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侯爵家の捨て駒だった私、王子と組んで全員公開ざまぁ  作者: たま


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8/10

8話 もう遅い

数ある作品の中から本作をお選びいただき、ありがとうございます。

拙い部分もあるかと思いますが、最後までお楽しみいただければ嬉しいです。

8話 もう遅い

「——ルヴェール侯爵家より、来訪者です」

その報告が届いたのは、契約締結から三日後のことだった。

(……来たか)

窓の外を見ながら、小さく息を吐く。

思ったより、早い。

「どうされますか?」

控えていた教師が、慎重に問う。

「お断りしても——」

「いえ」

首を横に振る。

「会います」

むしろ、その方がいい。

(ちょうどいい機会だし)


応接室の扉を開けた瞬間。

空気が、変わった。

「——遅いわよ、アリス」

聞き慣れた声。

けれど、そこにあるのは——かつての“絶対的な上”の響き。

ソファに腰掛けているのは、姉マレーヌ。

その隣には、弟ジル。

そして——

侯爵家の使者たち。

(……相変わらずだな)

一歩、室内に入る。

「お久しぶりです、お姉様」

形式的に一礼する。

それだけで、マレーヌは眉をひそめた。

「何その態度」

不機嫌そうに足を組み替える。

「もっとちゃんと頭を下げなさい。貴女の立場、分かってるの?」

(立場、ね)

少しだけ、懐かしく思う。

かつての私は——

本気で、それを信じていた。

「本日は、どのようなご用件でしょうか」

淡々と、問い返す。

「……は?」

マレーヌの表情が固まる。

「用件? 決まってるでしょう」

机の上に、一枚の書類を叩きつけた。

「帰るのよ」

「…………」

「貴女はルヴェール侯爵家の人間なの。勝手に外で目立つなんて許されないわ」

(ああ)

なるほど。

「それに」

マレーヌは、唇を歪める。

「第二王子殿下と契約? そんなもの、貴女に扱えるわけないでしょう」

ジルも鼻で笑う。

「身の程を知れよ。どうせすぐに見捨てられる」

(やっぱり)

何も、変わっていない。

「……終わりですか?」

静かに、聞く。

「は?」

「ご用件がそれだけでしたら——」

その時。

「——随分と、好き勝手言ってくれるな」

低い声が、割って入った。

全員が振り向く。

扉の前に立っていたのは——

王子だった。

「で、殿下……!?」

空気が、一瞬で凍りつく。

マレーヌが慌てて立ち上がる。

「こ、これはその……!」

「聞こえていた」

一歩、室内に入る。

その圧だけで、場の主導権が完全に塗り替わる。

「“扱えるわけがない”、だったか?」

冷たい視線が、マレーヌに向けられる。

「それは、私の判断が誤りだと言いたいのか?」

「い、いえ! そのようなつもりでは……!」

声が震える。

さっきまでの余裕は、跡形もない。

(……分かりやすい)

「アリスは、私が正式に契約した人材だ」

王子が、はっきりと言う。

「それを“連れ戻す”?」

一歩、近づく。

「許可した覚えはないな」

「っ……!」

マレーヌが、言葉を失う。

ジルも、顔色を変えて黙り込む。

「……ですが」

かろうじて、マレーヌが声を絞り出す。

「この子は、我が家の——」

「違います」

その言葉を、遮る。

全員の視線が、こちらに集まる。

「私は——あの家を出ました」

はっきりと、言い切る。

「今は、ただのアリスです」

「なっ……!?」

マレーヌの顔が歪む。

「勝手なことを……!」

「勝手、ですか?」

一歩、前に出る。

かつて、見上げていた相手を——

今は、見下ろしている。

「では、お聞きします」

静かに。

逃げ場を与えない声で。

「私を“家族”として扱ったことが、一度でもありましたか?」

「それは……!」

言葉に詰まる。

答えられるはずがない。

「使用人以下だと仰いましたよね」

ジルが、びくりと肩を震わせる。

「役に立たない子だと、言われましたよね」

今度は、マレーヌ。

「——その私を、なぜ今さら“家族”だと?」

沈黙。

完全な、沈黙。

「……都合がいいですね」

小さく、笑う。

その一言が、決定打だった。

「っ……この……!」

マレーヌの顔が、怒りで歪む。

だが——

何も言い返せない。

「話は終わりです」

視線を外す。

もう、十分。

「お帰りください」

「アリス!!」

叫び声。

けれど、その声に——

もう、力はない。

「……行くぞ」

王子が、冷たく言い放つ。

護衛たちが動く。

マレーヌたちは、そのまま退室させられる。

最後に。

「覚えてなさい……!」

絞り出すような声。

でも。

(覚えておくのは、そっちだよ)

私は、何も答えない。

扉が、閉まる。

静寂が戻る。

「……大丈夫か」

王子が、少しだけ柔らかい声で言う。

「はい」

頷く。

不思議と——

何も残っていなかった。

悲しみも、怒りも。

ただ。

「すっきりしました」

そう言うと、王子は小さく笑った。

「それは何よりだ」

そして。

「これで、完全に切れたな」

「はい」

もう、戻ることはない。

「——ここからが、本当のスタートです」

そう言った私に。

王子は、満足そうに頷いた。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

誤字脱字のご連絡ありがとうございます。

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