6話 観客席の頂点
数ある作品の中から本作をお選びいただき、ありがとうございます。
拙い部分もあるかと思いますが、最後までお楽しみいただければ嬉しいです。
6話 観客席の頂点
「——始め!」
合図と同時に。
空気が、裂けた。
「《雷槍陣》」
教師の詠唱は、一瞬だった。
次の瞬間、無数の雷槍が空中に展開される。
数十——いや、百を超える。
「……最初から全力か」
観客席がどよめく。
「決勝とはいえ、やりすぎだろ……」「相手は生徒だぞ……!」
(すごい)
素直に、そう思った。
これが“実戦”の魔法。
速く、正確で、そして——容赦がない。
「行くぞ」
教師の手が、振り下ろされる。
雷槍が、一斉に降り注いだ。
逃げ場はない。
回避は不可能。
(普通なら)
でも——
「——遅い」
一歩、前に出る。
雷の嵐の中へ。
「なっ!?」
悲鳴が上がる。
だが。
当たらない。
掠りもしない。
すべての軌道が——見えている。
(こういうのは)
少しだけ、魔力を流す。
空間に、触れるように。
「こうすればいい」
雷槍の“隙間”が、広がる。
ありえないほど正確に、道が生まれる。
私はその中を、ただ歩いた。
「ば、馬鹿な……!」
教師の顔が歪む。
「軌道を……読んでいるのか……!?」
(違う)
読んでいるんじゃない。
“触れている”。
魔法そのものに。
「なら、これはどうだ!」
次の詠唱は、重かった。
空気が、震える。
「《重雷域》」
瞬間——
闘技場全体に、圧が落ちた。
重い。
立っているだけで、膝が沈みそうになる。
同時に、足元から雷が這い上がる。
逃げ場は、完全に消えた。
「これで終わりだ!」
(……なるほど)
これは、さっきよりいい。
ちゃんと、“戦い”になっている。
「少しだけ」
呟く。
「上げますね」
魔力の枷を——外す。
その瞬間。
空気が、悲鳴を上げた。
「っ——!?」
教師が息を呑む。
観客席が、一斉にざわめく。
「な、なんだこの圧……!」「さっきまでと桁が違うぞ……!」
闘技場の結界が、軋む音を立てる。
「結界が……持たない……!?」
(まだ大丈夫)
ほんの一部。
それでも——
世界が、変わる。
「……行きます」
足を、一歩踏み出す。
その瞬間。
重力も、雷も——意味を失った。
すべてが、置き去りになる。
「消え——」
教師の言葉は、最後まで続かなかった。
次の瞬間。
私は、目の前にいた。
「なっ——」
驚愕に染まる顔。
「終わりです」
手を、軽くかざす。
だが——
今度は止めない。
「《収束閃光》」
音が、消えた。
光だけが、存在する。
観客席の誰もが、目を見開く。
——直撃。
轟音が、遅れて世界を叩いた。
闘技場の床が、抉れる。
結界が、悲鳴を上げて歪む。
そして——
静寂。
煙が、ゆっくりと晴れていく。
そこに立っていたのは。
「……参った」
膝をついた、教師。
そして——
無傷の、私。
「勝者、アリス・フォン・ルヴェール!!」
歓声が、遅れて爆発した。
「嘘だろ……教師に勝った……!?」「あれ、本当に生徒かよ……!」
誰もが、立ち上がっていた。
——一人を除いて。
観客席最上段。
そこにいたはずの人物が——
いない。
「……え?」
誰かが気づく。
「王子殿下は……?」
その時。
コツ、と。
静かな足音が、闘技場に響いた。
全員の視線が、入口へ向く。
そこにいたのは——
王子だった。
ゆっくりと、階段を降りてくる。
その目は、ただ一人を捉えている。
私を。
「……やはり、か」
小さく呟く。
誰にも聞こえないほどの声。
だが、その表情は——
明らかに変わっていた。
余裕でも、興味でもない。
「これは……放置できないな」
確信。
そう、確信だった。
王子は、闘技場の中央まで歩み寄る。
ざわめきが、自然と静まる。
「約束通りだ」
まっすぐ、私を見る。
「優勝、おめでとう」
一歩、距離を詰める。
「そして、もう一度聞こう」
その場にいる全員が、息を呑む。
「——私のもとに来るか?」
沈黙。
すべての視線が、私に集まる。
(……どうする?)
答えは、もう決まっている。
私は、ゆっくりと顔を上げた。
そして——
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