9話 自滅の果て
数ある作品の中から本作をお選びいただき、ありがとうございます。
拙い部分もあるかと思いますが、最後までお楽しみいただければ嬉しいです。
9話 自滅の果て
それは、王都でも有数の規模を誇る夜会だった。
貴族、官僚、騎士団——あらゆる権力者が集う場。
そして。
「——来たわね」
マレーヌは、グラスを握りしめながら呟いた。
視線の先。
会場の扉が開く。
ざわめきが、一瞬で広がった。
現れたのは——
第二王子と、その隣に立つ少女。
「……どうして」
ジルの声が震える。
「本当に……あいつが……」
信じられないものを見る目。
だが、それが現実。
アリスは、堂々と王子の隣に立っていた。
(……許さない)
マレーヌの瞳に、暗い感情が灯る。
(あんなの、認めるわけにはいかない)
——だから。
もう、準備はしてある。
「見ていなさい、アリス」
小さく、笑う。
「貴女はここで終わるのよ」
夜会が進み、空気が温まった頃。
「——失礼いたします」
マレーヌが、一歩前に出た。
注目が、集まる。
「皆様に、お伝えしたいことがございます」
その声は、よく通った。
「本日、この場にいるアリス・フォン・ルヴェールについてです」
ざわり、と空気が揺れる。
(来たか)
私は、静かにグラスを置いた。
「彼女は——」
マレーヌが、はっきりと言い放つ。
「不正に魔法能力を偽装しています」
一瞬の静寂。
そして——
どよめき。
「偽装……?」「どういうことだ?」
マレーヌは勝ち誇ったように続ける。
「証拠もございます」
指を鳴らす。
控えていた男が、一歩前に出た。
「この者は、違法魔道具の鑑定士です」
(……雑だな)
心の中で、ため息をつく。
「彼の鑑定によれば、アリスは外部補助なしではあの力は使えない」
ジルが追い打ちをかける。
「つまり全部ハッタリってことだ!」
会場がざわつく。
疑念の視線が、こちらに向く。
(さて)
どうしようか、と思ったその時。
「——くだらんな」
低い声が、響いた。
一瞬で、空気が凍る。
王子だった。
「証明したいのなら、簡単だろう」
ゆっくりと、前に出る。
「この場でやればいい」
ざわめきが、止まる。
「魔道具の使用を完全に封じた状態でな」
マレーヌの顔が、引きつる。
「そ、それは……!」
「できないのか?」
一言で、追い詰める。
「い、いえ……!」
もう、引けない。
マレーヌは歯を食いしばる。
「……アリス、やりなさい」
命令口調。
(まだ、そのつもりなんだ)
少しだけ、笑ってしまう。
「分かりました」
一歩、前に出る。
王子が、軽く手を振る。
瞬間、結界が展開された。
「これで外部干渉は不可能だ」
完全な封鎖。
言い逃れはできない。
「では」
私は、ゆっくりと手を上げる。
詠唱は——しない。
魔道具も——ない。
「——見ていてください」
ほんの少しだけ、魔力を流す。
その瞬間。
空気が、沈んだ。
「っ……!?」
会場中の貴族たちが、息を呑む。
圧。
ただそれだけで、理解させる。
「ありえない……」
鑑定士の男が、膝をついた。
「こ、こんな純度の魔力……補助など……不可能……」
そして。
「《収束閃光》」
一瞬。
光が、空を貫いた。
夜会場の天井に展開された結界が——
悲鳴を上げて軋む。
だが、壊さない。
完璧に制御された一撃。
「……これで、十分でしょうか」
静かに、手を下ろす。
沈黙。
完全な、沈黙。
「……ば、馬鹿な……」
マレーヌの手から、グラスが落ちた。
音が、やけに大きく響く。
「そんな……そんなはず……!」
ジルも、後ずさる。
「嘘だ……あいつは……何もできないはずだ……!」
(だから言ったのに)
少しだけ、目を細める。
「——終わりだな」
王子が、冷たく告げる。
「虚偽の告発、王家への侮辱」
その言葉の意味を——
理解した瞬間。
二人の顔から、血の気が引いた。
「ま、待ってください……!」
マレーヌが崩れるように跪く。
「わ、私たちはただ……!」
「黙れ」
一言で、切り捨てられる。
「見苦しい」
その視線には、もう価値すらない。
「ルヴェール侯爵家には、正式に沙汰が下る」
終わりの宣告。
「爵位剥奪も、あり得るな」
「っ——!!」
ジルが、声にならない声を上げる。
マレーヌは、完全に崩れ落ちた。
「そん……な……」
誰も、助けない。
かつて彼らが見下していた者たちと——同じように。
「アリス」
王子が、静かに呼ぶ。
「行こう」
「はい」
もう、見る必要はない。
背を向ける。
その背後で。
全てを失った者たちの、崩れる音がした。
——それでも。
私は、振り返らない。
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