晩餐会
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三日間でだけで全てを決めることはできない。
空中分解しないように、空中分解した時にはその責を追求しやすいように各国の意志を統一しましたよ~という声明が必要になる。
これは沙耶がいた世界でも同じことだ。どの国にも有利に働かないように極力言い回しに気をつけて、共同声明を出す。そして国に帰って自分はこういう成果を上げてきました!というアピールをするわけだ。
元首たちの並び順も取りざたされる。アメリカと仲が良かった時には大国アメリカが隣に引き連れてきてくれて真ん中辺りに陣取れた時もあったが、日本は大体が端のほうだ。
沙耶は写真の写りが宜しくないどころか、誰これ?というぐらい反フォトジェニックだったので、写真というものにはあまり写りたがらなかった。学校の行事や修学旅行でも写っているところが少なく、安く済んだものだった。
・・・・・
思いっきりどうでもいいことに話がそれた。
今回の五大国会議の主導権は、毎度のことながらエステリオ王国が取っていたので、必然的に中央で共同声明を読み上げ、調印するのは、エステリオ国王の役目となる。
柔らかい笑みを浮かべ、心地よい声で読み上げるエステリオ国王、その左には身幅を二人分とっている鯨ーもといガランティアの女帝、右にはシュッとした体躯のティルルと対照的だ。ティルルの隣は機嫌の悪そうなマッシュールの国王。ガランティアの女帝の隣は窮屈そうな影の薄いメドーの公主が並んでいる。
席次的には後ろから二番目の帝国が中央に立っているのはこの会議の成果と言って良い。
沙耶の世界のように、マスメディアが報道するわけではないが、そこにいるものが目にすることで、ラーヴェラル帝国は危機的状態から脱したことをアピールできるのだ。
会議での成果も然ることながら、帝国にとっては今回の五大国会議は成功だったと言っていいだろう。
残すは晩餐会のみ。
ぶっちゃけて言えば、新教皇の思いつきから始まっており、事前の下準備もわずかに二日程度とやっつけ仕事で付け足し感が否めない。共同声明を出したあとなので、元首たちにはもう特段するべき事もなく、ややもすると一部では気の抜けたものになりがちだ。
沙耶はその一部以外に入る。
エステリオ王国の戦神子は、『手伝うことで、ラーヴェラル帝国も領土内にキマイラが出ないようには出来ると思うよ』と言っていたが、では何を『手伝う』のかは、『晩餐会の時に皇帝と一緒の時に話すよ。』と言って教えてくれなかった。
身支度を整えている間もそれが気になる。シロが関わることになりそうなのは予想がつく。
おまけに晩餐会の席次の通達が・・・・・
新教皇の隣・・・
出席者が妻帯者を連れてこないので、出席者で女性はエリドゥ帝国の女帝か沙耶になる。声明の時の並びを見ていれば、教皇が沙耶を隣に指名したといっても頷けるだろう。新教皇に対し気遣った結果かもしれない。
「サヤ。具合でも悪いのか?」
ティルルが顔を覗き込んでくる。三日間ずっと緊張状態が続いているので体調が崩れても無理はない。
「大丈夫。」
頑張って笑っているのがわかる。サヤを早々に退出させてやりたいがエステリオ王国の戦神子の話が気になるのでそうもできない。
「明日は馬車の中で寝っ転がろうが、ネット三昧しようが構わないぞ。」
「ありがとう。少し元気になった。」
(安いぞ、私。だから“都合のよい女”扱いされたのだよね。)
散々“良い人だけど恋愛対象として見られない”という定番の断り文句を言われる側に立っていた身を思い出す。
(気が重い時の呪文でも唱えておくか。)
『明日はすぐにやってくる』
これは 今日やれることはやっておけよ なんていう意味ではない!
大ッ嫌いな持久走大会の日、朝これを唱える。
明日の今頃はもう終わっているのだ。
歯医者で歯を抜くときも
明日にはもう抜かれているのだ
など、『今だけ耐えろ』と自分に言い聞かすためのものである。
「そろそろ行くぞ」
「よいしょっと。」
こういって立ち上がる。
・・・誠に残念な美女であった。
☆
聖都内の警備は国教会騎士団が行うので、各国の騎士の立ち入りは人数制限される。
この会場には各国一名しか入室できない。
これはかつて国教会を支配下に置こうとした国家(連合国家に殲滅され解体された以前の7大国の一つ)があったためである。
ラールヴェル帝国以外の国家の騎士は純血種の騎士だ。『体臭』で判る。
カルガーイは会場を見回す。
皇帝陛下はメドー公国の戦神子とエリドゥ帝国の女帝にはさまれて座っている。ガッチリとした体躯の男とこれまたでっぷりとした年増に挟まれて、空気さえ薄くなりそうな窮屈さの中にいる。
沙耶は、紅一点(女帝ガランティアは故意に除く)なので新教皇の側で脇も枢機卿だ。
女っけの少ないマエール国教会の者たちの生贄状態だ。
いつもの生彩がなく、笑顔が張り付いている。
昔は、戦神子というものは威張りちらしわがままな者と思っていたし、事実そうだった。今はなれぬ世界に放り込まれ、有無をも言わずにこき使われ、慣習に振り回される気の毒な存在という位置に落ち着いてしまった。これも沙耶の側で愚痴やらボヤキやらを聞かされているからだ。
あの神子がぼやくことは、『身の程以上の待遇』に対する愚痴が主で、『自分の負わされた』役割ではない。
(明日たっぷりと聞いてあげます。)
沙耶のこわばった笑顔から視線を外す。
カルガーイには気になっていることがある。
(一人いるな。)
カルガーイの研ぎ澄まされた嗅覚が、“不明”と認識している『体臭』がある。
(この『体臭』には覚えがある。)
過去に嗅いだことのある『体臭』を脳内検索する。
(あの親子の体臭に似ている。まさか“生死与奪”の能力持ちか?)
それをおいても消身でこの会場に来ていることは確かだ。
もし自分があの親子にあっていなくて『体臭』を嗅いだことがなければ、わからなかったほどの微かな匂いだ。
(どの国の間者なのだろうか。)
あの親子の同族が見つかったと喜んではいられないのは、キンヨンダの能力の怖さとキンヨンダの種族の迫害の歴史は知られているところだからである。
主が動けば反応するかもしれないと思いカルガーイはその『体臭』の持ち主に感覚を集中させる。
☆
食事が終わっても開放してくれる気配がない、有頂天(沙耶が見ても)な新教皇のもとにティルルがやってくる。
「ご歓談中申し訳ない。我が国の戦神子にマエール国教会の庭園のすばらしさを見せたいので、連れて行ってもよろしいでしょうか?」
「そ、そうか。」
「では、失礼いたします。聖下と親しく言葉を交わしていただいたことは、帝国に帰り皆に自慢できる土産話になりました。礼儀もわきまえない田舎者の戦神子である私にかけていただいたご厚情、深く御礼申し上げます。」
沙耶はセエル持込の会心のお辞儀をしてティルルに手を取られて立ち去る。
「サヤ、お前太鼓持ちがうまいな。」
ティルルがさらりと言う。ちょっと言葉にトゲが出ているような気がする。
「この世界で一番偉いのでしょう?言葉だけでなんとかなるものならどうとでも。向こうでも職場の飲み会で上司に合わせることなど日常茶飯事のこと。心にもないことだってツルツル出るよ。元OLさんを舐めないでよね。」
「そんなに得意なら、接待は任そうか?」
「い、いいいやそれは、勘弁。」
慌てて手にすがりつくように言うと、ティルルはふふんっと軽く笑った。
「ラーヴェラル帝国の『冷血皇帝』が笑っておられる顔を見られるとは貴重ですね。」
庭園の暗がりから、月の使者のようなエステリオの戦神子シンが現れる。
「そう言われるほど私は、神子殿にお会いしたことはないと思うが?」
「サヤも一段と美しい装いですね。」
シンはさらりと流す。
沙耶は、急な昼食会や晩餐会なので予備のドレスがなくなって、苦肉の策で昼食会のドレスのリメイクしたものを来ている。セリーンが今まで隠されていた能力を使って(固有能力ではありません)全く違ったドレスを作り上げた。セリーンは出かける頃には真っ白な灰になっていた。
セリーンの渾身の作品は大胆にドレスをカットしワンショルダーにして斜めに華のあしらいをしてスッキリと仕上げている。晩餐会なので上半身が食事に邪魔にならないようにしかもテーブルでは上半身しか見えないのでさみしすぎないように、絶妙のさじ加減のデザインだ。
沙耶はハサミを入れているところを見た時ムンクの叫びのようなポーズをとったが、できたものを来た時にはセリーンに
「これから着るドレスのデザイン全部して欲しい」
と言わせるほどの出来だった。
「ありがとうございます。」
沙耶はセリーンのデザインが褒められたのでとても嬉しかったので、得丸の笑顔だ。
脇のティルルは、『冷血皇帝』の異名通りの無表情になる。
「本題に入りたいのだが?」
「そうですね。ではこちらで話しましょう。」
庭園の中にテーブルと椅子が置かれている。回りには何もなく開けた場所だ。
「『おとの呪紋』を施していますのでここでの内容は聞かれません。」
そう言いながら席を勧めるエステリオの戦神子に
「そうか、だがもう一つ。」
そう言うとティルルはテーブルに指で呪紋を書く。
「これで、唇を読まれることもない。」
「ありがとうございます。では本題に入りましょうか。『白き守護獣』に『種子』を付けさせてください。」
「『種子』?」
「皇帝陛下は私の能力を『召喚能力』だと思っていたのでしたね。」
そう言って自分の能力を説明する。
「その『種子』をつければシロがどの経路を辿ってスベルトや国境に行くのか判るということか。」
「そうです。シロ猫くんがキマイラをどのように捕食するかもわかります。こちらが『気脈』を逆に移動する方法も見つけられる可能性もある。」
その利点は計り知れない。
「だが、エステリオ王国の戦神子『冷徹なる宣告者』しか見られないのであればシロにつける利点は貴国だけのもので、シロや我が国の機密が筒抜けになる。」
「そこで私はラーヴェラル帝国に一番近いところに行くことにします。その方がよく見えるので。その場にサヤやラーヴェラル帝国の方々に居てもらって一緒に見るというのはいかがです?」
「それでは逆に貴国のメリットがない。」
「キマイラのことを少しでも知っておきたいのです。前の『ポロロッカ』から40年以上経っている。そろそろ動きがあってもおかしくない。予兆があれば見逃したくない。自分が生き残るために。」
「『ポロロッカ』か」
「『ポロロッカ』って何?・・・ですか?」
「『ポロロッカ』というのは50年位に一度の割合でキマイラが大量発生する時期のことを言うのです。」
意味はわかった。メリットも判る。
だが沙耶は二人を見ていった。
「私は反対です。シロに『種子』みたいな得体の知れないものを『とりつかせる』のは」
ティルルも傾きかけた天秤が戻る。
「そうだな。『冷徹なる宣告者』の異名からして『種子』には見るだけではない何かがあると考えるべきだろう。」
「確かにね。胡散臭いかもしれないね。」
シンも同意する。
「シロ猫くんには害を与えないよ。信じてもらうしかない。」
「信じる信じないの問題ではありません。シロの身にそのようなものを付けさせること自体が受け入れられません。」
(シロは私が守る)
「困ったな。ラーヴェラル皇帝陛下はいかがです?貴国の戦神子サヤには害のない話で、メリットは計り知れないほどある。サヤも考えてご覧、今シロが何をしているかわからないいのだよ?怪我を負ったとわかれば助けに行ける。」
確かに心配なことは心配だ。
ギイルたちは『サヤ様より強いですよ』と笑っていうが、沙耶にとってはどんなに強くなろうが可愛い愛猫だ。
沙耶が考える様子を見せたので、シンは重ねていう。
「『冷徹なる宣告者』という異名は、私が見たものをもとにして国内を粛清したことに端を発している。メドー公国の戦神子のようにのぞき見していたわけだが、見ていることを秘匿して弾劾したので宣告者と呼ばれたに過ぎない。」
「そうだとしてもシロに『種子』を寄生させるなんて論外です。」
「だが、見たい。皇帝陛下はそうでしょう?」
「魅力的な提案だが、シロを危険にさらす可能性がある限り頷くことはない。」
「二人共一緒か。もっと皇帝陛下は冷静に計算できると思っていたのですけどね。」
「・・・・」
「聞いていいですか?」
「どうぞ?」
「シロと一緒に例えば私が行くとして、私に『種子』を寄生させれば同じものを見ますよね?」
「サヤ!」
「例えばの話。」
「出来ますよ。でもそれは皇帝陛下が縦に振らないでしょう。」
「『種子』寄生させるのは無機物もアリですか?」
「生物オンリー。」
「生物は生きている必要が有りますか?」
「ある。」
シンはやや面白そうに返事をする。
ティルルも黙っている。
「目がある必要は有りますか?」
「ない。」
「植物でも?」
「国境の楔とともに植えた『種子』は樹木に寄生して『目』の役割はしているよ。」
「ならばエステリオ王国の戦神子様「アルーンって呼んでって言わなかったっけ?」・・・シンに種に『種子』を寄生させて、その種をシロに持たせるということではダメですか?」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・試してみる?」
「はい。」
やっと会議が終わった・・・
次回『シロの冒険』




