ポロロッカ
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「“ポロロッカ”の気配というのは確かなのか?」
マエール国教会の新しい教皇であるアシュタ教皇は、枢機卿会議の席で再びその質問をした。
これで何度目だろう。
「はい。地下の『映し鏡』にて確認されております。」
遺物管理者である枢機卿が答える。
国教会の地下奥深くには過去の『文明の遺物』が多く収められている。
かつて失われた文明の残滓だ。
これを集積し管理することで、マエール国教会はこの世界の中心として存在することができる。
『召喚システム』も『文明の遺物』だ。
そして『映し鏡』とは、キマイラのような複数遺伝子の混合生物を探知して映し出す“もにたー”なるものだ。過去に召喚した異世界人がこれを作り上げたとも伝えられているが、定かではない。
「マエールまでは、キマイラもやっては来ないだろう。」
「聖都は安全ですが、時期が悪い。」
マクリール枢機卿が苦虫を噛み潰したように言う。
「マッシュール王国の戦神子の能力は未だはっきりしておりませんし、メドー公国もマッシュール王国もまだ国境の楔うちが不完全です。」
「『映し鏡』にはどの方角から来ると映し出されておりますか?」
エステリオ枢機卿も流石にいつもの笑みはない。
「北西の方角からです。」
「どうして、手薄な方がわかるのでしょうな。」
北西はまさにマッシュールとメドーの方向だ。
「ウガリッド国王は先の“ポロロッカ”を知ってはいるが、戦神子は未だ能力が未知で実戦に投入できない。」
「そしてメドー公主はまだ若くしかも傍流の出生で帝王学に関してはまだまだ未熟であるばかりか国内も安定せず軍の編成自体もままならないとは問題山積。」
マクリール枢機卿とエステリオ枢機卿が代わる代わる言う。
「五大国の二翼が崩れては、この世界を維持するのは困難になります。」
「わかっている。・・・マッシュール王国とメドー公国に対してキマイラを必ず食い止めるようにと、教皇の名で通達しよう。」
「それだけでございますか?」
マクリール枢機卿が言う。
「それだけでは先ほど上げた状況からして、難しいのではないのでしょうか。」
「では、お主、マクリール枢機卿にほかに策はあると言われるか?」
「皆様。」
今まで黙っていた、教皇派の枢機卿が声を上げる。
「少し休憩を致しましょう。」
別室に下がった教皇のもとに枢機卿が訪れる。
「聖下、マクリール枢機卿とエステリオ枢機卿に主導権を渡すような言動は、お控えください。」
「ならば、お前にその策はあるのか?」
「マエール国教会が名実ともに世界の中心となるのには、この上ない機会と思っております。」
「どういうことか?」
「戦神子を国教会の監視下に置く、これがたやすくできるのです。」
「国教会のために戦神子を召喚しようというのか?」
「それも手でありましょうが、教皇の勅命として、新しい戦神子を助けるために他国の戦神子を、メドー公国とマッシュール王国に派遣するのです。教皇の名のもとに戦神子を動かす。これは第一歩です。国から切り離された戦神子を国教会に所属したほうに利点があると、説得する機会も生まれます。民衆は教皇の慈悲ある行為に湧きましょうし、国教会が戦神子を管理していると思わせることもできます。」
「なるほど。」
アシュタは人々から賞賛される自分を想像する。
☆
「シン」ティルルの視線がきつくなったのでいいなおす「エステリオ王国の戦神子が言っていた“ポロロッカ”がやはり来るということですか?」
「残念ながら、史料と先日シロ様が仕留められたキマイラの胎児と死骸、国教会とエステリオ王国の動き、そのもろもろをつなぎ合わせるとその可能性はかなり『確実』と言えるほど高くなっております。」
オーリスがサヤの質問に答える。
「では、《魔法》の訓練を再開しますね。」
沙耶はティルルに頷く。
「病み上がりにゆっくりさせるつもりで連れてきたはずなのだが、すまない。」
「シロだけに戦わせるわけにはいかないし、シロは私が守ってあげないと。」
沙耶の言葉にティルルは一瞬複雑そうな顔をする。
「“デンシレンジ”の射程と収束と出力、“熱線”をサヤが前に言った“レーザー”の域まで威力を上げることでいいですか?」
アーカネがティルルと沙耶に確認する。
「そうだな。」
「スタンガンも使えるよ。」
「使えますが、あれは近距離型ですからね。シロが近距離型なのでサヤは長距離レンジが相性がいいでしょう。」
「なるほど。そうかもね。」
ティルルも問題ない。むしろ長距離のほうが危険が低いのでその方が安心できる。
「ひとつ聞いていいかな?」
沙耶が疑問に思ったことを聞いてみた。
「“ポロロッカ”ってキマイラの大発生だと聞いた気がするのだけど、集団で行動するの?」
「サヤにはきちんと話しておいたほうがいいだろうな。」
「そうですね。心構えできるのとできないのでは違いますから。」
「なんか、言い方が怖い。」
「まず、集団で行動する。感覚で判るのか鼻が利くのか、守りの手薄な国が狙われる。少し前ならラーヴェラルが標的だったはずだ。」
「サヤ様とシロのおかげで楔の強度は十分です。私は正直な話ですが、いま“ポロロッカ”の兆候が現れたことにホッとしております。もし、サヤ様の召喚前でしたら帝国は瓦解していたでしょう。」
リガードが心底ほっとした声で言う。
「マッシュール王国とエリドゥ帝国で分割して統治するかそれに国教会の直轄地が噛むかだな。」
ティルルは淡々と答える。
「だが、主戦場から帝国が外れるといってもキマイラの出現頻度は今までとは段違いだ。油断はできない。」
「それって帝国はかなり危ないところだったって事よね。」
「その通りでございます。それでなくとも“ポロロッカ”は驚異です。」
「前回には、世界の一万人が犠牲になりました。それでも少なかった方です。今回は手薄なメドー公国とマッシュール王国が標的となるのは確実ですので、ラーヴェラル帝国との国境や緩衝地帯のキマイラの出現はかなり活発になるでしょう。」
「そういうことだ。戦いが嫌いなのはわかるが、食うか食われるか、相手は話して引くような奴らではない。向こうも生存をかけている。ためらわない訓練もしておくんだ。」
ティルルの顔が厳しい。それほどの脅威なのだ。
「もうひとつ言っておくが、知性も感情も失っているくせに“ポロロッカ”のときだけは秩序だった動きを取る。それはまるで軍隊だ。」
「キマイラに知性を持った存在がいて指揮しているということなの?」
「それはまだ詳しく知られておりません。しかし明らかに部隊分けをして攻撃してきます。」
オーリスが答える。
「ま、それはそれでやりやすい面もあるんだがな。」
アーカネがメガネ拭き始める。
「バラバラでゲリラ戦紛いのことをされると、向こうの方が個々の戦闘力が高いから、戦力を分散せざるを得ない。その点バラけず向かってくるのでやりやすい。知性があるといっても、策略を弄するわけではない。」
「アーカネ殿は、アビスでキマイラと戦いなれておられるのでしたな。」
オーリスが皇帝の前で着易い行動を取るアーカネにちらりと非難の目を注ぐ。
「《呪紋使い》も動員して、再度訓練をし直すべきでしょう。」
「実際のところ、そういう戦闘では《呪紋使い》の支援は大きい。なるべく多くの《呪紋使い》を動員して欲しい。」
アーカネはティルルに向かって言う。
(『呪文使い』って純血種の能力だったよね。城壁の中から出てこない人たちが、キマイラとの戦いに出てくるなんて、私がスベルトでの戦いみたいに、恐怖と嫌悪でパニック状態になってしまったように彼らもならないのかしら。)
不安は尽きない。
アーカネがその後に沙耶に見せたキマイラの確認されている個体は、眉をひそめるくらいにグロくて醜悪な生き物が多かった。
ちなみに神話上の生き物に近いキマイラもいた。
『ソロモン72柱』
ウェブ小説の中や、ゲームのボスの名前で出てくるモンスターの名前はこちらでもその名で呼ばれているから不思議だ。
波乱の気配ですが、その前に二人の間の波乱を少し
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