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猫を追いかけて異世界  作者: ふー
激震編
83/112

シロの冒険  4

お読みいただきありがとうございます

食事を終えお腹がいっぱいになれば、猫としてすることは一つ。


昼寝だ。


昼寝にしても『マイ ベスト プレイス』というものがある。


ナッソーでは、新市街と旧市街の境目の元城門の上がそれにあたる。

そこは街を見渡すことのできる風通しの良い場所だ。

フィン達を従え(?)、尻尾をピンと立てて凱旋してきたシロは早速そこに陣取って昼寝を始めた。

下から響いてくる人々の話し声も、寂しがり屋のシロには良いBGMだ。

シロがそこを昼寝の場所にしているのを街の人間は皆知っているが、実際に昼寝をしているところを目撃できるのは、領事館の物見櫓と新旧城壁の物見櫓の3箇所に限られいて、安全な昼寝場所でもある。


蝶がシロの白い体の上で羽を休めている。

爽やかな風が吹き、澄んだ青い空が広がっている。

のどかで見ている方もあくびが出るようなのどかな時間だ。


シロが寝ている城壁の上に人影が現れる。

漁師の身なりだが、旧城壁に上がってくる漁師などまず居やしない。

シロを挟んで反対側にも現れる。全部で五人。

音を立てずハンドサインで会話をするに至っては、ただものではない。

事実旧城壁の物見櫓の監視人は、警告を発することもできずに、ものが言えないただの物体に過ぎなくなっていた。


男たちはシロに筒を向ける。

呪紋付与の対キマイラ用の吹き矢だ。

リーダーの合図で、一斉に吹かれる。

風も計算された吹き矢は、大きい的とかしたシロに突き刺さる。

強力な麻酔が仕込んである。


男たちが受けた仕事の内容は

『ラーヴェラルの白き守護獣を生かして連れてくること』

その依頼内容の重大さと難しさから成功報酬も約束されていた。

強力な麻酔で眠らせたあと《軽量の呪文》で運び出す算段だ。事前に運び下ろす場所も確保してあり、ナッソーから外に出すための偽装馬車も用意してある。

シロの武器である牙は口に拘束具をはめれば無力化できるし、爪は考えた挙句にスポンジ状のサックを嵌め四肢を拘束することにした。

これで万全なはずである。

第一段階は終了した。


シロは夢を見ていた。

あのキマイラと戦っていた。

夢の中ではシロは苦戦していた。

シロの尾をキマイラの蛇に噛まれてしまっていたのだ。

離れて戦うことができず接近戦になってしまっていた。

キマイラのフクロウのような鉤爪がシロを襲う。

シロは渾身の力を込めて、後ろ足でキマイラの側部を蹴り上げる!




どうしてこうなった?

麻酔は効いていなかったのか?

リーダーの頭は思考を止めていた。

近づいて《軽量の呪紋》を施そうとした仲間が猫のケリをくらって、ナッソーの城外へと(おそらくは)飛んでいった。

そのあと警戒のためその男の側にいた者も猫のしっぽにムチのようにしばかれて体があらぬ方向に曲がってその場に倒れている。

(化物だぜ。)

残った仲間に再度吹き矢を装填させる。

今度は致死毒だ。

解毒薬も一応用意してあるので、死にはしないだろう。

猫はゆらりと立ち上がる。猫ともあろうものがふらついている。

(効いてはいるのか?)

大型のキマイラでさえ一本でふらつく麻酔を三本。それでふらつきながらも立つなど予想外だ。

リーダーの方へふらつきながらも向かってくる。

反対側の男の方へ合図をする。

(毒矢をふけ!)

シュ

ぐっ

声を発したのは吹いた本人だ。体に自らが吹いた吹き矢が刺さっている。棒が倒れるように横倒しになる。当然即死だろう。

(何をした!)

シロはその長いシッポを振って吹き矢を巻き込み打ち返したのだ。

シロの意識がはっきりしていればドヤ顔で鼻息が荒くなるはずだが、反応が薄い。

瞳孔も安定していないし足元は相変わらずふらついている。

半分寝ているのだ。

(半分寝ていてこの強さかよ!)

リーダーは心の中で毒づく。割に合わない仕事だったと後悔がわく。

あとは自分ともうひとりだが、どうやら気圧されたようだ。吹き矢を持つ手が下に降りている。

(しっかりしろ!)

命あってこそだ。二人では猫を運び出す前に見つかってしまう。

(逃げるぞ)

二人は後ずさりし始める。

目の前にいた猫がいない。

耳元でふ~ふ~と息の音がする。男たちはギギギと音の方へ首を向ける。レモンイエローの感情のこもらないガラス玉のような目が二人を見ていた。男たちの顔をシロの暖かい息がなぶる。

シロは逃げるものは追わない。

人ならば多少の手加減はする。

が、今は半分夢の中だ。

しかもあのキマイラと戦闘中の夢だ。

手加減もしない、逃走も許さない。


五人の男はシロの『ベスト プレイス』からしたに落とされた。




「大丈夫ですか?眠れましたか?」

朝食を摂るために食堂へ降りると、相変わらずのきらびやかな笑顔でシンが出迎える。


「ありがとうございます。」

礼は言ったものの沙耶の顔はひどいものだ。つややかでなめらかなお肌はガサガサで目の下にクマが出来ている。


シロが帝都に戻ったので、自室に戻って睡眠を取ったのだが、脳裏にシロの戦闘シーンやら正体不明のものに襲われたのやらが、ぐるぐるめぐって寝た気がしない。

こめかみに鈍痛が走る。

テーブルにはアメリカンブレックファストが整えられているが、沙耶にははっきり言って重い。


(朝粥定食が食べたい。)

米飯文化が根付いていないこの異世界では、ないものねだりだ。


手が伸びない沙耶にシンが

「元気がないですね。無理もありませんが。少しでも食べて今日は一日ゆっくりとお休みなさい。」

と優しく勧める。


正直言ってこのまま起きていても、辛いだけだし使い物にはならなそうなのでありがたくその言葉を受け入れることにする。

果物とコーヒーだけもらい部屋に戻る。

従者は別なところで食事をとっているので、部屋に戻ってもアーカネ達はいない。


「レシュも食事に行ってきて。」


「すぐ戻ってくるでしょうから、待っています。」


「帰りにコーヒーをポットでもらってきてくれると嬉しいな。」


「わかりました。どうなされます?このまま休まれます?」


「頭が重いから、お風呂を使ってもいいかな?」

この館のお風呂はいつでも入れるようになっている。


「では用意いたしますね。」


「お願いします。」



ベッドに入って寝ようとするとどうも寝付けない。


「ごめん、ちょっとここにいていいかな?」

沙耶は居間として提供されている部屋のソファに移動する。


「席を外しましょうか?」

セリーンが腰を浮かす。


「ここで皆が話しているのを、見ていたほうが落ち着けるかもと思うからそのままで、好きなことをしていていいよ。」


「“小説家になろう”を読んでいいですか?」


「クレイ。」

レシュが非難の声を上げるがクレイは重ねて言った。


「読み上げるのを聞いていればサヤ様だって気が紛れるでしょ。チートものにしようよ。」


「え~恋愛がいいよ。」


「読み上げソフトで口説き文句を言われてもときめかないのよね。」


「そうそう、キュンキュンしないのよね。やっぱりサヤ様に読んでいただかないと。」


(いや、結構読む方は恥づかしいものだけど、読み上げソフトと恋愛ものは相容れないものというのは賛成だなあ)


「そう言われればそうだ。じゃあ学園モノなんてどう?」


(現実逃避ですかね?)


「それがいいわね」

クレイが早速開く。


「どれがいいかなあ。」


タグは読めるようになったし、ランキングからピックアップするのもありなので、探し始める。


「お気に入りの更新もあるけど?」


「いや、新規開拓でしょ。」


読み上げソフトのやや単調な声を聞いているうちに沙耶は、眠ったようだ。


シロの活躍は一旦終了です


ナッソーの街はずれ、街道から外れているため通る人は少ない。

その場所に幌をつけた荷馬車とその周りに男たちが五六人いた。

「そろそろ接触した頃だな。」

ナッソーの街の方を見る。

黒いものが視界に映る。

「?なんだ?」

それは音を立ててこちらに飛んでくる。

「気をつけろ!なにか来るぞ!」

男たちは身構える。

ドッ グチャ!

大地に叩きつけられてひしゃげるもの。

「こ、これは!」

「うっ!」

「た、隊長!」

思わず口走った言葉を訂正することができないほど、隊長と呼ばれた男も呆然としていた。

飛んできたものはかろうじて胴体がつながっているだけだ。

この状態になるほどの衝撃で吹っ飛ばされてきたことを意味する。

顔も今の衝突で人相もわからなくなっているが、もとっている服の成れの果てには見覚えがある。

「おい、一人街に潜入して雇った奴がどうなったか、調べてこい。あとは撤退する。」

「撤退するのでありますか?」

「ここまで吹っ飛ばすようなやつを相手に、あの人数で捕獲できるとは思えん。一個小隊、いやもしかするともっと必要だろう。我々だけでは歯が立たない。」

「了解いたしました。」

部下たちに明らかな安堵の色が浮かぶ。

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