第12話 これが俺たちの形
【裏(異世界):楽園のハグと、しんみり交わす夫婦の乾杯】
光のゲートを突き抜け、キヨタカの意識がアジサイの庭へと舞い戻った瞬間、彼の視界の最奥でシステムログが眩い残光を放った。
『 システムログ:現実世界(表)での2次災害完全封じ込めにより、ルート再固定に成功 』
『 理想の未来確定率:60% ――> 2%(過剰駆動による臨界点) 』
『 ――現在、表のガバナンス因果が逆流。確定率:31%へ劇的回復! 』
『 警告:滞在時間は残り──48時間(約2日間)となります 』
(クソっ、やっぱりあの泥沼をハックした代償はデカかったな
1ヶ月の特大有給(滞在時間)が、たったの数日で終わりを告げちまうとは……楽しみにしていた楽園の日々が、一瞬にして崖っぷちの31%へ。
キヨタカが人間の姿(ポロシャツ姿のおじさん)のまま、愛娘たちに申し訳ない気持ちでガックリと肩を落とした、その時だった。
「おかえりなさいませ、あなた……♡」
上品なブルーのシャツワンピースを揺らし、完璧に『人間の姿(擬人化)』となった妻のユミが、そっと微笑みながら歩み寄ってきた。
人間の姿のまま、キヨタカの太い首元にそっと両腕を回し、その耳元で深く、愛おしそうな声を囁く。
「何を仰いますか。誰一人の自己犠牲にも頼らず、全員を生かして帰す。これこそが、わたくしの世界で一番大好きな、あなたの戦い方ですわ。有給が短くなったくらい、何ですの? また明日から、一緒に確定率を稼げばいいだけのことですわ……♡」
「ユミ……」正妻の底なしの包容力と、限界突破した重すぎる愛が、キヨタカの擦り切れた心をこれでもかと甘やかし、融解させていく。
「パパァァァーーーッ! おかえりーーーっ!!」
そこへ、同じく人間の可憐な美少女の姿になった娘たちが、一斉にキヨタカの元へと飛び込んできた。
おてんば三女のモナが野生の突撃でキヨタカの胸元へとダイブし、頭に残った可愛い猫耳をピコピコと揺らす。
「ちょっとモナ、ずるい! パパ、私もぎゅーってして!」
ツンデレ長女のミカが、しっぽをパタパタさせながらもキヨタカの右腕にしがみつき、「パパ、だいすき。また、すいか、たべようね」
おっとり次女のコユキがキヨタカの膝の上に液体のようにとろけて丸くなる。アジサイの花畑の真ん中で、愛する猫耳家族の極上のぬくもりに、全方位から全自動でデロデロに甘やかされるキヨタカ。
人間の姿だからこそ、娘たちの柔らかいハグの温もりと、「パパ大好き」の純度100%の愛がダイレクトに脳へと注ぎ込まれ、心身をドロドロに融解させていく。
「パパ、おなか、ふかふかぁ……」
「よしよし、みんな。有給は短くなっちゃったけど、ここにいる間は、たっっぷり甘やかしてあげるからな」
娘たちを両腕で丸ごと抱きしめ、頬ずりし合いながら、キヨタカはデレデレのパパ顔になり下がっていた。
──そうして、愛娘たちがパパの温もりに満たされ、安心しきってすやすやとアジサイの敷布の上で眠りに落ちた、静かな夜。暖炉のパチパチという音だけが響く部屋で、キヨタカとユミは、二人きりで小さなテーブルを挟んで向かい合っていた。現実世界から物質搬入しておいた、少し高めのワインをグラスに注ぎ、ユミは潤んだ瞳でキヨタカを見つめる。
「あなた。本当にお疲れ様でしたわ。……乾杯いたしましょう?」
「ありがとう、ユミ。……乾杯」カチン、と静かにグラスを合わせる二人。
ユミはしなやかな指先でグラスを置くと、たまらなくなったようにキヨタカの隣へと滑り込んできた。
夫の胸元にすとんと身を埋め、きつく、離さないと言わんばかりに抱きしめる。
「もう……本当に心配したのですから。でも、誰も見捨てず、全員で生きて帰る……そんなあなたを夫に持てて、わたくしは世界一の幸せ者ですわ」
「俺もお前たちがいるから、現実でどれだけ理不尽な泥沼に落されても、無敵でいられるんだ」キヨタカはユミの細い肩を引き寄せ、その美しい髪を愛おしそうに撫でながら、しんみりと静かな幸福を噛み締めていた。
確定率は再び崖っぷちの31%へ。システム上の過酷なルールは何一つ変わらない。それでも、この深く重い愛がある限り、絶対管理者は何度でも立ち上がる。
「――格好よく一人で死ぬ美談なんていらない。全員で役割を分担して、生きて帰る。……これが、俺たちの形かもな」
最愛の妻を強く抱き締め、時空を超える因果の導線をその背に受けながら、キヨタカの意識は再び、勝利に沸く現実世界へと舞い戻っていった。『 理想の未来確定率:31% 』




