第11話 結末:ハッピーエンド、これが俺たちの形【裏(異世界)
【表(現実世界):新時代の打ち上げと、魂の完全生還】
「……カンパーーーイ!!!」現実世界の夜。
駅前の少し高めの居酒屋の貸し切りフロアに、地鳴りのような乾杯の音頭が響き渡った。他部署の火災トラブルを完璧に鎮圧し、潜在していた二次災害の牙すら秒速圧殺した「合同チーム」による、伝説の打ち上げパーティーが爆誕したのだ。
「うおおお! 今日は飲むぞ! 誰も倒れなかった、怪我人もゼロだ!!」
「あのバイパス配管の破断を未然に防いだの、マジで奇跡ですよ! 最高の現場だ!!」フロアを埋め尽くす職人たちや親方衆、そしてキヨタカの部下たちの顔には、泥臭いトラブルを「完璧な組織戦」で乗り越えたからこその、凄まじい達成感と誇りが満ち溢れていた。
煤まみれで孤独の泥沼に沈みかけていた有能な担当者も、今夜はすっかり綺麗な服に着替え、ジョッキを片手に生まれて初めて「心の底から笑う楽しさ」を噛み締めていた。
だが、この打ち上げ現場は、そこらの飲み会とは一線を画していた。
フロア正面のホワイトボードには、キヨタカの指示によって『絶対に破ってはいけない飲み会安全ルール』がデカデカと明文化されていたからだ。
【合同チーム打ち上げ絶対規則:セクハラ・パワハラ・説教の完全禁止】
「いいか。仕事の泥沼を組織戦で解決した俺たちだ。飲み会だって、古い体育会系の精神論や不条理なノリで荒らすことは絶対に許さん」
マイクを持ったキヨタカの【絶対管理者】としての眼光がフフンと光る。
「今回のルール違反のジャッジ(判定)は、すべてウチの『若手社員たち』に一任する。役職やベテランの経験値なんてここでは一切通用しない。若手が『アウト』と言ったら一発アウトだ。そして、破った奴にはひどい罰ゲームを執行する。……異論はないな?」
「おうよ! 異議なし!!」ベテランの頑固親方たちもニカッと歯を見せて大笑いし、若手社員たちは「よーし、絶対に見逃しませんよ!」と判定用ブザーを片手に目を輝かせた。
「おい、そこ! 担当者に『もっと自分でガッツ見せろよ』とか説教しそうになったな! パワハラ予備軍でイエローカード!」
「うわっ、すまん! ついつい昔の癖で……っ」
「はいアウトー! 罰ゲーム、激辛わさび寿司一気食いな!」
「ギャーーーッ!!」上司が部下に説教を垂れることも、おじさん職人が若手に無理な飲み方を強いることもない。
誰か一人が我慢して泥を被るような古い悪習は、若手たちの厳格なシステム管理によって秒速で圧殺されていく。
誰もが対等で、誰もがプロとしてお互いをリスペクトし合い、全力で笑って、全力で楽しむ。これほどまでに爽快で、誰も傷つかない、生きた現場の答えがここにあった。
せっかく勝ち取った「……キヨタカさん、本当に、最高の現場ですね」冷たいビールを喉に流し込みながら、隣に座る担当者がポツリと呟いた。
「人に指示するより自分で動いた方が早いと思って、勝手に孤独になってパンクしかけてた自分が、馬鹿みたいです。人に頼って、みんなで役割を分担して、こうして全員で笑って定時に飲む酒が、こんなに美味いなんて知りませんでした」
「だから言ったろ。お前は悪くないし、一人で頑張りすぎる必要もないんだよ」
普段の愛嬌ある犬顔に戻ったキヨタカは、ジョッキをチンと合わせ、少し真面目な顔になって言葉を続けた。
「いいか。一人の自己満足の悲劇の美談より、全員での達成感のがいいだろ? もっと皆を、周りを信頼できるようになれよ?」
「……分かりました。頑張りますっていうか、今回の件で骨身にしみましたが……」
担当者は深く頷き、それからニヤリと少し意地悪な笑みを浮かべて、胸元の判定ブザーに手をかけた。「――それ、完全に『説教』ですよね? 課長、アウトです!!!!」
ピピッーーー!!! と現場事務所に非情な電子音が鳴り響く。
「ぶふっ!? な、なにぃっ!?」
「あ、ずるいぞ! 課長が自分で説教した! 若手判定員、今のアウトですよね!?」
「はい一発アウトです! 課長、罰ゲームの激辛わさび寿司、ライン投入(一気食い)お願いしまーす!」「おい待て! これは管理職としての正当なガバナンスの引継ぎであって、なぁなぁな説教では──」
「問答無用! さあ、男らしくいっちゃってください!」
「ギャーーーッ!! 辛っ! 鼻が、おじさんの鼻ツンが限界突破ルートに突入したーーーッ! 中和剤! 誰かビールの形をした中和剤をくれぇぇぇ!!」
のたうち回るキヨタカの姿に、現場全体から今日一番の、地響きのような大爆笑が巻き起こった。
一人の犠牲者も出さず、古い悪習も、個人に犠牲を強いる腐った体制も、すべてを笑顔のロジックで粉砕した完全勝利の夜。
「現実はな、全員で泥を分けて、全員が生きて定時に帰って、美味い飯を食うのが正解なんだ」涙目でビールを煽るキヨタカの周りで、新時代の合同チームが響かせる大歓声と笑い声は、夜更けまで温かく、そしてどこまでも誇らしげに響き続けるのだった。




