赤い都
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マッシュール王国の王都ギリアスは通称『赤い都』と呼ばれている。
それは城壁や建物を作っている石が赤みを帯びていることと、屋根の瓦も赤みを強い土からできていることに由来する。
ラーヴェラル帝国の帝都バラリア(初めて名前が出ました)と比べてはるかに大きい都市だそうだ。
「洋服もラーヴェラルとは少し違うね。」
「そうですね。服装も少し違いますね。気候は帝国の南部より寒いはずですから、ズボンを履いている女性が多いような?」
サヤとユリルは馬車の窓から外を見て話している。
「お化粧も違うよね?」
「そうですか?・・・そう言われてみれば・・・きつめのメイクですね。目元がキラキラしている方が多いですね。金粉は高いでしょうから何か違う鉱物の粉でしょうか?」
二人共年頃の女性なだけに、同じ女性の姿かたちについ目が行く。
「あ、見てみて!あそこに露天が出てる!なんだろうあれ。」
「多分香炉でしょう。マッシュール王国は香を嗜む者が多いと聞いたことがあります。」
「流石先生。」
「もう、先生はやめてください。本で読んだだけなのですから。私も帝国から出たことがないので、どれもこれも目新しいものばかりです。」
外の景色に二人共かぶりつきだ。
馬車がかしいでいるのではないかと思うくらい重心がよっている。
「観光出来るといいな。せっかく来たんだし、香炉も一個欲しいな。お香も一緒に買って帰ろうかな。」
「サヤ様が買いに出ることはできないですよ。」
「ユリル、買ってきてくれる?あ、そうだ。ティルルにお土産にしたいなあ。」
ラベンダーみたいに鎮静効果のあるお香があれば、ティルルの不眠症に効くかもと思う。
「自由に出入りはできないでしょうね。王城から一歩も出ないで帰途につくことになると思いますよ。」
「つまらない。」
「自国の情報を他国に流したくはないでしょうから。」
「街ぐらいなら大丈夫でしょう?国王陛下にお伺いしてみましょう。ダメなら誰かに買いに行ってもらえばいいし、こっちは一応頼まれてきているのだから、そう無下にはされないと思うけど。」
隊商は街に出入りできるのだから、そうピリピリしなくても大丈夫だろう。
「頼まれたといえば、マッシュール王国の戦神子はレシュの話によると、とんでもない人と聞いていますが?」
沙耶は五大国会議での保坂 賢治を思い出す。
「とんでもないというより、チャラい。」
「チャラい?皇帝陛下よりも『なるべくマッシュールの戦神子とサヤを近づけるな』と言われておりますが、危険な男なのでしょうか?」
『正確には戦神子を始め、どんな男も』と言われてきているのだが、そこは伏せておく。
「う~ん、危険かなあ~」
危険というよりウザイという気が、それよりも彼に能力の発現方法をレクチャーできるのか甚だ不安だ。自分でさえ四苦八苦したのに、人の世話などできるのだろうか。
ティルルのところに、マエール国教会より書簡が届いたのが一ヶ月前。
マッシュール王国の戦神子が、なかなか能力が発現できずにいるので、相談に乗ってくれという趣旨だった。
教皇よりの正式な依頼である花押が押してあった。
依頼ではなく命令だ。
大司教に出世してラールヴェル帝国から栄転したコステリオ大司教が自ら書簡を持ってくるに至っては、断ることなどできはしない。
国教会からの依頼なので、沙耶の身に危害が加えられることはまずないだろうが、絶対ではない。
「大丈夫、僕・・・私が付いています。」
サヤとユリルだけだった馬車の中に声が響く。
「シオ、サヤ様を守ってね。」
「陛下からも申し付けられています。ご安心ください。」
シオだ。いっちょ前の口を聞いている。随分と大きくなったがまだ、顔にあどけなさが残る。
シオはキンヨンダの固有能力である消身が使えるようになったので、ティルルがシオの母親の承諾を得て、沙耶の伴に加えたのだ。
「頼りにしてるからね。」
沙耶が言うと嬉しそうだ。
☆
ウガリッドの待つ謁見の間に、ラーヴェラル帝国の戦神子が入ってきた。
口元に笑みを浮かべて前を向いて堂々と、入ってくる姿はウガリッドがかねがね抱いていた帝国の戦神子のイメージと異なっていた。
定められた位置にすっと止まると、会釈をする。
多少頭が高い会釈だが、優美とも言える仕草で不快にはならない。
むしろ初めて間近に見るラーヴェラル帝国の戦神子の美しさに、居並ぶ者達は目を奪われていた。
ビスクドールのように艶やかな肌
黒曜石のごとき輝く瞳
凛と描かれた唇がほころぶところを誰しも見たくなる
その唇より出る天上の調べ
その調べに我の名が乗れば
天国への誘いのよう
後日マッシュール王国の宮廷書記は普段の記述ではなく、詩のように記録に残していたが、誰も咎める者がいなかったという。
「ラーヴェラル帝国の戦神子、サヤ=ミコト=スメラギです。マエール国教会の依頼でまいりました。」
「五大国会議以来だが、正式な自己紹介はしていなかったな。私がマッシュール王国国王ウガリッドである。遠路はるばるよくお越しくだされた。マエール国教会を通じての依頼を聞き遂げていただきマッシュール国王として帝国皇帝にはお礼を申し上げる。」
最近眉間のしわがなくなることが少ないウガリッドも顔筋がゆるみがちになりそうだ。
(お荷物と噂されていたことが嘘のようだな。)
「私がこの世界に来て間もない頃、戦神子の能力についてマエール国教会の仲立ちでバール殿とお会いしたことがあります。今はなきバール殿とはいろいろございましたが、レクチャーに関しては感謝しております。このような形でお返しできる機会を国教会よりいただき感謝しております。」
(暗にメドーの前戦神子の暴挙に手を貸したのはバールだろうと匂わすあたり、しっかりと入れ知恵されてきているのか?)
「バールは晩年我の手を離れて逸脱することが、多かった。体の不調で精神にも変調をきたしていたのだろう。長い付き合いだったが察してあげれずかわいそうなことをした。」
ウガリッドはバールの独断で王国はあずかり知らないことという見解を崩さず返す。
「新しい戦神子に同じ轍を踏まないために、助言をしてもらいたい。」
「非才ながら、努力いたしましょう。」
☆
「ユリル、もう疲れた。どっと疲れた。場数を踏んできているとは言え、アウエーでティルルも側にいないし、胃が痛い。脇汗かいちゃったよ。」
ユリルとリガードにボヤッキーの沙耶。
今回陰険メガネのアーカネはついてきていません。
その代わりにリガードがついてきています。
他国では宮廷内に出入りできるのが、純血種だけの場合がほとんどなのでそうなったと聞いている。
王宮内に他国の王族・使節が滞在する迎賓館なるものが存在する。
そこに案内された途端にソファーにヘタりこんでいる。
「堂々としていらしてましたよ。見ていて安心していました。」
見るとリガードも頷いているので、合格らしい。
「そう?なるべく偉そうに見えるように振舞ったのだけど、タカビーに見えなかった?」
ちょっと嬉しい沙耶。
「いいえ。マッシュール王国の戦神子もご同席なさると思っていたのですがいらっしゃいませんでしたね。」
「おそらくは遠慮させられたでしょう。」
リガードの言葉に心当たりのある沙耶。
「どうしてですか?」
「サヤ様と同じ日本から来た戦神子なので、身分や儀礼というものに対して経験値が少ない。ぶっちゃけているといるだけ邪魔なのでしょう。」
「あ~」
「ユリル、何納得してんの?」
突っ込むサヤの視線をあさっての方に外して
「お茶を入れましょうね?いい茶葉が用意されておりますよ?」
「はぐらかしたな~」
「シオ、消身を解いて一緒にお茶しましょうね。」
「はい。」
「シオ、ご苦労。気をつけていないとわからないくらいしっかり消身していたな。」
「へへっ。」
リガードに褒められて嬉しそうだ。シオは何故か陰険メガネのアーカネを慕っている。
ドアがノックされる。
「警備隊長でしょう。」
リガードが扉に向かう。シオがまた消える。
シオの存在は侍女さん達と警備隊長以外には内緒なので、大変だ。
「やっほ~!ハニ~また会えたね!」
「もしかして、この方が?」
「見ないふりしてください。」




