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猫を追いかけて異世界  作者: ふー
激震編
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82/112

シロの冒険 3

お読みいただきありがとうございます

 両者のにらみ合いが続く。

 待ち伏せ型のシロがこの状況ではやや不利だが、かつて相対した時のシロとは違う。体も一回り大きくなっており、爪と牙の破壊力も増している。

 それが判るのだろうあの上位キマイラも安易に仕掛けては来ない。


 月に雲がかかり、僅かの間暗くなる。そこで両者が仕掛ける。キマイラの尾の蛇が毒液を吐く。シロは後ろにはよけずに横っ飛びして、キマイラの側面を取った。シロのいた場所に毒液が臭気を上げる。頭と尾は独立して動くらしく、キマイラの頭部の獅子はシロをしっかりと捉えている。


 GUAAAAAA


 スベルト島の夜の闇にキマイラの雄叫びが響き渡る。

 対してシロは低い唸り声のみだ。

 両者が真っ向からぶつかる!

 ガツッという音が響き、キマイラの毛とシロの銀色に変じた毛が舞う。

 両者は再び距離を取る。

 シロは軽く前足を振る。

 そこにはキマイラの毒蛇の液がかかり皮膚を焼いていた。

 しかしシロの口にはそのキマイラの尾が食いちぎられて銜えられている。

 シロは蛇を落とすと口の周りを舌で舐め上げる。


 キマイラは息を荒くしつつも、目は殺戮の衝動に燃えている。


 FUUUUUU


 キマイラとシロ、互角に見えるだろう。

 しかし狩る者と狩られるものがあるとしたら、かつての両者の関係はシロが狩られるものでキマイラがかるものだった。だが今は両者には感じることができる、シロが捕食者だ。


 シロが動く。今までより早く、その姿はキマイラに捉えることが出来ない。

 月の光と同化したシロは、キマイラにその絶対的な爪を持って襲いかかる。

 猫の爪は半月状だ。侵入口は小さくとも中に食い込むので傷は驚く程深くなる。

 食い込んだ爪が薄い紙を引き裂くようにキマイラの体に深い筋を付ける。

 そのシロの爪から逃れようと、そしてシロを捉えようと動くが、それはかえって穿たれた傷から流血を誘う行為に過ぎない。

 それでもキマイラは動くのをやめない。止まったら即、死が待っている。


 GYAAAAA


 キマイラは吠えると洞窟の中に逃げ込もう方向を変える。

 致命傷を与えることができずにいたシロはその瞬間、キマイラの首に金の一閃を放つ。


 キマイラはドッと倒れる。前足はまだ逃れるように宙を掻く。

 シロはゆっくりと近づくと首筋に噛み付く。牙がずぶりと入り気管を潰す。

 シロは激しく息をしながらキマイラが息絶えるのを待つ。


 やがて痙攣とともにキマイラの体の一切の力が抜けるとシロはようやく牙を離す。

 月明かりが銀から白に変わった毛を照らす。静まり返っていたスベルト島の森が再び密やかな音を立て始める。


 シロはキマイラの腹部の臭いを嗅ぐ。

 そして舌で舐め上げる。

 猫の舌はザラザラして櫛状になっている。猫ならばザラザラで『舐められるとちょっと痛い』と笑っていられるがこれが大きくなると、櫛状どころではないトゲ状になっている。本気で舌の突起を立てて舐めたら、体毛も皮も剥ぐことはたやすい。

 抜き出しになった腹部に牙を立てて、血を舐めとり内蔵を齧る。


 ハズレ

 栄養は取れるが、まずい。

 さらに一呑みにすることもできないほど大きい。


 まあ、いいか。


 シロはゆっくりとマーキングした結界の外に出ると、血で汚れた被毛を舐め始めた。

 日の出まではもう少し時間がある。




 前足に載せていた顎が少し上がり、閉じられていたレモンイエローの目が細く開けられる。

 地面を伝わってくる振動が、近づいてくるものを教える。

 シロは暫しその振動を吟味していたが、顎を元のように落とし目を閉じた。

 空は白み始めている。


「シロ!大丈夫か!」


 洞窟の前に横たわるキマイラを見て、それがあの上位キマイラ(・・・・・・・・)と知ったフィン領事は、シロを探す。

 シロはうるさいなという様子で、のっそりと姿を現す。


「無事だったか!」

 ホッとするフィン。

「怪我はないか?無いようだな。凄い奴だな、シロ。」


 周りの兵士も上位キマイラを見たことがないものもちらほらいて、横たわっている死体のキマイラの大きさと禍々しさに驚きつつ、シロを褒める。

 褒められると嬉しいのかどや顔になるシロ。




 シロはグ~ンと伸びをすると、キマイラに近づき死体の腹部に前足を入れ何かを掻き出す。

 コロンとした物を、ポンとフィンの前に投げた。


「うわっ。」

 フィンの近くにいた兵士は声を上げるが、さすがにフィンは肝が座っている。


「なんだ?」


 足元に投げられた物をしゃがんでよく見る。


「これは!」

 それはキマイラの胎児だ。

「メスだったのか。」


 キマイラの胎児などフィンも見るのは初めてだ。

 繁殖しているという事実がここにある。

 ナッソー近辺ではキマイラに連れ去られたという話はここ一年聞いていない。だとしたらフィンには知らないところから人が連れてこられていることを示している。


「これを塩漬けにして帝都へ送れ。」


「はっ。」

 兵士が怖々と布にくるむ。


(シロがこれを放って寄越したのは我々への警告か?)





 違う。

 ただシロは“おすそ分け”のつもりだった。

 どうせまずくて食べられないのだから、分けてあげても良いと考えただけだ。

 気まぐれ

 あと褒められたのでお返しのつもりもちびっとある



「領事館殿、あのキマイラも回収いたしますか?」

「そうだな。」


 兵士たちは布を持ち、キマイラの死体に近づこうとしてシロの唸り声にギョッとして立ち止まる。

 キマイラが近づいているのかと思ったら、シロの目は兵士にロックオンされている。


「ヒッ!」


「お前ら、それはシロの獲物だそうだ。手を出さずに戻ってこい。」


 フィンの言葉に兵士たちは涙目になって、駆け足で戻ってくる。

 シロはキマイラをさらに洞窟から離れたところに引きずった。


「何をする気なんだ?」


 シロはお腹が空いていた。

 このキマイラはまずくて食べられなかった。

 まだ、前菜しか食べていない。

 キマイラはエサだ。


 シロはまた茂みに戻りくつろぎ始める。

 次の戦闘に向けてエネルギーを温存するためだ。


「フィン領事、いかがしますか?」

「今日のスベルト島の立ち入りは禁止しておけ。そのキマイラの・・・子供の死がいは持って行って処理しておけ。」

「わかりました。」

「後の者達は、少し離れたところで待機だ。避難港に行って炊飯の準備をして持ってくるように手配しろ。」

「シロ様次第ですか?」

「食べるわけでもないのに、手出しをするのを怒るということは『あいつら』をおびき寄せるつもりだろう。数によってはシロでも手こずるかも知れない。」

「そうですね。あのキマイラの死がいはかなり大きいので、おそらくは15~20匹くらい集まるでしょう。」

「そうだな。野郎ども気合入れておけよ!」

「ようそろ!」

 血の気の多い漁師上がりの部下たちは揃って声を上げる。

 シロと戦うなら、シロの手助けなら、望むところだ。


 シロは知らんふりだ。

 どちらかというと耳の動きから迷惑そうだ。



 フィンたちが、様子を見ながら交代で早めの昼を摂っても動きはなかった。

 陽は中天を過ぎている。山肌にある洞窟の前は陽が陰ってくる。

 寝ているシロの耳がピクピク動く。ゆっくりと起き上がり伸びをすると、爪のあいだの手入れを始める。


「お前ら、お客が来そうだぞ。」

 フィンが兵士に声をかける。フィンはユノス(いるか)の特殊能力を使う。洞窟の中に動くものがいる。

「数は・・・やはり多いな。25匹ってところだ。シロの邪魔をしないように遠距離からの支援中心で行くぞ。」

 兵士たちは呪紋の力を付与した弓を構える。


 洞窟からやってくる『あいつら』は“死肉喰らい”と言われているキマイラだ。彼らは存在を隠すつもりはなく、キャアキャアとけたたましく騒ぎながら、洞窟の奥からやってくる


 洞窟の出口に一匹また一匹と姿を現す。オレンジの毒々しい色のヌメっとした皮を持ち、曲がった背骨、短い前肢、ワラビーのような発達した後ろ脚を持っている。彼らの武器は、一本一本が鋭い剃刀のようになっており、触れるものを切り裂くピラニアのような歯だ。

 キマイラの死がいを確認するとキャアキャアとぴょんぴょん飛びながら騒ぐ。頭部が人がましい作りになっているので、吐き気を催すほど醜悪だ。


「打て!」

 フィンの合図で一斉に弓を射る。キマイラの皮は厚いが呪紋の力を付与した弓ならば貫通できる。


 ギャアギャア


 キャアキャアから戦闘色の強い声に変わると、“死肉喰らい”はフィンらに向かってくる。

 先頭3匹の“死肉喰らい”の頭が吹っ飛ぶ。一瞬のことになおも足は歩みを止めない。なくなった頭部のせいでバランスを崩して倒れてから初めて首からゴボリと血が流れる。

 “死肉喰らい”の首をなぎ払ったのはシロだ。シロはなぎ払ったあとを見向きもせずに、次の“死肉喰らい”の足に噛み付き振り回す。


 ヒギィ

 なぎ倒されていく“死肉喰らい”。だが、脚力を生かしてジャンプをしてシロの頭上から襲いかかろうとする個体がいる。

「あいつを射ろ!」

 フィンの指示で一斉に矢が空中の“死肉喰らい”に命中する。シロは咥えていた“死肉喰らい”を空中の個体にぶつける。


 ギャン!


 シロは素早く場所を変えなぎ払い、“死肉喰らい”を葬っていく。

 フィンは途中から余裕だ。

 兵士もシロから離れたところにいる“死肉喰らい”を射るのみだ。

 シロの動きが早いのでシロの近くの敵を射ようとすると、逆にシロに当たりそうになってしまう。

「シロにとって俺たちは『足でまとい』か『お荷物』かな。」

 フィンが苦笑いを漏らすほどの余裕っぷりだ。


 戦闘開始からわずか20分。

 シロが自らの興奮を収めるように、息を次ぐ。

 26匹の“死肉喰らい”の死体が累々と横たわっていた。周囲には血の匂いが充満する。

 シロはそこらへんに転がっている二匹を結界外の藪に放り込むとそこに潜っていく。

 どうやらそこでお食事タイムにするらしい。

 しばらくするとゴリッバキッと音がする。


「キマイラの死体を回収しろ。急げ!」

 と指示した。

「シロ様が怒るのでは?」

「ニ匹持っていったということはそれで満足なんだろうよ。後は良きに計らえということだ。」

 縄張り争いをしたキマイラとは別に、“死肉喰らい”はエサだ。人と違っ動物は乱獲をしない。腹を満たすだけの量が確保できれば良いのだ。“死肉喰らい”は最後まで逃げることなくシロに向かってきたので殲滅された。戦意を失って逃走すればシロは追うことはしなかっただろう。

 沙耶のように戦うことや殺すことに躊躇するのに比べたら、実にシンプルでわかりやすい。


シロ、圧勝です。

銀色形態の時は防御力も上がりますのでカスリ傷程度です

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