の鼓動を肉球に感じていた。
(守る。この暖炉のように温かい日常を、俺は絶対に、何があっても守り抜く……!)
【第四部:心残りの現実帰還、そしてパパの完全奮起】
だが、世界の境界がブレる無情な白い光が、アジサイの庭に差し込み始める。
維持時間の終了を告げる、タイムリミットだ。
黄金色の毛並みが、子猫たちの温もりが、光の彼方へと薄れていく。消えゆく意識の向こうから、ミカ、コユキ、モナの必死な声が響いた。
「パパ、またね……っ!」
「絶対、絶対また会おうね……!」
「待ってるからね、パパ大しゅき……!』
最後に、黒猫のユミがキヨタカの犬の鼻先にそっと自分の鼻を寄せ、絶対の信頼を込めて囁いた。
「また会いましょう、私の絶対管理者。――現実の魔窟を、あなたらしく支配してきてくださいね」
「――ああ、またな。すぐ戻る。待ってろ……!」
強烈な心残りと、狂おしいほどの愛おしさを胸に抱きながら、キヨタカは現実の自宅のベッドでガバッと目を開けた。
「はぁ、はぁ……っ」
手のひらには、さっきまで抱きしめていた子猫たちの柔らかい温もりと、ユミの鼻先の感触が、消えないリアルさで残っている。
カーテンの隙間から、現実世界の冷たい朝の光が差し込んでいた。
俺はゆっくりとベッドから立ち上がり、重く軋む不摂生な『人間の体』の痛みに顔を顰めながら、鏡の前に立った。昨夜まで娘たちを包み込んでいたあのふかふかの黄金色の肉球は消え去り、そこにあるのは、冷え切った、垢抜けない冴えない中年のおじさんの手だ。
──だが、その瞳の奥から、締まりのない愛嬌は完全に消え失せていた。
飢えた凶獣のような、冷徹な絶対管理者の眼光へと変化する。
ネクタイを、骨が鳴るほどの強さで一気に締め直した。
愛するあの子たちをあのアジサイの庭(未来)へ連れて行くため、確定率を100%にするためなら、自分が引っ張るあの泥沼の『巨大駅再開発プロジェクト』だろうが何だろうが、俺の手で完璧に支配して大成功させてやる。
現実の社内政治や嫉妬、取引先の嫌がらせなど、今の俺にとってはすべて【羽虫の羽音】に過ぎない。
「覚覚悟しろよ、クソ元請け」
無敵の戦闘マシーンと化したキヨタカは、次なる因果の門――第3章【悪意ある注文書編】の戦場へと、冷徹な足取りで進み出すのだった。
【第 3 話:リザルト(戦果報告書)】
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【 第 3 話:リザルト(戦果報告書)】
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■ 獲得・更新された称号:
・ 『我が家の絶対管理者(仮)』(妻ユミの前に効果を一時停止)
・ 『愛が重すぎて窒息寸前のお父さん』(新規獲得!)
*効果: 家族からのデレ圧力が通常の300%に上昇するが、キヨタカの幸福度がカンストする。
■ 今回使用されたスキル・言霊:
・『実行力:見切り品スイカ(398円)の購入による、巨大魔導スイカの顕現』
・『言霊:妻ユミによる正論の独占宣言(キヨタカの覇気を完全圧殺)』
・『因果共鳴:家族の最大愛(魔力)による、一時的【本当の姿】へのシステムバグ(黄金の犬の聖獣化)』
■ 世界線確定率の変動:
・【暖炉の我が家ルート確定率】: 22.00%(完全維持・幸福度ロック!)
・【美少女エルフ風呂もふもふハーレム率】: 0.3% (妻ユミの嫉妬魔力により大氷結中)
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(第3話・完)




